「賑やかな祭りが終わり、人が去った後の広場が『さうざうしく』感じるように、この言葉は何かを失った後の物足りなさや寂しさを表します」
📖 意味と用法
さうざうし は、シク活用の形容詞で、主に「もの寂しい」「物足りない」という意味を表す重要な古文単語です。「索索し」と漢字で書かれることもあります。何かが欠けていることによる寂しさや、期待外れによる物足りなさを表現します。
- 【物足りない・心寂しい】もの寂しい、心寂しい、物足りない、心細い、なんとなく寂しい: 本来あるべきものや期待していたものがないために感じる、満たされない寂しさや心細さを表します。賑わっていた場所が静かになったり、頼りにしていた人がいなくなったりした場合などに使われます。
物足りなさ、寂しさ、心細さ、欠如感がキーワードです。単に静かで寂しいというだけでなく、何かが足りないことによる空虚感や、期待が満たされないことによる寂しさが中心となります。
もの寂しい の例
人もなくなりて、いとさうざうし。(源氏物語)
(人もいなくなって、たいそうもの寂しい。)
物足りない の例
月もかくれて、いとどさうざうしき空の気色なり。(枕草子)
(月も隠れてしまって、ますます物足りない空の様子である。)
心寂しい の例
頼みし人のなきは、さうざうしく心細し。(徒然草)
(頼りにしていた人がいないのは、心寂しく心細い。)
🕰️ 語源と歴史
「さうざうし」の語源は、はっきりとはしていませんが、いくつかの説があります。有力なのは、物が擦れ合う音や風の音などを表す擬声語「さうさう(索索)」に、状態を表す形容詞の語尾「し」が付いたというものです。「索索」という音が、荒涼とした、あるいは寂しい雰囲気を連想させることから、「もの寂しい」という意味が生じたと考えられます。
また、「探し求める」という意味の動詞「さうす(捜す)」の未然形「さうさ」に、状態を表す「し」が付いたという説もあります。何かを求めているが見つからない、手に入らないという状況から「物足りない」という感情を表すようになったという解釈です。
平安時代から用いられ、特に『源氏物語』や『枕草子』などの女流文学において、登場人物の繊細な心の動きや、季節の移ろいなどに伴う寂寥感を表現するのに多く使われました。現代語の「寂しい」とは少しニュアンスが異なり、期待していたものが欠けていることによる「物足りなさ」や「心細さ」が中心となることが多いです。
📝 活用形と派生語
「さうざうし」の活用(形容詞シク活用)
活用形 | 語形 | 接続 |
---|---|---|
未然形 | さうざうしく | (あら)ず |
連用形 | さうざうしく | て、なり、他の用言 |
連用形(音便) | さうざうしう | て、ござる |
終止形 | さうざうし | 言い切り |
連体形 | さうざうしき | 体言、こと、の |
已然形 | さうざうしけれ | ば、ども |
命令形 | (さうざうしかれ) | (まれ) |
※連用形「さうざうしう」はウ音便化した形です。
派生語
- さうざうしさ (名詞) – もの寂しさ、物足りなさ。
秋の夕暮のさうざうしさは格別なり。
- さうざうしげなり (形容動詞ナリ活用) – もの寂しそうな様子だ、物足りなさそうな様子だ。
さうざうしげなる気配を感ず。
🔄 類義語
もの寂しい・心寂しい・物足りない
※「さびし」は一般的な寂しさ、「つれづれなり」は手持ち無沙汰からくる寂しさ、「わびし」はつらく心細い寂しさを表すなど、ニュアンスに違いがあります。
↔️ 反対の概念
「さうざうし」が「物足りなく寂しい」ことを示すため、反対の概念としては「賑やかである」「満足している」「心が満たされている」といった状態が考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
夜更けて人の音もせず、いとさうざうしきに、(枕草子)
【訳】夜が更けて人の物音もせず、たいそうもの寂しいところに、
見る人もなき庭の紅葉は、さうざうしくぞ散りける。
【訳】見る人もない庭の紅葉は、もの寂しく散っていたことだ。
昨日までは賑はひし所なれど、今日はさうざうしくなりにけり。(源氏物語)
【訳】昨日までは賑わっていた所だが、今日はもの寂しくなってしまった。
かたみに語らふ人もなくて、さうざうしきままに、月をながめけり。(伊勢物語)
【訳】互いに語り合う人もいなくて、心寂しいままに、月を眺めた。
秋の夜の長きをさうざうしくぞ過ごしける。
【訳】秋の夜長をもの寂しく過ごしたことだ。
📝 練習問題
傍線部の「さうざうし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 客人去りて後は、いとどさうざうしくなりぬ。
解説:
客人が去った後は、以前より一層もの寂しくなった、という意味です。「もの寂しく」が適切です。
2. 何となくさうざうしき夕暮なり。
解説:
これといった理由もないが、なんとなく物足りなく寂しい夕暮れである、という意味です。「物足りなく寂しい」が適切です。
3. 一人ゐて眺むる月は、いとさうざうし。
解説:
一人でいて眺める月は、たいそう心寂しい、という意味です。「心寂しい」が適切です。
4. 笛の音の絶えにし後は、いとどさうざうしくぞありける。
解説:
笛の音が途絶えてしまった後は、ますます物足りなく寂しいことであった、という意味です。あったものがなくなったことによる寂しさを表しています。
5. 返事もなくてさうざうしければ、又文を遣はす。
解説:
返事もなくて物足りない(待ち遠しい)ので、また手紙を送る、という意味です。期待していた返事がないことによる物足りなさ、じれったさを表しています。