「雨の日に窓の外を眺め、ただ時間が過ぎるのを待つ『つれづれなる』時のように、この言葉は手持ち無沙汰な退屈さや、そこから生まれる物思いを表します」
📖 意味と用法
つれづれなり は、ナリ活用の形容動詞で、することがなく退屈なさまや、もの寂しいさまを表します。また、つれづれ は名詞として、退屈な状態やもの寂しさを指します。吉田兼好の『徒然草』で広く知られる言葉です。
- 【退屈・手持ち無沙汰】(つれづれなり・つれづれ)退屈だ、手持ち無沙汰だ、することがない、所在ない: 何もするべきことがなく、時間を持て余している状態を表します。単なる暇というよりは、ややネガティブなニュアンスで、そこから物思いにふけったり、何かを書きつけたりするきっかけとなることもあります。
- 【もの寂しい・心細い】(つれづれなり・つれづれ)もの寂しい、心細い、しんみりとした感じだ: 一人でいて心細く、もの寂しい気持ちを表します。特に人気のない場所や静かな時間帯の情景描写と共に用いられることが多いです。
退屈、手持ち無沙汰、もの寂しさ、所在なさがキーワードです。することがない状態から派生するさまざまな感情や状況を含みます。
退屈だ・手持ち無沙汰だ の例
つれづれなるままに、日一日、硯にむかひて…(徒然草 序段)
(することがなく退屈なのにまかせて、一日中、硯に向かって…)
もの寂しい の例
雨など降りてつれづれなる日は、心細さまさりて思ひ乱る。(源氏物語)
(雨などが降ってもの寂しい日は、心細さが増して思い悩む。)
名詞「つれづれ」の例
つれづれの慰みに、物語など読む。(枕草子)
(退屈しのぎに、物語などを読む。)
🕰️ 語源と歴史
「つれづれ」の語源には諸説ありますが、有力なものとして、動詞「連る(つる)」が繰り返された「つるつる」から転じたという説があります。「つるつる」と物事が単調に続いて変化がない様子、あるいは共に行く者がなく独りである状態を指し、そこから「手持ち無沙汰」「退屈」「もの寂しい」といった意味が生じたと考えられます。
また、「つきづきし(似つかわしい、調和がとれている)」の「つき(付き)」と、「あり(有り)」の古い形「あれ」が複合し、「つきあれ(付き有り)」から「つれづれ」に変化したという説や、「とどこほる(滞る)」の意から来ているという説もあります。
平安時代にはすでに広く用いられており、『源氏物語』や『枕草子』など多くの文学作品に見られます。特に鎌倉時代に入ると、吉田兼好の『徒然草』によってこの言葉の持つ深い精神性や美意識が追求され、日本人の心性に大きな影響を与えました。単なる退屈ではなく、そこから生まれる思索や諦観、あるいは日常の些細なことへの関心といった複雑なニュアンスを含む言葉として定着しました。
📝 活用形と関連表現
「つれづれなり」の活用(形容動詞ナリ活用)
活用形 | 語形 | 接続例 |
---|---|---|
未然形 | つれづれなら | ず |
連用形 | つれづれなり / つれづれに | て、けり、他の用言 |
終止形 | つれづれなり | 言い切り |
連体形 | つれづれなる | 時、人、こと |
已然形 | つれづれなれ | ば、ども |
命令形 | (つれづれなれ) | (まれ) |
※連用形「つれづれに」は副詞的にも用いられます。
名詞としての「つれづれ」
- つれづれ(徒然) (名詞) – 退屈、手持ち無沙汰、もの寂しさ。
つれづれを慰まむとて…(伊勢物語)
(退屈を紛らわそうとして…)
関連表現
- つれづれぐさ(徒然草) – 吉田兼好の随筆。
徒然草は、無常観を基調とする。
- つれづれと (副詞的) – 退屈そうに、もの寂しげに、ぼんやりと。
つれづれと日を暮らす。
🔄 類義語
退屈だ・手持ち無沙汰だ
もの寂しい・心細い
※「いたづらなり」は「むなしい」「無駄だ」の意も強い。「さうざうし」は物足りなくて寂しい感じ。
↔️ 反対の概念
「つれづれなり」が「退屈で手持ち無沙汰」な状態を示すため、反対の概念としては「忙しい」「賑やか」「興味深い」といった状態が考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
つれづれになぐさむものとて、絵などをぞ描きける。(伊勢物語)
【訳】手持ち無沙汰に(退屈を)紛らわすものとして、絵などを描いたのだった。
長雨いたう降りて、つれづれなるに、御前に人も候はず。(源氏物語・若紫)
【訳】長雨がひどく降って、手持ち無沙汰であるところに、お側には誰も伺候していない。
山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば(古今和歌集)
※この歌の背景には、人里離れた場所の「つれづれ」としたもの寂しさがある。
【訳】山里は冬になると寂しさがつのるものだなあ。人の訪れも草も絶えてしまうと思うと。
つれづれと独りながむる雨の音に、昔を忍びて涙も落ちぬ。(新古今和歌集の歌などを参照)
【訳】手持ち無沙汰に(もの寂しく)独り物思いにふけりながら眺める雨の音に、昔を思い出して涙も落ちることだ。
女もつれづれなれば、夕暮の空をながめつつ、歌など詠む。(和泉式部日記)
【訳】女も退屈なので、夕暮れの空を眺めながら、歌などを詠む。
📝 練習問題
傍線部の「つれづれなり」または「つれづれ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 雨の日はつれづれにて、何も手につかず。
解説:
雨の日はすることがなく手持ち無沙汰で、何も手につかない、という意味です。「退屈で」が適切です。
2. 月かげさし入れる閨のつれづれに、昔のことぞ思ひ出でらるる。
解説:
月光が差し込む寝室の、しんみりとしたもの寂しさの中で、昔のことが思い出される、という意味です。「もの寂しさ」が適切です。
3. つれづれなれば、物語を読みて日を暮らす。
解説:
することがなく退屈なので、物語を読んで一日を過ごす、という意味です。「退屈なので」が適切です。
4. 人も通はぬ山道のつれづれは、心細ぼそかりけり。
解説:
人も通らない山道の、人気のないもの寂しさは、心細かった、という意味です。「もの寂しさ」が適切です。
5. つれづれなる折は、昔のことなど思ひ出でて、独り笑みもせらる。
解説:
することがなく退屈な時は、昔のことなどを思い出して、独り微笑んだりもする、という意味です。「退屈な」が適切です。