まめやかなり (形容動詞・ナリ活用)

①誠実だ・真面目だ ②実用的だ・本格的だ ③熱心だ・本格的だ

うわべだけでなく、中身が充実していて真剣であるさま。人の態度や物事のあり方が本格的で誠実であることを表す。

「日々の務めに『まめやかに』励む人のように、この言葉は真摯な態度や実質的なあり方を表します」

📖 意味と用法

まめやかなり は、ナリ活用の形容動詞で、「誠実だ」「実用的だ」「本格的だ」といった、真面目で実質を伴うさまを表す重要な古文単語です。「忠実なり」と書かれることもあります。対義語である「あだなり(はかない、不誠実だ)」と比較すると理解しやすい言葉です。

  1. 【誠実・真面目】誠実だ、真面目だ、実直だ、本気だ: 人の性格や態度が真剣で、真心がこもっているさまを表します。浮ついたところがなく、実意のある様子です。
  2. 【実用的・本格的】実用的だ、本格的だ、実際の役に立つ、本式だ: 物事が一時的なものではなく、しっかりとしていて実生活の役に立つさま、または本格的なものであるさまを表します。
  3. 【熱心・本格的】熱心だ、本格的だ、真剣だ: 物事に真剣に取り組み、本格的に行うさまを表します。

誠実、真面目、実用的、本格的、真心がキーワードです。うわべだけではない、実質的な価値や真剣さを肯定的に評価する際に用いられます。

誠実だ・真面目だ の例

まめやかなるこころざしをす。(源氏物語)

(誠実な真心を示す。)

実用的だ・本格的だ の例

まめやかなる調度てうどえらぶ。(徒然草)

(実用的な調度品を選ぶ。)

熱心だ・本格的だ の例

まめやかに学問がくもんはげむ。(今昔物語集)

(熱心に学問に励む。)

🕰️ 語源と歴史

「まめやかなり」は、名詞「まめ(真面・実)」に、状態を表す接尾語「やか」と形容動詞の語尾「なり」が付いたものです。「まめ」は、「誠実」「実直」「本気」「実用」といった意味を持つ重要な古語です。

「まめやか」という形になることで、「まめ」の状態がよりはっきりしている、顕著であるというニュアンスが加わります。したがって、「まめやかなり」は、人の態度や性格が真面目で誠実であること、物事が一時的な遊びや見せかけではなく、本格的で実用性があることなどを強調して表します。

平安時代から、人の評価や物事の性質を述べる際に用いられました。「あだなり(はかない、不誠実だ、実質がない)」とは対照的な意味合いを持ち、堅実さや真摯さを重んじる価値観を反映した言葉と言えます。

📝 活用形と派生語

「まめやかなり」の活用(形容動詞ナリ活用)

活用形 語形 接続例
未然形 まめやかなら
連用形 まめやかなり / まめやかに て、けり、他の用言
終止形 まめやかなり 言い切り
連体形 まめやかなる 時、人、こと
已然形 まめやかなれ ば、ども
命令形 (まめやかなれ) (まれ)

※連用形「まめやかに」は副詞としても用いられます。

関連語

  • まめ(真面・実) (名詞・形容動詞ナリ活用) – 誠実、真面目、実用的、本気。形容動詞「まめなり」もある。
    まめなるひとこそたのもしけれ。(徒然草)
    (誠実な人こそ頼もしいものだ。)
  • まめまめし (形容詞シク活用) – 真面目くさっている、実用的である、本格的である。
    まめまめしき心地ここちしてものふ。(源氏物語)
    (真面目くさった気持ちで物を言う。)

🔄 類義語

誠実だ・真面目だ

まめなり
まことしやか
ねんごろなり
ひたぶるなり

実用的だ・本格的だ

まめなり
あらたなり(改なり)
ほいなり(本意なり)

熱心だ

ねんごろなり
ひたぶるなり
いちずなり

↔️ 反対の概念

「まめやかなり」が「誠実・実用的・本格的」であることを示すため、反対の概念としては「不誠実・はかない・遊びである」「実用的でない」「一時的である」といった状態が考えられます。

あだなり (不誠実だ、はかない、無駄だ)
おろそかなり (いい加減だ、不熱心だ)
いたづらなり (無駄だ、はかない)
かりそめなり (一時的だ、仮初めだ)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

ひとこころまめやかなるは、たのもしきことなり。(徒然草)

【訳】人の心が誠実であるのは、頼もしいことである。

意味: ① 誠実だ・真面目だ
2

まめやかにようつべきものをこそえらぶべけれ。(源氏物語)

【訳】実用的に役に立つはずのものを選ぶべきである。

意味: ② 実用的だ
3

ただただひとすぢすぢまめやかにおもさだめて、(今昔物語集)

【訳】ただひたすら真剣に(本気で)思い定めて、

意味: ③ 熱心だ・真剣だ / ① 本気だ
4

遊びあそびまず、まめやかなるかたおもんず。(大鏡)

【訳】遊びは好まず、実質的な(真面目な)方面を重んじる。

意味: ① 真面目だ / ② 実用的だ
5

まめやかにたるたる手紙てがみこそ、こころふかけれ。

【訳】心を込めて(丁寧に)書いた手紙こそ、趣が深いものだ。

意味: ① 誠実だ・心を込めている / ③ 熱心だ・念入りだ

📝 練習問題

傍線部の「まめやかなり」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. おんなこころまめやかならむには、をとこあだなるあだなるこころたじ。

誠実である
実用的である
美しい
熱心である

解説:

女の心が誠実であるならば、男も浮気な心は持たないだろう、という意味です。ここでは人の心のあり方を指しているので「誠実である」が適切です。

2. これはまめやかなるふみにて、たはぶごとにはあらず。

誠実な
本格的な(本気な)
親密な
熱心な

解説:

これは本気の手紙であって、冗談ではない、という意味です。「本格的な(本気な)」が適切です。「実用的な」という意味も近いですが、文脈から「本気」のニュアンスが強いです。

3. ただただまめやかにほとけねんたてまつるべし。

誠実に
実用的に
熱心に(一心に)
親密に

解説:

ただひたすら熱心に(一心に)仏を念じ申し上げなさい、という意味です。「熱心に(一心に)」が適切です。

4. 宮仕みやづかへのかたは、いとまめやかなるひとぞありける。

真面目な
実用的な
親しい
美しい

解説:

宮仕えをしている人の中には、たいそう真面目な人がいた、という意味です。「真面目な」が適切です。「誠実な」も近い意味です。

5. あだなるあだなるこひにはあらで、まめやかなるおんこころなりけり。

実用的な
誠実な(本気な)
熱心な
普通の

解説:

はかない恋ではなく、誠実な(本気な)お心であった、という意味です。恋愛の文脈での「まめやかなり」は、相手への真剣な気持ちを表します。「誠実な(本気な)」が適切です。