ねんごろなり (形容動詞・ナリ活用)

①心を込めている・丁寧だ・親切だ ②親密だ・仲が良い ③熱心だ・念入りだ

行為や態度、関係性などに心が深く込められているさま。誠実さや真剣さが感じられる言葉。

「病の友を『ねんごろに』看病するように、この言葉は相手を思う深い心遣いや、物事への真剣な取り組みを表します」

📖 意味と用法

ねんごろなり は、ナリ活用の形容動詞で、人に対する態度や物事への取り組み方などが、心が込もっていて丁寧であるさまを表す重要な古文単語です。「懇ろなり」と漢字で書かれることもあります。

  1. 【丁寧・親切】心を込めている、丁寧だ、親切だ、手厚い: 人への対応やもてなし、物事の扱い方などが、誠意に満ちていて手厚いさまを表します。
  2. 【親密】親密だ、仲が良い、情愛が深い: 人と人との関係が密接で、互いに深い愛情や信頼を寄せているさまを表します。
  3. 【熱心・入念】熱心だ、念入りだ、一生懸命だ、大切だ: 物事に真剣に取り組み、細部まで注意を払って行うさまを表します。また、何かを大切に思う気持ちも示します。

誠実さ、丁寧さ、親密さ、熱心さがキーワードです。基本的に肯定的な意味で使われます。

丁寧・親切 の例

まらうどねんごろなるもてなしもてなしをす。(徒然草)

(客に対して心のこもった(丁寧な)もてなしをする。)

親密 の例

ふたことのほかことのほかねんごろなるなかなりけり。(伊勢物語)

(二人は格別に親密な仲であった。)

熱心・入念 の例

ねんごろに仏道ぶつだう修行しゆぎやうす。(今昔物語集)

(熱心に仏道を修行する。)

🕰️ 語源と歴史

「ねんごろなり」の語源は、「念(ねん)」に「比(ころ)」がつき、それに形容動詞の語尾「なり」が付いたものと考えられています。「念」は心に深く思うこと、一心に祈念することを意味し、「比」はその状態や様子を表します。

つまり、「心に深く思う様子である」というのが元々の意味で、そこから人に対して心がこもっている「親切だ」「丁寧だ」、関係が深い「親密だ」、物事に一心に取り組む「熱心だ」「念入りだ」といった意味に発展しました。

平安時代から鎌倉時代にかけて、人の行動や態度、人間関係の深さを示す言葉として広く用いられました。現代語の「懇ろ」も、この古語の意味合いを引き継いでいます。

📝 活用形と派生語

「ねんごろなり」の活用(形容動詞ナリ活用)

活用形 語形 接続例
未然形 ねんごろなら
連用形 ねんごろなり / ねんごろに て、けり、他の用言
終止形 ねんごろなり 言い切り
連体形 ねんごろなる 時、人、こと
已然形 ねんごろなれ ば、ども
命令形 (ねんごろなれ) (まれ)

※連用形「ねんごろに」は副詞としても用いられます。

派生語

  • ねんごろ(懇ろ) (名詞) – 親切なこと、丁寧なこと、親密なこと。
    かれがねんごろ感じかんじて。(平家物語)
    (彼の親切に感動して。)
  • ねんごろぶ(懇ろぶ) (動詞バ行四段) – 親しくする、親密に交際する。
    たがいねんごろびたまふ。(源氏物語)
    (互いに親しくしなさる。)

🔄 類義語

心を込めている・丁寧だ・親切だ

こまやかなり
ていねいなり(丁寧なり)
いんぎんなり(慇懃なり)
まめやかなり

親密だ・仲が良い

むつまじ
ちぎり深し
なれなれし

熱心だ・念入りだ

ひたぶるなり
いちずなり(一途なり)
まめまめし

↔️ 反対の概念

「ねんごろなり」が「心が込もっている」状態を示すため、反対の概念としては「いい加減である」「不親切である」「疎遠である」といった状態が考えられます。

おろそかなり (いい加減だ、不親切だ)
あだなり (不誠実だ、はかない)
つれなし (冷淡だ、そっけない)
うとし (疎遠だ、親しくない)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

かのかのひとたいたてまつりては、ねんごろにつかうまつる。(源氏物語)

【訳】あの方にお仕え申し上げるにあたっては、心を込めて(丁寧に)お仕えする。

意味: ① 心を込めている・丁寧だ
2

としごろねんごろにかたらひしともなれば、わすれがたし。(大和物語)

【訳】長年親密に語り合った友人なので、忘れがたい。

意味: ② 親密だ
3

ねんごろにいのまうせども、しるしなし。(竹取物語)

【訳】熱心に祈り申し上げたけれども、効果がない。

意味: ③ 熱心だ・念入りだ
4

ふみことば、いとねんごろなるさまなり。(枕草子)

【訳】手紙の言葉遣いが、たいそう丁寧な様子である。

意味: ① 心を込めている・丁寧だ
5

うへねんごろにとぶらひとぶらひまうたまふ。(平家物語)

【訳】帝も手厚くお見舞い申し上げなさる。

意味: ① 心を込めている・手厚い

📝 練習問題

傍線部の「ねんごろなり」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 宮仕みやづかへするひとを、おやねんごろにおもひてかしづくかしづくなり。

大切に(心を込めて)
厳しく
いい加減に
熱心に

解説:

宮仕えする人を、親は大切に思って世話をする、という意味です。「心を込めて」世話をする、あるいは「大切に」思う気持ちが込められています。

2. 長年ながねんねんごろなりともとのわかれはかなし。

丁寧だった
熱心だった
親密だった
心がこもっていた

解説:

長年親しくしていた友人との別れは悲しい、という意味です。「親密だった」仲の良さを表します。

3. ほとけみちねんごろに修行しゅぎょうするひとたふとき。

親切に
熱心に
親密に
大切に

解説:

仏の道を一生懸命に修行する人は尊い、という意味です。「熱心に」または「念入りに」が適切です。

4. 客人きゃくじんたいして、ねんごろなる言葉ことばける。

親密な
熱心な
丁寧な
重大な

解説:

客人に対して、心のこもった丁寧な言葉をかける、という意味です。「丁寧な」が適切です。

5. このこのてら建立こんりゅうには、ねんごろなるがんありけり。

心のこもった(篤い)
親密な
丁寧な
普通の

解説:

この寺の建立には、心のこもった(篤い)願いがあった、という意味です。単に熱心というだけでなく、深い思いが込められているニュアンスです。「心のこもった(篤い)」が適切です。