よそふ (動詞・ハ行四段 / ハ行下二段活用)

①比べる・なぞらえる・関係づける ②準備する・用意する ③(下二段活用で)言い寄る・恋心を寄せる

何かと何かを引き合わせて関連づけたり、前もって整えたりする行為。活用によって意味が異なる点に注意。

「美しい花に人の心を『よそへ』て歌を詠み、また旅立ちのために荷物を『よそふ』ように、この言葉は関連づけや準備、そして時には恋のアプローチをも表します」

📖 意味と用法

よそふ(寄そふ・比ふ) は、文脈や活用によって意味が異なる多義的な古文単語です。主にハ行四段活用ですが、ハ行下二段活用で特別な意味を持つこともあります。「装ふ(よそほふ)」とは別の語なので注意が必要です。

  1. 【比較・関連】(ハ行四段)比べる、なぞらえる、比較する、関係づける、かこつける、口実にする: あるものを別のものと引き合わせたり、関連付けたり、何かのせいにするという意味です。「AをBによそふ」の形でよく使われます。
  2. 【準備・用意】(ハ行四段)準備する、用意する、支度する、整える: 物事を始める前に必要なものを揃えたり、整えたりする意味です。
  3. 【言い寄る・恋慕】(ハ行下二段)言い寄る、恋心を寄せる、慕う: 特に男女間で、相手に恋心を抱き、それを伝えようと近づく意味です。この意味の場合はハ行下二段活用になるのが特徴です。

比べる、準備する、言い寄るがキーワードです。特に活用の違いによって意味が大きく変わる点に注意が必要です。

比べる・なぞらえる の例

うめはなむかしひとそでよそへむ。(古今和歌集)

(梅の花の香りを昔の恋人の袖の香になぞらえて詠む。)

準備する の例

たび装束さうぞくよそひつ。(伊勢物語)

(旅の装束を準備して待つ。)

言い寄る(下二段)の例

をんなこころよそへて、うたみかけけり。(大和物語)

(女性に恋心を寄せて、歌を詠みかけた。)

🕰️ 語源と歴史

「よそふ」の語源は、動詞「寄す(よす)」の未然形「よせ」に、継続や反復を表す接尾語「ふ」が付いたものと考えられます。「寄す」には「近づける」「引き合わせる」「関係づける」といった意味があります。

そこから、「何かを別のものに引き合わせて考える」つまり「比べる」「なぞらえる」「関係づける」という意味が生まれました。また、「引き合わせて整える」という意味から「準備する」「用意する」という意味にも発展しました。

ハ行下二段活用の「よそふ」は、特に「心を寄せる」という意味合いが強まり、「言い寄る」「恋慕する」という意味で使われるようになりました。この場合、対象に心を近づけていくニュアンスがあります。平安時代の和歌や物語では、恋愛の場面でこの下二段活用の「よそふ」がよく見られます。

📝 活用形と関連語

「よそふ」の活用(ハ行四段 / 下二段)

「よそふ」は主にハ行四段活用ですが、「言い寄る」の意味ではハ行下二段活用になります。

ハ行四段活用(比べる、準備する)

活用形 語形
未然形 よそは
連用形 よそひ
終止形 よそふ
連体形 よそふ
已然形 よそへ
命令形 よそへ

ハ行下二段活用(言い寄る)

活用形 語形
未然形 よそへ
連用形 よそへ
終止形 よそふ
連体形 よそふる
已然形 よそふれ
命令形 よそへよ

関連語

  • よそひ(寄せ・比ひ) (名詞) – なぞらえること、比較、準備。
    秋のつきに心をよそひて。
  • よそへごと(寄せ言・比へ言) (名詞) – なぞらえごと、比喩。
    よそへごとにておもひをつたふ。

※「装ふ(よそほふ)」は「美しく飾る、身支度をする」という意味で、「よそふ」とは意味も活用も異なるので注意。

🔄 類義語

比べる・なぞらえる

くらぶ(比ぶ)
たぐふ(類ふ)
なずらふ

準備する・用意する

まうく(設く)
したたむ(認む)
いそぐ(急ぐ) (準備する意も)

言い寄る・恋心を寄せる

思ひかく(思ひ掛く)
語らふ(かたらふ) (言い寄る意も)

↔️ 反対の概念

「よそふ」は多義的なため、意味によって反対の概念が異なります。

  • 比べる・なぞらえる ⇔ 区別する、そのままにする
  • 準備する ⇔ 放置する、怠る
  • 言い寄る ⇔ 避ける、疎んじる(うとんず)
へだつ(隔つ)
おこたる(怠る)
うとんず(疎んず)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

わがわがなみだあめよそへて、ひとげやらむ。(古今和歌集)

【訳】私の涙を雨になぞらえて、あの人に伝えたいものだ。

意味: ① なぞらえる
2

たびよそひてて、門出かどです。(土佐日記)

【訳】旅の道具をすっかり準備し終えて、出発する。

意味: ② 準備する
3

人知れひとしれこころよそふるをんなありけり。(源氏物語)

【訳】人知れず(ある男性に)恋心を寄せている女性がいた。

意味: ③ 言い寄る・恋心を寄せる(下二段活用)
4

わがわがうへよそへものおもふ。(枕草子)

【訳】我が身の上に関係づけて(引き比べて)物思いをする。

意味: ① 関係づける・比べる
5

やまひよそへ出仕しゅっしせず。(大鏡)

【訳】病気にかこつけて(口実にして)出仕しない。

意味: ① かこつける・口実にする

📝 練習問題

傍線部の「よそふ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。(活用の種類にも注意)

1. はないろゆきよそへうたむ。

なぞらえて
準備して
言い寄って
飾って

解説:

花の色を雪に「比べる・なぞらえる」という意味です。ハ行四段活用の連用形。

2. くるたび用意よういよそふ

なぞらえる
準備する
言い寄る
口実にする

解説:

旅の用意を「整える・準備する」という意味です。ハ行四段活用の終止形。

3. 女御にょうごふかおもひをよそへたまふ。

なぞらえ
準備し
恋心を寄せ
飾り

解説:

女御に深く思いを「寄せる・言い寄る」という意味です。ハ行下二段活用の連用形。

4. 風邪かぜよそへやすみけり。

なぞらえて
準備して
かこつけて(口実にして)
言い寄って

解説:

風邪を「口実にして」休んだ、という意味です。ハ行四段活用の連用形。

5. かのかのひとにこのはなよそふべし。

なぞらえる
準備する
言い寄る
飾る

解説:

あの人にこの花を「なぞらえる」のがよいだろう、という意味です。ハ行四段活用の終止形が推量の助動詞「べし」に接続しています。