「日々の務めに『まめやかに』励む人のように、この言葉は真摯な態度や実質的なあり方を表します」
📖 意味と用法
まめやかなり は、ナリ活用の形容動詞で、「誠実だ」「実用的だ」「本格的だ」といった、真面目で実質を伴うさまを表す重要な古文単語です。「忠実なり」と書かれることもあります。対義語である「あだなり(はかない、不誠実だ)」と比較すると理解しやすい言葉です。
- 【誠実・真面目】誠実だ、真面目だ、実直だ、本気だ: 人の性格や態度が真剣で、真心がこもっているさまを表します。浮ついたところがなく、実意のある様子です。
- 【実用的・本格的】実用的だ、本格的だ、実際の役に立つ、本式だ: 物事が一時的なものではなく、しっかりとしていて実生活の役に立つさま、または本格的なものであるさまを表します。
- 【熱心・本格的】熱心だ、本格的だ、真剣だ: 物事に真剣に取り組み、本格的に行うさまを表します。
誠実、真面目、実用的、本格的、真心がキーワードです。うわべだけではない、実質的な価値や真剣さを肯定的に評価する際に用いられます。
誠実だ・真面目だ の例
まめやかなる心ざしを見す。(源氏物語)
(誠実な真心を示す。)
実用的だ・本格的だ の例
まめやかなる調度を選ぶ。(徒然草)
(実用的な調度品を選ぶ。)
熱心だ・本格的だ の例
まめやかに学問に励む。(今昔物語集)
(熱心に学問に励む。)
🕰️ 語源と歴史
「まめやかなり」は、名詞「まめ(真面・実)」に、状態を表す接尾語「やか」と形容動詞の語尾「なり」が付いたものです。「まめ」は、「誠実」「実直」「本気」「実用」といった意味を持つ重要な古語です。
「まめやか」という形になることで、「まめ」の状態がよりはっきりしている、顕著であるというニュアンスが加わります。したがって、「まめやかなり」は、人の態度や性格が真面目で誠実であること、物事が一時的な遊びや見せかけではなく、本格的で実用性があることなどを強調して表します。
平安時代から、人の評価や物事の性質を述べる際に用いられました。「あだなり(はかない、不誠実だ、実質がない)」とは対照的な意味合いを持ち、堅実さや真摯さを重んじる価値観を反映した言葉と言えます。
📝 活用形と派生語
「まめやかなり」の活用(形容動詞ナリ活用)
活用形 | 語形 | 接続例 |
---|---|---|
未然形 | まめやかなら | ず |
連用形 | まめやかなり / まめやかに | て、けり、他の用言 |
終止形 | まめやかなり | 言い切り |
連体形 | まめやかなる | 時、人、こと |
已然形 | まめやかなれ | ば、ども |
命令形 | (まめやかなれ) | (まれ) |
※連用形「まめやかに」は副詞としても用いられます。
関連語
- まめ(真面・実) (名詞・形容動詞ナリ活用) – 誠実、真面目、実用的、本気。形容動詞「まめなり」もある。
まめなる人こそ頼もしけれ。(徒然草)
(誠実な人こそ頼もしいものだ。) - まめまめし (形容詞シク活用) – 真面目くさっている、実用的である、本格的である。
まめまめしき心地して物言ふ。(源氏物語)
(真面目くさった気持ちで物を言う。)
🔄 類義語
誠実だ・真面目だ
実用的だ・本格的だ
熱心だ
↔️ 反対の概念
「まめやかなり」が「誠実・実用的・本格的」であることを示すため、反対の概念としては「不誠実・はかない・遊びである」「実用的でない」「一時的である」といった状態が考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
人の心のまめやかなるは、頼もしき事なり。(徒然草)
【訳】人の心が誠実であるのは、頼もしいことである。
まめやかに用に立つべきものをこそ選ぶべけれ。(源氏物語)
【訳】実用的に役に立つはずのものを選ぶべきである。
ただ一すぢにまめやかに思ひ定めて、(今昔物語集)
【訳】ただひたすら真剣に(本気で)思い定めて、
遊びは好まず、まめやかなる方を重んず。(大鏡)
【訳】遊びは好まず、実質的な(真面目な)方面を重んじる。
まめやかに書きたる手紙こそ、心深けれ。
【訳】心を込めて(丁寧に)書いた手紙こそ、趣が深いものだ。
📝 練習問題
傍線部の「まめやかなり」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 女の心のまめやかならむには、男もあだなる心は持たじ。
解説:
女の心が誠実であるならば、男も浮気な心は持たないだろう、という意味です。ここでは人の心のあり方を指しているので「誠実である」が適切です。
2. これはまめやかなる文にて、戯れ言にはあらず。
解説:
これは本気の手紙であって、冗談ではない、という意味です。「本格的な(本気な)」が適切です。「実用的な」という意味も近いですが、文脈から「本気」のニュアンスが強いです。
3. ただまめやかに仏を念じ奉るべし。
解説:
ただひたすら熱心に(一心に)仏を念じ申し上げなさい、という意味です。「熱心に(一心に)」が適切です。
4. 宮仕への方は、いとまめやかなる人ぞありける。
解説:
宮仕えをしている人の中には、たいそう真面目な人がいた、という意味です。「真面目な」が適切です。「誠実な」も近い意味です。
5. あだなる恋にはあらで、まめやかなる御心なりけり。
解説:
はかない恋ではなく、誠実な(本気な)お心であった、という意味です。恋愛の文脈での「まめやかなり」は、相手への真剣な気持ちを表します。「誠実な(本気な)」が適切です。