「鶏の声が聞こえ、空が白み始める『あした』、人々は新たな一日を迎えるように、この言葉は朝の始まりや、前日から続く物語の翌朝を表します」
📖 意味と用法
あした(朝) は、名詞で、「朝」を意味する古文単語です。現代語の「あした(明日)」とは意味が異なり、古文では主に「朝」そのものを指します。文脈によっては「翌朝」の意味で用いられることもあります。
- 【朝・早朝】朝、早朝、夜が明けて間もない頃: 一日の始まりの時間帯を指します。現代語の「朝」に最も近い意味です。「つとめて」よりもやや広い範囲の朝を指すことがあります。
- 【翌朝】(前日に何か出来事があった場合の)次の日の朝、翌朝: 前の日に特定の出来事があり、その次の日の朝を指す場合に用いられます。物語の場面転換などでよく見られます。
朝、早朝、翌朝がキーワードです。現代語の「明日」と混同しないように注意が必要です。文脈から、単なる朝なのか、何か出来事のあった次の日の朝なのかを判断します。
朝・早朝 の例
あしたより雨降りて、今日は物詣でせず。(蜻蛉日記)
(朝から雨が降って、今日は寺社へのお参りをしない。)
翌朝 の例
昨日は宴ありて、そのあしたは皆疲れたり。(源氏物語)
(昨日は宴会があって、その翌朝は皆疲れていた。)
朝の情景の例
あしたの露、日に向ひて消えやすし。(方丈記)
(朝の露は、日に当たって消えやすい。)
🕰️ 語源と歴史
「あした(朝)」の語源は、「夜(よ)明(あ)けしだ(際)」が変化したもの、「明時(あかしとき)」の約、「朝の戸(あさのと)」から転じたなど諸説あります。「明(あ)く」という言葉と関連が深いと考えられています。
古くは夜明けからしばらくの間を指す言葉として用いられ、「つとめて(早朝)」「あけぼの(夜明け方)」などと共に朝の時間を表す語として区別されていました。「つとめて」が夜がまだ明けきらない早朝を指すのに対し、「あした」はそれよりやや後の、活動が始まる頃の朝を指す傾向がありました。
また、前日に何か出来事があった場合、その「次の日の朝」つまり「翌朝」という意味でも頻繁に用いられました。この用法は、物語の時間の経過を示す上で重要な役割を果たしました。現代語では「あした」は「明日」を意味しますが、この意味変化は中世以降に起こったもので、古文では基本的に「朝」または「翌朝」と解釈します。
📝 品詞と関連語
「あした」の品詞
品詞 | 説明 |
---|---|
名詞 | 「朝・早朝」または「翌朝」の意味で用いられる。活用はしない。「あしたに」「あしたより」などの形で使われる。 |
※副詞的に用いられることもありますが、基本的には時間を表す名詞として扱われます。
関連語
- つとめて (名詞・副詞) – 早朝、翌朝。
冬はつとめて。
- あけぼの(曙) (名詞) – 夜がほのぼのと明け始める頃。
春はあけぼの。
- しののめ(東雲) (名詞) – 東の空が白み始める頃、夜明け方。
しののめの空明るみて。
🔄 類義語
朝・早朝
翌朝
↔️ 反対の概念
「あした」が「朝」や「翌朝」を指すため、反対の概念としては「夕方」「夜」「前日」などが考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
あしたの間に、とく起きなむ。(枕草子)
【訳】朝の間に、早く起きよう。
夜さり帰り給ひて、あしたには文を遣はしけり。(源氏物語)
【訳】夜になってお帰りになって、翌朝には手紙をお送りになった。
あしたの日の光、まばゆくさし入る。(更級日記)
【訳】朝の日差しが、まぶしく差し込む。
昨日の雨は止みて、あしたは晴れたり。(蜻蛉日記)
【訳】昨日の雨は止んで、翌朝は晴れていた。
あしたに起きて、庭を掃き清む。(徒然草)
【訳】朝早くに起きて、庭を掃き清める。
📝 練習問題
傍線部の「あした」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 昨日の夜は月も出でざりしかど、あしたには晴れにけり。
解説:
「昨日の夜は」という記述に続くので、「あした」は「次の日の朝」つまり「翌朝」を指します。
2. あしたに鳥の声するは、いとをかし。
解説:
時間帯を指しており、文脈から「朝に」鳥の声がするのは趣深い、という意味です。
3. 男、女の家に泊まりて、あしたに門より出づ。
解説:
男が女の家に泊まった後の朝を指しているので、「翌朝に」が適切です。
4. あしたごとに仏を拝み奉る。
解説:
「~ごとに」とあるので、繰り返される朝を指します。「毎朝」が適切です。
5. 夜の間に雨降りければ、あしたの道悪し。
解説:
夜の間に雨が降った後の朝の道を指しているので、「翌朝の」が適切です。