まうく(設く) (動詞・カ行下二段活用)

①準備する・用意する ②(子や利益などを)得る・手に入れる ③(官職などに)任命する・就かせる

前もって必要なものを整えたり、努力して何かを自分のものにしたりする行為を表す。

「旅立ちのために食料を『まうけ』、新しい地位を『まうけ』るように、この言葉は必要なものを整え、手に入れることを意味します」

📖 意味と用法

まうく(設く) は、カ行下二段活用の動詞で、主に何かを前もって準備したり、努力して獲得したりする意味を持つ重要な古文単語です。漢字では「設く」や「儲く」と書かれることがあります。

  1. 【準備・用意】準備する、用意する、設置する: 何かの目的のために、あらかじめ必要な物や場所を整えること。宴会や儀式、戦などの準備に使われることが多い。
  2. 【獲得・授与】(子や利益などを)得る、手に入れる、授かる: 努力や運によって、子供や財産、地位などを自分のものにすること。また、神仏などから授かる意味も含む。
  3. 【任命・就任】(官職などに)任命する、就かせる: 特定の役職や地位に人を取り立てること。

「まうく」が使われた場合、文脈から「何を」「何のために」準備・獲得・任命しているのかを正確に読み取ることが重要です。

準備・用意の例

酒宴しゅえんまうけてまうたてまつる。(竹取物語)

(酒宴を準備して(帝を)お待ち申し上げる。)

獲得・授与の例

ねがかなひて男子なんしまうけまうたり。(平家物語)

(願いが叶って男の子を授かった。)

任命・就任の例

国司こくしまうけまうられてくだる。(今昔物語集)

(国司に任命されて(任国へ)下っていく。)

🕰️ 語源と歴史

「まうく」の語源は、はっきりとは分かっていませんが、「間(ま)を置く」という意味から転じたという説や、物を手に入れる意の「儲(まう)く」と関連があるという説があります。「設ける」という漢字が当てられるように、空間や場所を整える、配置するというニュアンスが根本にあると考えられます。

上代から用いられており、当初は場所や物を「設置する」「準備する」という意味が中心的でしたが、次第に努力して何かを手に入れる「獲得する」、さらには子を「授かる」、人を特定の地位に「就かせる」といった意味にも広がっていきました。

📝 活用形と派生語

「まうく」の活用(カ行下二段活用)

活用形 語形 接続
未然形 まうけ ず、む、ば
連用形 まうけ て、けり、たり
終止形 まうく 言い切り、べし、めり
連体形 まうくる 体言、とき、に
已然形 まうくれ ば、ども
命令形 まうけよ 言い切り

派生語・関連語

  • まうけ (名詞) – 準備、用意、設備、宴会、ごちそう
    大饗たいきやうまうけまういかめしうて。(源氏物語)
    (盛大な饗宴の準備が厳かで。)
  • まうけの君 (名詞) – 皇太子、世継ぎ
    まうけの君まうけのきみこえたまふ。(大鏡)
    (皇太子と申し上げなさる。)

🔄 類義語

準備する・用意する

いそぐ
おこなふ
したたむ

得る・手に入れる

う(得)
さづかる(授かる)
とる(取る)

※「いそぐ」は急いで準備する、「おこなふ」は儀式などを執り行う意味での準備、「う」は広く何かを得ることを指します。

↔️ 反対の概念

「まうく」が準備や獲得を意味するため、準備しないこと、失うこと、手放すことなどが対極にあると考えられます。

うしなふ(失ふ) (失う)
そこなふ(損なふ) (損なう、失う)
はなつ(放つ) (手放す)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

やかたまうけてまう様々さまざまたから運びはこる。(宇治拾遺物語)

【訳】館を準備して(建てて)、様々な宝物を運び入れる。

意味: ① 準備する・用意する(設置する)
2

弓矢ゆみやへてまうくまう。(平家物語)

【訳】弓矢を身から離さずに用意しておく(備えておく)。

意味: ① 準備する・用意する
3

きさきみやたちおくたまひて、皇子みこたち二人ふたりまうけまうたまへり。(源氏物語・桐壺)

【訳】(帝に)后や女御たちが先立たれなさって、皇子たちを二人お持ちになっていた(授かっていらっしゃった)。

意味: ② (子を)得る・授かる
4

博士はかせまうけてまう御学問ごがくもんせさせたまふ。(大鏡)

【訳】(家庭教師としての)博士を任命して(用意して)、ご学問をさせなさる。

意味: ③ (役職に)任命する・就かせる / ① 準備する・用意する
5

ただただいま一人ひとりまうけまうたまへる姫君ひめぎみ。(堤中納言物語)

【訳】ただ今一人だけお持ちになっている(授かっていらっしゃる)姫君。

意味: ② (子を)得る・授かる

📝 練習問題

傍線部の「まうく」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. かかるかかわざわざでむと、かねてよりまうけたるなりけり。(徒然草)

準備し
獲得し
任命し
失い

解説:

「かねてより(以前から)」とあり、「かかるわざをし出でむと(このようなことをしでかそうと)」という目的のために行動していることがわかります。したがって、「準備し」が適切です。

2. 大臣おとど北の方きたのかた御年おんとし三十に、初めて男子なんし一人まうけ給へり。(今昔物語集)

準備し
お授かりになっ
お探しになっ
お育てになっ

解説:

「男子一人」を目的語としており、「初めて」とあることから、子供を授かったという意味になります。「お授かりになっ(た)」が適切です。

3. 弓矢ゆみやとりたるものども、かど左右さうまうけて、まもらしむ。(保元物語)

得させて
配置して
任命して
戦わせて

解説:

弓矢を持った者たちを「門の左右に」とあるので、守らせるために人員を「配置して」という意味が最も適切です。「準備して」も近いですが、場所が具体的に示されているため「配置して」がより的確です。

4. おほやけものなりとも、わたくしものなりとも、これをまうけむためなり。(方丈記)

修理する
建設する
手に入れる
分配する

解説:

「公の物なりとも、私の物なりとも」とあり、それらを「まうけむため(まうけようとするため)」と述べています。これは、公私に関わらず物を「手に入れる」ためである、という意味になります。

5. このこのたびは、いかにもしていかかたきたてまつらんとて、いきほひまうけちけるに、(平治物語)

準備して
得て
任命して
失って

解説:

「敵を討ち奉らんとて(敵を討ち申し上げようとして)」という目的のために「勢ひをまうけて待ちけるに(勢力を準備して待っていたところ)」とあります。ここでは軍勢や戦力を「準備して」という意味が適切です。