ほい (名詞)

①本来の志・かねてからの願い・宿願 ②真意・本当の気持ち

人が心の中に持っている本来の目的や、長年抱き続けてきた願い。また、表面的な言葉や行動の裏にある本当の意図。

「長年の夢であった出家を遂げ、ようやく『ほい』を遂げたと喜ぶように、この言葉は心からの願いや真の目的を表します」

📖 意味と用法

ほい(本意) は、名詞で、人が心の中に抱いている本来の目的や、かねてからの願い、また表面には出さない本当の気持ちを指す重要な古文単語です。「ほんい」と読むこともあります。

  1. 【本来の志・宿願】本来の志、かねてからの願い、宿願、本来の目的: 人が以前から心に抱き続け、実現を願っている主要な目的や望みを指します。特に、出家や特定の目標達成など、人生における大きな願いについて使われることが多いです。「ほいを遂ぐ(とぐ)」「ほいなし(本意無し=不本意だ)」などの形でよく用いられます。
  2. 【真意・本心】真意、本当の気持ち、本心: 言葉や行動の裏に隠された、その人の本当の考えや感情を指します。

本来の願い、宿願、真意、本心がキーワードです。人の内面にある深く強い思いを表す言葉です。

本来の志・宿願 の例

なが出家しゆつけほいありて、つひにつひにねがひをたしつ。(徒然草)

(長年出家したいという本来の願いがあって、とうとうその願いを成し遂げた。)

真意・本心 の例

言葉ことばかざれども、ほいべつにありけむ。(源氏物語)

(言葉は飾っているけれども、本当の気持ちは別にあったのだろう。)

「ほいなし」の例

かかるかかる結果けつくわになるとは、いとほいなし。(平家物語)

(このような結果になるとは、たいそう不本意だ。)

🕰️ 語源と歴史

「ほい(本意)」は、文字通り「本来の意図」や「もとからの考え」を意味する漢語「本意(ほんい)」が和語化したものです。「本」は「もと」「根本」、「意」は「思い」「考え」を指します。

古くは「ほんい」と音読みされることもありましたが、次第に「ほい」という和語の読みが定着しました。人が心に秘めた真の目的や、長年にわたって抱き続けてきた強い願いを表す言葉として、特に個人の生き方や決断が重視される文脈で用いられました。

出家遁世や特定の目的を達成することなど、人生の大きな転機や目標に関連して使われることが多く、その願いが叶うことを「ほいを遂ぐ」、叶わないことを「ほいなし」と表現しました。『源氏物語』や『平家物語』、『徒然草』など、多くの古典文学作品で重要なキーワードとして登場します。

📝 品詞と関連表現

「ほい」の品詞

品詞 説明
名詞 「本来の志」「かねてからの願い」「真意」などの意味で用いられる。活用はしない。

※「ほいなし(本意無し)」はク活用の形容詞、「ほいとぐ(本意遂ぐ)」はガ行下二段活用の動詞など、他の語と複合して使われることが多いです。

関連表現

  • ほいなし(本意無し) (形容詞ク活用) – 不本意だ、残念だ、期待外れだ。
    かくてむとは、いとほいなし
  • ほいとぐ(本意遂ぐ) (動詞ガ行下二段) – 本来の願いを達成する、宿願を果たす。
    長年ながねんほいを遂げ満足まんぞくす。
  • ほいあり (動詞ラ行変格) – 本来の目的がある、深い考えがある。
    その言葉ことばにはほいありげなり。

🔄 類義語

本来の志・宿願

宿願(しゅくがん)
本望(ほんもう)
素懐(そかい)
こころざし(志)

真意・本心

真意(しんい)
本心(ほんしん)
こころ(心)

↔️ 反対の概念

「ほい(本意)」が「本来の願い」「真意」を示すため、反対の概念としては「不本意」「表面的なこと」「偽り」などが考えられます。

ほいなし(本意無し) (不本意だ)
うはべ(上辺) (表面)
いつはり(偽り)
かりそめ(仮初め) (一時的なこと)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

てむとこそおもさだめしか、これぞほいなりける。(源氏物語)

【訳】俗世を捨てようと心に決めていたが、これこそが本来の願いであったのだ。

意味: ① 本来の志・宿願
2

あまになりてのち年来としごろほいとげとげぬるをよろこびけり。(更級日記)

【訳】尼になった後、長年の宿願を達成したことを喜んだ。

意味: ① かねてからの願い・宿願
3

言葉ことばにはでねど、ほいさっしてこたふ。(枕草子)

【訳】言葉には出さないけれど、真意を察して答える。

意味: ② 真意・本当の気持ち
4

かかるるはほいならねど、いませんかたなしせんかたなし。(平家物語)

【訳】このようなつらい目にあうのは不本意であるが、今はどうしようもない。

意味: ① 本来の志(「ほいならねど」で不本意)
5

みやこかへらむことこそ、まことまことほいなれ。(土佐日記)

【訳】都へ帰ることが、本当の(かねてからの)願いである。

意味: ① 本来の志・かねてからの願い

📝 練習問題

傍線部の「ほい」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 出家しゅっけほいふかかりしかど、いまたさず。

本来の願い
真意
不本意
興味

解説:

出家したいというかねてからの願いが深かったが、まだ達成していない、という意味です。「本来の願い」または「宿願」が適切です。

2. 言葉ことばやさしけれど、ほいりがたし。

宿願
本当の気持ち
目的
不満

解説:

言葉は優しいけれども、その裏にある本当の気持ちは分かりにくい、という意味です。「本当の気持ち」または「真意」が適切です。

3. かかるかかる生活せいかつほいにあらず。

真意
関心
本来の望み
習慣

解説:

このような生活は私の本来望んでいたものではない(不本意だ)、という意味です。「本来の望み」が適切です。

4. 年月としつきて、ようやくほいげける。

真意
本心
かねてからの願い
不満

解説:

長い年月を経て、ようやくかねてからの願いを達成した、という意味です。「ほいを遂ぐ」の形で使われています。「かねてからの願い」が適切です。

5. 言葉ことばほいただす。

真意
宿願
目的
不本意

解説:

その言葉の本当の意味を問い質す、という意味です。「真意」が適切です。