「料理人が腕を振るい馳走を『てうじ』、楽人が琴の音を『てうずる』ように、この言葉は何かを整え作り上げる行為や、時には懲らしめる意味も持ちます」
📖 意味と用法
てうず(調ず) は、サ行変格活用の動詞で、漢字「調」が示すように、「ととのえる」「合わせる」「作り出す」「取り締まる」など、文脈によって多様な意味を持つ重要な古文単語です。「ちょうず」と濁音で読まれることもあります。
- 【調理・製造】(食事・衣服・道具などを)調理する、こしらえる、製造する、準備する: 食べ物や物などを作り整える、準備する意味です。
- 【調合】(薬などを)調合する、作り合わせる: 複数の材料を適切に混ぜ合わせて薬などを作る意味です。
- 【調律】(楽器を)調律する、音を整える、演奏する: 楽器の音の高さを合わせたり、楽器を演奏したりする意味です。
- 【懲罰・退治】(人を)懲らしめる、こらしめる、罰する、退治する、討伐する: 悪者や敵などを打ち負かし、秩序を整える意味です。
- 【調整・処理】(物事を)整える、処理する、取り計らう、工夫する: 物事をうまく整えたり、適切に処理したりする意味です。
調理する、調合する、調律する、懲らしめる、整えるがキーワードです。「調」の漢字が持つ「ととのえる」という核心的な意味から、様々な具体的な行為へと派生しています。
調理する の例
様々の魚鳥をてうじて客に饗す。(宇治拾遺物語)
(様々な魚や鳥を調理して客にご馳走する。)
調律する・演奏する の例
琴の音をてうじて一曲遊ばす。(源氏物語)
(琴の音を調律して(または、琴を演奏して)一曲演奏なさる。)
懲らしめる の例
悪しき者どもをてうじ給ふ。(平家物語)
(悪い者どもを懲らしめなさる。)
🕰️ 語源と歴史
「てうず(調ず)」は、漢語「調」の字音「てう(ちょう)」に、サ行変格活用の動詞を作る接尾語「す」が付いたものです。「調」という漢字には、「ととのえる」「合わせる」「しらべる」「取り締まる」「こしらえる」など多くの意味があります。
このため、「てうず」もこれらの意味を反映し、文脈に応じて「調理する」「調合する」「調律する」「懲らしめる(取り締まる)」「整える」など、多岐にわたる意味で用いられるようになりました。
平安時代から近世に至るまで広く使われた動詞で、日常生活の場面から、音楽、医療、武家社会の出来事まで、様々な文脈で登場します。読み方としては「てうず」のほかに「ちょうず」と濁音化することもあります。
📝 活用形と派生語
「てうず」の活用(サ行変格活用)
活用形 | 語形 | 接続例 |
---|---|---|
未然形 | てうぜ / てうじ | ず、む |
連用形 | てうじ | て、けり、たり |
終止形 | てうず | 言い切り |
連体形 | てうずる | 時、人、こと |
已然形 | てうずれ | ば、ども |
命令形 | てうぜよ / てうじろ | (まれ) |
※サ行変格活用は「す」「おはす」など限られた語に見られる特殊な活用です。
派生語・関連語
- てうど(調度) (名詞) – 日常使う道具類、家具、装飾品。
美しきてうどを飾る。
- てうじもの(調じ物) (名詞) – 調理した食べ物、料理。
ありあふてうじものにて饗応す。
🔄 類義語
調理する・こしらえる
調律する・演奏する
懲らしめる・退治する
↔️ 反対の概念
「てうず」は多義的であるため、意味によって反対の概念も異なります。
- 調理する・整える ⇔ 散らかす、放置する、こぼつ(毀つ)
- 懲らしめる ⇔ 許す、見逃す、助く
🗣️ 実践的な例文(古文)
大饗の折、様々の料理をてうじて出だす。(枕草子)
【訳】大饗の折に、様々な料理を調理して出す。
笛の音をてうじて、人びと興じける。(源氏物語)
【訳】笛の音を調律して(または、笛を演奏して)、人々は興じた。
国の乱れをてうじて、民を安んず。(日本書紀)
【訳】国の乱れを平定して(懲らしめて)、民を安心させる。
薬草をてうじて病を癒やす。(今昔物語集)
【訳】薬草を調合して病を癒す。
弓矢をてうじて戦に備ふ。(平家物語)
【訳】弓矢を整えて(準備して)戦に備える。
📝 練習問題
傍線部の「てうず」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 酒・肴をてうじて、客を迎ふ。
解説:
酒や肴を「てうじ」て客を迎えるので、「調理して(準備して)」が適切です。
2. 琴の緒をてうずれば、妙なる音ぞ出でける。
解説:
琴の緒(弦)を「てうずれ」ば素晴らしい音が出た、とあるので、楽器の音を整える「調律すると」が適切です。
3. 反逆の者どもをてうじて、国を治む。
解説:
反逆の者どもを「てうじ」て国を治める、とあるので、「懲らしめて(退治して)」が適切です。
4. 医者、薬をてうじて病者に与ふ。
解説:
医者が薬を「てうじ」て病人に与える、とあるので、「調合して」が適切です。
5. 様々に心をてうじて、この難局を乗り切らむ。
解説:
様々に心を「てうじ」て難局を乗り切ろう、とあるので、ここでは心を「整えて(工夫して)」または「整えて(準備して)」という意味合いが適切です。