「桜が満開となる『をりふし』、人々は花見に集うように、この言葉はちょうど良い時や、季節の節目、また時には折々の機会を表します」
📖 意味と用法
をりふし(折節) は、名詞または副詞として用いられ、「ちょうどその時」「場合」「季節」「時々」など、時や機会に関連する多様な意味を表す重要な古文単語です。「折(をり)」と「節(ふし)」という、いずれも時や区切りを意味する語が合わさってできています。
- 【名詞】ちょうどその時、場合、機会、季節、時節: 特定の時や状況、季節の節目などを指します。「をりふしの花」「祭りのをりふし」のように使われます。
- 【副詞】ちょうどその時、折から、ちょうどよい機会に: 何かが起こるタイミングが「ちょうどその時」であることを示します。動詞を修飾します。
- 【副詞】時々、折々、時おり: 継続的ではなく、断続的に何かが起こるさまを表します。
ちょうどその時、場合、季節、時々がキーワードです。文脈によって、ピンポイントの「時」を指すか、繰り返し訪れる「時」を指すかを見極める必要があります。
ちょうどその時・折から の例
をりふし雨降り出でて、道急ぎぬ。(土佐日記)
(ちょうどその時雨が降り出して、道を急いだ。)
時々・折々 の例
をりふし都のことを思ひ出でて涙す。(更級日記)
(時々都のことを思い出して涙ぐむ。)
季節・時節(名詞)の例
花のをりふしは心も浮き立つ。(枕草子)
(花の季節には心も浮き立つ。)
🕰️ 語源と歴史
「をりふし」は、名詞「折(をり)」と名詞「節(ふし)」が複合してできた言葉です。「折」は、物事のちょうどよい時機、機会、場合、また季節の変わり目などを意味します。「節」も同様に、物事の区切り、時節、場合などを意味します。
これら二つの類義語が結びつくことで、特定の「時」や「場合」を強調したり、あるいは季節や行事といった「時節」を指したりするようになりました。また、そのような「折」や「節」が何度かあることから、「時々」「折々」という意味も派生しました。
平安時代の和文文学において、物語の場面転換のきっかけを示したり、季節感を伴う情景を描写したり、あるいは登場人物の行動や心情が特定のタイミングで起こることを示すのに効果的に用いられました。現代語の「折節(おりふし)」にもその意味合いは引き継がれています。
📝 品詞と関連語
「をりふし」の品詞と用法
品詞 | 用法・説明 |
---|---|
名詞 | 「ちょうどその時」「場合」「季節・時節」などの意味で、体言として用いられる。「をりふしの~」「~のをりふし」のように使われる。 |
副詞 | 「ちょうどその時・折から」または「時々・折々」の意味で、動詞や形容詞などの用言を修飾する。 |
※文中での働きによって品詞を判断します。「折」と「節」のどちらの意味合いが強いか、また特定の時か不特定の時かで意味を捉えます。
関連語
- をり(折) (名詞) – 時、場合、機会、季節。
そのをり、人ありて訪ふ。
- ふし(節) (名詞) – 区切り、節目、時節、場合、箇所。
歌のふし面白し。
- をりをり(折々) (名詞・副詞) – 時々、その時々、時節ごと。
をりをりの花を眺む。
🔄 類義語
ちょうどその時・折から
時々・折々
時節・季節
↔️ 反対の概念
「をりふし」が特定の「時」や「時々」を指すため、明確な一語の反対語は特定しにくいですが、文脈によって「いつも」「絶えず」「常に」といった状態や、「不適当な時」などが対照的な状況として考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
をりふししも、雪いみじう降り積もりにけり。(伊勢物語)
【訳】ちょうどその折から、雪がひどく降り積もった。
秋のをりふしなれば、月もことにめでたし。(源氏物語)
【訳】秋の時節なので、月も格別にすばらしい。
をりふし、心づきなきことも出で来る世の中なかかな。(徒然草)
【訳】時々、気に入らないことも起こる世の中だなあ。
かかるをりふしこそ、人の心も見えけれ。(大鏡)
【訳】このような場合こそ、人の本心も見えるものだ。
をりふし来る人の語るを聞けば、都の事懐かし。(更級日記)
【訳】時々やって来る人が語るのを聞くと、都のことが懐かしい。
📝 練習問題
傍線部の「をりふし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. をりふし来たりける人あり。
解説:
「ちょうどその時やって来た人がいる」という意味です。出来事が起こったタイミングを示しています。
2. 春のをりふしには、桜こそめでたけれ。
解説:
「春の季節には、桜こそ素晴らしい」という意味です。特定の季節を指しています。
3. 故郷の母ををりふし思ひ出だす。
解説:
故郷の母を時々思い出す、という意味です。断続的に思い出す様子を示しています。
4. よきをりふしに参りたり。
解説:
「よき」とあることから、「ちょうど良い機会に参上した」という意味になります。「場合」や「機会」を指します。
5. をりふしの風に花ぞ散り乱るる。
解説:
ちょうどその時吹いた風によって花が散り乱れる、という意味です。「折から(ちょうどその時)」が適切です。「をりふしの」が名詞「風」を修飾しています。