てうず (動詞・サ行変格活用)

①(食事などを)調理する・こしらえる ②(薬などを)調合する ③(楽器を)調律する・音を整える ④(人を)懲らしめる・退治する ⑤(物事を)整える・処理する

何かを作り上げたり、整えたり、あるいは懲らしめたりする多義的な動詞。「調」の字が持つ意味合いが核となる。

「料理人が腕を振るい馳走を『てうじ』、楽人が琴の音を『てうずる』ように、この言葉は何かを整え作り上げる行為や、時には懲らしめる意味も持ちます」

📖 意味と用法

てうず(調ず) は、サ行変格活用の動詞で、漢字「調」が示すように、「ととのえる」「合わせる」「作り出す」「取り締まる」など、文脈によって多様な意味を持つ重要な古文単語です。「ちょうず」と濁音で読まれることもあります。

  1. 【調理・製造】(食事・衣服・道具などを)調理する、こしらえる、製造する、準備する: 食べ物や物などを作り整える、準備する意味です。
  2. 【調合】(薬などを)調合する、作り合わせる: 複数の材料を適切に混ぜ合わせて薬などを作る意味です。
  3. 【調律】(楽器を)調律する、音を整える、演奏する: 楽器の音の高さを合わせたり、楽器を演奏したりする意味です。
  4. 【懲罰・退治】(人を)懲らしめる、こらしめる、罰する、退治する、討伐する: 悪者や敵などを打ち負かし、秩序を整える意味です。
  5. 【調整・処理】(物事を)整える、処理する、取り計らう、工夫する: 物事をうまく整えたり、適切に処理したりする意味です。

調理する、調合する、調律する、懲らしめる、整えるがキーワードです。「調」の漢字が持つ「ととのえる」という核心的な意味から、様々な具体的な行為へと派生しています。

調理する の例

様々さまざま魚鳥ぎよてうてうじまらうどきやうす。(宇治拾遺物語)

(様々な魚や鳥を調理して客にご馳走する。)

調律する・演奏する の例

ことてうじひときよくあそばす。(源氏物語)

(琴の音を調律して(または、琴を演奏して)一曲演奏なさる。)

懲らしめる の例

しきものどもをてうじたまふ。(平家物語)

(悪い者どもを懲らしめなさる。)

🕰️ 語源と歴史

「てうず(調ず)」は、漢語「調」の字音「てう(ちょう)」に、サ行変格活用の動詞を作る接尾語「す」が付いたものです。「調」という漢字には、「ととのえる」「合わせる」「しらべる」「取り締まる」「こしらえる」など多くの意味があります。

このため、「てうず」もこれらの意味を反映し、文脈に応じて「調理する」「調合する」「調律する」「懲らしめる(取り締まる)」「整える」など、多岐にわたる意味で用いられるようになりました。

平安時代から近世に至るまで広く使われた動詞で、日常生活の場面から、音楽、医療、武家社会の出来事まで、様々な文脈で登場します。読み方としては「てうず」のほかに「ちょうず」と濁音化することもあります。

📝 活用形と派生語

「てうず」の活用(サ行変格活用)

活用形 語形 接続例
未然形 てうぜ / てうじ ず、む
連用形 てうじ て、けり、たり
終止形 てうず 言い切り
連体形 てうずる 時、人、こと
已然形 てうずれ ば、ども
命令形 てうぜよ / てうじろ (まれ)

※サ行変格活用は「す」「おはす」など限られた語に見られる特殊な活用です。

派生語・関連語

  • てうど(調度) (名詞) – 日常使う道具類、家具、装飾品。
    うつくしきてうどかざる。
  • てうじもの(調じ物) (名詞) – 調理した食べ物、料理。
    ありあふてうじものにて饗応きょうおうす。

🔄 類義語

調理する・こしらえる

かしぐ(炊ぐ)
まうく(設く)
したたむ(認む)

調律する・演奏する

合はす(あはす)
奏(かな)づ
遊ばす(あそばす)

懲らしめる・退治する

こらす(懲らす)
せむ(責む)
たいらぐ(平らぐ)

↔️ 反対の概念

「てうず」は多義的であるため、意味によって反対の概念も異なります。

  • 調理する・整える ⇔ 散らかす、放置する、こぼつ(毀つ)
  • 懲らしめる ⇔ 許す、見逃す、助く
こぼつ (壊す、損なう)
ゆるす(許す)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

大饗たいきやうをり様々さまざま料理れうりてうじだす。(枕草子)

【訳】大饗の折に、様々な料理を調理して出す。

意味: ① 調理する
2

ふえてうじて、ひとびときようけるける。(源氏物語)

【訳】笛の音を調律して(または、笛を演奏して)、人々は興じた。

意味: ③ 調律する・演奏する
3

くにみだれをてうじて、たみやすんず。(日本書紀)

【訳】国の乱れを平定して(懲らしめて)、民を安心させる。

意味: ④ 懲らしめる・退治する / ⑤ 整える
4

薬草やくさうてうじやまひやす。(今昔物語集)

【訳】薬草を調合して病を癒す。

意味: ② 調合する
5

弓矢ゆみやてうじいくさそなふ。(平家物語)

【訳】弓矢を整えて(準備して)戦に備える。

意味: ① 準備する / ⑤ 整える

📝 練習問題

傍線部の「てうず」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. さけさかなてうじて、かくむかふ。

調理して(準備して)
調合して
懲らしめて
演奏して

解説:

酒や肴を「てうじ」て客を迎えるので、「調理して(準備して)」が適切です。

2. ことてうずれば、たへなるでける。

調理すると
調律すると
懲らしめると
整えると

解説:

琴の緒(弦)を「てうずれ」ば素晴らしい音が出た、とあるので、楽器の音を整える「調律すると」が適切です。

3. 反逆ほんぎゃくものどもをてうじて、くにおさむ。

調理して
調合して
懲らしめて(退治して)
演奏して

解説:

反逆の者どもを「てうじ」て国を治める、とあるので、「懲らしめて(退治して)」が適切です。

4. 医者くすしくすりてうじ病者びょうじゃあたふ。

調理して
調合して
調律して
懲らしめて

解説:

医者が薬を「てうじ」て病人に与える、とあるので、「調合して」が適切です。

5. 様々さまざまこころてうじて、このこの難局なんきょくらむ。

整えて(工夫して)
調理して
懲らしめて
調合して

解説:

様々に心を「てうじ」て難局を乗り切ろう、とあるので、ここでは心を「整えて(工夫して)」または「整えて(準備して)」という意味合いが適切です。