ひがひがし (形容詞・シク活用)

①ひねくれている・素直でない・心がねじけている ②普通ではない・風変わりだ・道理に外れている ③見苦しい・聞き苦しい

人の性質や言動が素直でなく、ねじけていたり、道理から外れていたりするさま。多くの場合、否定的な評価を伴う。

「人の忠告を『ひがひがしく』受け取り、かえって反発する人のように、この言葉は素直でない心や道理に外れた様を表します」

📖 意味と用法

ひがひがし は、シク活用の形容詞で、物事や人の性質が正しくない、道理から外れている、素直でないといった状態を表す重要な古文単語です。「僻僻し」と漢字で書かれることもあり、「ひが(僻)」が「曲がっている」「正しくない」という意味を持つことから派生しています。

  1. 【偏屈・不正直】ひねくれている、素直でない、心がねじけている、強情だ: 人の性格や態度が素直でなく、偏屈であったり、わざと道理に逆らうような場合に使われます。
  2. 【異常・非常識】普通ではない、風変わりだ、道理に外れている、常軌を逸している: 物事のあり方や人の言動が一般的でなく、常識から外れているさまを表します。
  3. 【見苦しい・聞き苦しい】見苦しい、聞き苦しい、みっともない: 上記のような性質や言動が、他者から見て不快であったり、体裁が悪かったりするさまを示します。

ひねくれている、道理に反する、見苦しいがキーワードです。多くの場合、否定的な評価や非難のニュアンスを含みます。

ひねくれている の例

ひがひがしきこころにて、ひとことまともにまともに聞かきかず。(源氏物語)

(ひねくれた心で、人の言葉を素直に聞かない。)

道理に外れている の例

かかるひがひがしきならひならひこそなげかはしけれ。(方丈記)

(このような道理に外れた世の慣わしは嘆かわしいことだ。)

見苦しい の例

人前ひとまへにてひがひがしきひをするな。(徒然草)

(人前で見苦しい振る舞いをするな。)

🕰️ 語源と歴史

「ひがひがし」の語源は、「ひが(僻)」という言葉に由来します。「ひが」は、物事が正しい道筋から外れていること、ねじ曲がっていること、道理に合わないことを意味します。この「ひが」を重ねて強調し、状態を表す形容詞の語尾「し」を付けたのが「ひがひがし」です。

したがって、「ひがひがし」は「非常に正しくない」「ひどくねじけている」といった強い否定的な意味合いを持つようになりました。人の性格や言動が素直でなかったり、常識から逸脱していたりする様子、またそのような状態が見苦しいと感じられる場合に使われます。

平安時代から見られる言葉で、特に人の内面や行動に対する批判的な評価として用いられました。「ひが事」「ひが心」「ひが目」など、「ひが」を含む言葉は、いずれも正常ではない、歪んだ状態を指すものが多くあります。

📝 活用形と派生語

「ひがひがし」の活用(形容詞シク活用)

活用形 語形 接続
未然形 ひがひがしく (あら)ず
連用形 ひがひがしく て、なり、他の用言
連用形(音便) ひがひがしう て、ござる
終止形 ひがひがし 言い切り
連体形 ひがひがしき 体言、こと、の
已然形 ひがひがしけれ ば、ども
命令形 (ひがひがしかれ) (まれ)

※連用形「ひがひがしう」はウ音便化した形です。

派生語・関連語

  • ひがひがしさ (名詞) – ひねくれていること、風変わりなこと、道理に外れていること。
    そのひがひがしさひとちかづかず。
  • ひがむ(僻む) (動詞マ行四段) – ひねくれる、ねじけて解釈する、嫉妬する。
    ひと好意かういひがみる。
  • ひがこと(僻事) (名詞) – 間違い、道理に外れたこと、悪事。
    ひがことこのもの。(徒然草)

🔄 類義語

ひねくれている・素直でない

かたくななり
ねぢけたり
こころづよし
えこじなり

普通ではない・道理に外れている

ことなり(異なり)
あやし
けしからず
よこしまなり

見苦しい・聞き苦しい

みぐるし
かたはらいたし
むつかし

↔️ 反対の概念

「ひがひがし」が「ひねくれている」「道理に外れている」ことを示すため、反対の概念としては「素直である」「道理にかなっている」「整っている」といった状態が考えられます。

すなおなり(素直なり)
ただし(正し)
ことわりなり(理なり)
うるはし (整っていて美しい)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

としごろこころなやましけるおんなの、ひがひがしくあらあらざりければ、こころやすし。(源氏物語・夕顔)

【訳】長年心を悩ませていた女が、ひねくれてもいなかったので、安心だ。

意味: ① ひねくれている・素直でない
2

ひがひがしきこころいましめていましめてひとうへふべからず。(徒然草)

【訳】ねじけた心を戒めて、他人のことをあれこれ言うべきではない。

意味: ① ひねくれている・心がねじけている
3

なか有様ありさまひがひがしうのみなりゆくをては、(鴨長明・発心集)

【訳】世の中のありさまが、道理に外れてばかりになっていくのを見ては、

意味: ② 普通ではない・道理に外れている
4

いたくいたくひがひがしきこゑにてものふも、ひとにくところなり。(枕草子)

【訳】ひどく聞き苦しい声で物を言うのも、人が憎むところである。

意味: ③ 聞き苦しい
5

ひと欠点けってんあげつらふあげつらふは、ひがひがしきわざわざなり。

【訳】人の欠点をあれこれ言い立てるのは、見苦しい(または、心がねじけている)行いである。

意味: ③ 見苦しい / ① ひねくれている

📝 練習問題

傍線部の「ひがひがし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 老人らうじんひがひがしき僻事ひがごととがむるなかれ。

ひねくれた
素直な
賢い
優しい

解説:

老人の「僻事(間違い、道理に外れたこと)」を修飾しているので、「ひねくれた」または「道理に外れた」が適切です。ここでは選択肢から「ひねくれた」を選びます。

2. もの道理だうりわきまへわきまへひがひがしき言ひいひぶんなり。

素直な
見苦しい
道理に外れた
美しい

解説:

「物の道理をわきまへぬ」という説明から、その言い分が「道理に外れた」ものであることがわかります。

3. ひと悪口わるくちばかりふは、げにひがひがし

素直だ
道理に合っている
心がねじけている(見苦しい)
賢明だ

解説:

他人の悪口ばかり言うのは、本当に心がねじけていて見苦しい、という意味です。「心がねじけている(見苦しい)」が適切です。

4. わざとひがひがしき真似まねをしてひとこまらす。

素直な
風変わりな(ひねくれた)
普通の
正しい

解説:

わざと普通ではない(ひねくれた)真似をして人を困らせる、という意味です。「風変わりな(ひねくれた)」が適切です。

5. そのうたこころばへ、いささかひがひがしきところあり。

素直な
美しい
道理に外れた(風変わりな)
平凡な

解説:

その歌の趣意には、少し道理に外れた(風変わりな、または素直でない)ところがある、という意味です。「道理に外れた(風変わりな)」が適切です。