「恋しい人を思い『よもすがら』泣き明かすように、この言葉は夜を通して続く時間や行為を表します」
📖 意味と用法
よもすがら および よすがら は、名詞または副詞として用いられ、「一晩中」「夜通し」という意味を表す重要な古文単語です。両者の意味に大きな違いはありませんが、「よもすがら」の「も」は強調の助詞で、やや改まった響きや感情のこもったニュアンスを持つことがあります。
- 【時間】一晩中、夜通し、夜が明けるまでずっと: ある状態や行為が、夜の間中断することなく継続しているさまを表します。名詞として「よもすがらの月」「よすがらの雨」のように使われたり、副詞として「よもすがら泣く」「よすがら語り明かす」のように動詞を修飾したりします。
一晩中、夜の間ずっとがキーワードです。和歌や物語の中で、夜の情景や夜通し続く感情・行動を描写する際によく用いられます。
「よもすがら」の例
よもすがら物思ひ明かしつる心地して。(源氏物語)
(一晩中物思いにふけって夜を明かした気持ちがして。)
「よすがら」の例
よすがら雨の音を聞きつつ。(枕草子)
(一晩中雨の音を聞きながら。)
名詞的用法の例
よもすがらの月に見ゆれば、心も澄む。(土佐日記)
(一晩中の月(の光)に見えるので、心も澄み渡る。)
🕰️ 語源と歴史
「よもすがら」は、「夜(よ)」に強調の助詞「も」が付き、それに「すがら」という接尾語(または副詞)が接続した形です。「すがら」は「(時間や場所の)間じゅうずっと」「~の初めから終わりまで」という意味を表します(例:「日すがら(一日中)」「道すがら(道中ずっと)」)。
「よすがら」は、「夜(よ)」に直接「すがら」が接続した形で、「夜もすがら」の「も」が省略されたものと見なせます。意味は「よもすがら」とほぼ同じです。
これらの言葉は、夜間の時間の経過や、その間続く行為・心情を表現するために、古くから和歌や物語文学で用いられてきました。特に、恋愛の苦悩、深い物思い、宗教的な勤行など、夜を通して行われることがらを印象的に描写するのに効果的な表現です。
📝 品詞と関連語
「よもすがら/よすがら」の品詞と用法
品詞 | 用法・説明 |
---|---|
名詞 | 「一晩中」「夜通し」の意味で、体言として用いられる。「~の月」「~の物語」のように他の名詞を修飾したり、格助詞を伴ったりする。 |
副詞 | 「一晩中ずっと」「夜通し」の意味で、動詞や形容詞などの用言を修飾する。 |
※文中での働きによって品詞を判断します。現代語の「一晩中」と同様の使われ方です。
関連語
- すがら (接尾語・副詞) – ~の間ずっと、始めから終わりまで。
道すがら、雨に降らる。
- 日すがら(ひすがら) (名詞・副詞) – 一日中、終日。
日すがら読書して過ごす。
- 夜一夜(よいちや) (名詞・副詞) – 一晩中。
夜一夜寝られざりけり。
🔄 類義語
一晩中・夜通し
↔️ 反対の概念
「よもすがら/よすがら」が「一晩中」を示すため、反対の概念としては「昼間」や「短い時間」などが考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
よもすがら月をながめ明かしけり。(古今和歌集)
【訳】一晩中、月を眺めて夜を明かした。
よすがら泣き明かせば、目も腫れにけり。(源氏物語)
【訳】一晩中泣き明かしたので、目も腫れてしまった。
よもすがらの祈り空しう、病は癒えず。(今昔物語集)
【訳】一晩中の祈りもむなしく、病は治らなかった。
風の音、波の声、よすがら聞こえて眠られず。(土佐日記)
【訳】風の音、波の音が、一晩中聞こえて眠れない。
ほととぎすよもすがら鳴く声に、夢さめぬ。(新古今和歌集)
【訳】ほととぎすが一晩中鳴く声に、夢から覚めてしまった。
📝 練習問題
傍線部の「よもすがら/よすがら」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 旅の宿にて、よもすがら物語して明かしけり。
解説:
旅の宿で、一晩中語り明かした、という意味です。「一晩中」が適切です。
2. 風の音のよすがら吹きやまざりければ、寝も寝られず。
解説:
風の音が夜通し吹きやまなかったので、眠ることもできなかった、という意味です。「夜通し」が適切です。
3. よもすがらの雨にて、道はぬかるみけり。
解説:
一晩中続いた雨で、道はぬかるんでしまった、という意味です。「よもすがらの」が名詞「雨」を修飾しています。「一晩中の」が適切です。
4. 恋しき人を思ひて、よすがら寝もやらず。
解説:
恋しい人を思って、一晩中眠ることもできない、という意味です。「一晩中」が適切です。
5. 松に吹く風の音、よもすがら心細く聞こゆ。
解説:
松に吹く風の音が、一晩中心細く聞こえる、という意味です。「一晩中」が適切です。