「物音に『おどろき』て目を覚ますように、また思いがけない知らせに『おどろく』ように、この言葉は心の動揺や覚醒を表します」

📖 意味と用法

おどろく(驚く) は、カ行四段活用の動詞で、現代語の「驚く」よりも広い意味合いを持つ重要な古文単語です。主な意味は「(はっと)気づく」と「びっくりする」の二つです。

  1. 【気づく・目を覚ます】(はっと)気づく、目を覚ます、目を覚まして気づく: 何かの物音や気配などで、それまで意識していなかったことにふと気づいたり、眠りから覚めたりする意味です。古文ではこの意味で使われることが非常に多いです。
  2. 【驚愕】びっくりする、驚く: 現代語の「驚く」と同様に、予期しない出来事や異常な事態に遭遇して、心が動揺する意味です。

はっと気づく、目を覚ます、びっくりするがキーワードです。文脈からどちらの意味で使われているかを判断することが大切です。特に、現代語の感覚で「びっくりする」とだけ訳すと誤解が生じることがあるので注意が必要です。

気づく・目を覚ます の例

にはとりこゑおどろきて、かどく。(土佐日記)

(鶏の声にはっと気づいて(または、目を覚まして)、門を開ける。)

びっくりする の例

ゆめ心地ここちして、おどろきたまへるさまなり。(源氏物語)

(夢のような気持ちがして、びっくりなさっている様子である。)

目を覚まして気づく の例

夜中よなかおどろきれば、灯火ともしびえにけり。(伊勢物語)

(夜中に目を覚まして見ると、灯火が消えてしまっていた。)

🕰️ 語源と歴史

「おどろく」の語源は、「おどおど(擬態語)」や「おびゆ(怖じ気づく)」などと関連があると考えられています。元々は、何かに対してびくびくしたり、はっとしたりする心の動きを表していたようです。

そこから、物音や気配などによって、眠りから覚めたり、それまで意識していなかったことに「はっと気づく」という意味が中心となりました。現代語の「驚く」が主に予期せぬことに対する心の衝撃(びっくりする)を指すのに対し、古語の「おどろく」はこの「気づく」「目を覚ます」という意味合いが非常に強いのが特徴です。

もちろん、現代語と同様に「びっくりする」という意味でも使われますが、古文読解においてはまず「気づく」「目を覚ます」の可能性を考えることが重要です。この意味の違いは、入試などでも頻繁に問われるポイントです。

📝 活用形と派生語

「おどろく」の活用(カ行四段活用)

活用形 語形 接続
未然形 おどろか ず、む
連用形 おどろき て、けり、たり
終止形 おどろく 言い切り
連体形 おどろく 時、人、こと
已然形 おどろけ ば、ども
命令形 おどろけ (まれ)

派生語・関連語

  • おどろかす(驚かす) (動詞カ行四段) – (はっと)気づかせる、目を覚まさせる、びっくりさせる。
    ひとおどろかさむとて。(人をびっくりさせようとして。)
  • おどろおどろし (形容詞シク活用) – 大げさだ、仰々しい、気味が悪い。
    おどろおどろしく物音ものおとす。(大げさに物音がする。)

🔄 類義語

(はっと)気づく・目を覚ます

めざむ(目覚む)
おきづ(起き出づ)
きづく(気付く)(中世以降)

びっくりする・驚く

あきる(呆る)
たまゆらなり (魂が揺らぐほど驚く)
胸打つ (はっと驚く)

↔️ 反対の概念

「おどろく」の主な意味が「気づく」「目を覚ます」であることから、反対の概念としては「気づかない」「眠っている」といった状態が考えられます。

ねぶる(寝ぶる) (眠る)
いぬ(寝ぬ) (眠る)
うつつの(現の) (現実の、目を覚ましている状態)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

ふかくかねおとおどろきて、まどく。(方丈記)

【訳】夜更けて鐘の音にはっと気づいて(または、目を覚まして)、窓を開ける。

意味: ① (はっと)気づく・目を覚ます
2

おもはぬ使つかひのたれば、おどろきむかふ。(源氏物語)

【訳】思いがけない使いが来たので、びっくりして迎える。

意味: ② びっくりする・驚く
3

ひとこゑおどろかば、いぬえむ。(枕草子)

【訳】人の声に(はっと)気づくならば、犬も吠えるだろう。

意味: ① (はっと)気づく
4

ゆめよりおどろきたる心地ここちして、あたりあたり見回みまはしつ。(更級日記)

【訳】夢から目を覚ました気持ちがして、あたりを見回した。

意味: ① 目を覚ます
5

ただただいまいまおどろきて、ひとしをりぬ。(堤中納言物語)

【訳】たった今(はっと)気づいて、人が来たことを知った。

意味: ① (はっと)気づく

📝 練習問題

傍線部の「おどろく」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 物音ものおとおどろきて、られず。

目を覚まして
びっくりして
心配して
恐れて

解説:

物音で眠りから覚めた、あるいは物音にはっと気づいた、という意味です。「目を覚まして」が適切です。

2. そのその景色けしきうつくしさにおどろく

気づく
びっくりする
目を覚ます
警戒する

解説:

景色の美しさに心が動かされ、驚嘆している様子です。現代語の「驚く」に近い「びっくりする」が適切です。

3. ひと気配けはひおどろきて、たれそとふ。

びっくりして
はっと気づいて
恐れて
目を覚まして

解説:

人の気配をそれまで意識していなかったが、ふとそれに気づいた、という意味です。「はっと気づいて」が適切です。

4. とりおどろかれぬ。

びっくりさせられた
目を覚まさせられた
気づかされた
恐れさせられた

解説:

「おどろか」は未然形で、受身の助動詞「る」の連体形「るる」の古い形「れ」に、完了の助動詞「ぬ」が付いています(おどろか・れ・ぬ)。鶏の鳴く声によって、眠りから覚めさせられた、という意味です。「目を覚まさせられた」が最も適切です。「気づかされた」も近いですが、眠りからの覚醒のニュアンスがより強いです。

5. ふとおどろきれば、けにけり。

びっくりして
目を覚まして
気づいて
心配して

解説:

「ふと」という言葉と、「夜は明けにけり」という状況から、眠りからふと目を覚ました様子がうかがえます。「目を覚まして」が適切です。