「背後に不安の影がないように、『うしろやすし』は安心で信頼できる状態を表します」

📖 意味と用法

うしろやすし は、シク活用の形容詞で、主な意味は「安心だ、心配がない、頼もしい」です。行く末や背後に危険・不安が存在せず、気がかりなくいられる状態を指します。信用できて気が楽であるというポジティブな評価で用いられ、人物・状況のいずれにも使われます。

人物が信頼できる

御方みかたにはわかひとどもうしろやすくうしろやすくつかまつりて、(源氏物語・桐壺)

(御側には若い女房たちが信頼できる様子でお仕えして、)

事態が安全・確実

かくてのち御覧ごらんにもうしろやすくうしろやすくあるべし。(徒然草)

(こうして将来ご覧になっても安心であろう。)

🕰️ 語源と歴史

語源は「後ろ(背後・未来)+ 安し(心安い)」の合成とされます。背後=物事の裏面・将来まで安全であることから、「心配がない」「信頼して任せられる」という意味が派生しました。

平安期の文学作品に頻出し、主として臣下や女房を評価するときや、物事の成り行きが懸念なく順調とみなされるときに用いられました。

📝 活用形と派生語

「うしろやすし」の活用(形容詞シク活用)

活用形 語形 接続
未然形 うしろやすから / うしろやすく
連用形 うしろやすく / うしろやすう て、なり、他の用言
終止形 うしろやすし 言い切り
連体形 うしろやすき 体言、こと、の
已然形 うしろやすけれ ば、ども
命令形 うしろやすかれ (めったに用いない)

※連用形「うしろやすう」はウ音便形です。

関連語

  • 心安し(こころやすし) – 心が安らかだ
  • 頼もし(たのもし) – 頼もしい、心強い
  • うしろめたし – 不安だ、気がかりだ(対義的ニュアンス)

🔄 類義語

心安し (安心だ)
頼もし (頼もしい)
穏やか (静かで安心)

↔️ 反対の概念

安心していられる状態の反対は、「不安」「気がかり」「後ろめたさ」を伴う状態です。

うしろめたし (気がとがめる)
心苦し (つらい・不安だ)
危ふし (危ない)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

このこのおんまもあればあればうしろやすくさぶらふ。(源氏物語・桐壺)

【訳】この御守りがございますので、安心でございます。

2

おやめぐみこそうしろやすけれ。(徒然草)

【訳】親の慈しみこそ安心できるものである。

3

こころうしろやすうおぼさおぼさるる。(大鏡)

【訳】(帝は)お気持ちも安心していらっしゃる。

4

かくかくことうしろやすからひとまかすべし。(方丈記)

【訳】このようなことは安心できる人に任せるべきである。

5

つねうしろやすしおんらんぜらるる。(徒然草)

【訳】常に安心だとご覧になられる。

📝 練習問題

傍線部の「うしろやすし」(またはその活用形)の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. きさきみやをばうしろやすくおぼけるけるこそ、(源氏物語)

安心して
悔いて
疑って
恐れて

解説:

后宮を「安心して」思っていらっしゃった、という文脈です。

2. われらにうしろやすきひともなくて、(徒然草)

疑わしい
頼りになる
危なっかしい
恐ろしい

解説:

「頼りになる」人物がいない、という意味。

3. かくてこそうしろやすけれ、とみなひと言いひへり。(今昔物語集)

危険だ
安心だ
悲しい
不満だ

解説:

「このようにしてこそ安心だ」と皆が言い合った、という文脈。

4. おんこころうしろやすううしろやすうおぼしおぼしめしつれど、(大鏡)

気が楽で
気が重くて
恥ずかしくて
恐ろしくて

解説:

形容詞連用ウ音便「うしろやすう」が副詞的に用いられ、「気が楽で」「安心して」の意。

5. かれかれうしろやすしたのみて、(枕草子)

信頼して
訝しく思って
恐れて

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