「長年磨かれた芸が『らうらうじく』観客を魅了するように、この言葉は経験に裏打ちされた美や巧みさを表します」

📖 意味と用法

らうらうじ は、シク活用の形容詞で、「経験を積んで洗練されている」様子を示す重要な古文単語です。多くの場合、ポジティブな意味で使われます。

  1. 【洗練された美・巧みさ】洗練されて美しい、巧みだ、優れている: 見た目の美しさだけでなく、技術や振る舞いが熟達していて巧みな様子を表します。
  2. 【気品・優雅さ】気品がある、優雅だ、奥ゆかしい: 内面からにじみ出る上品さや落ち着き、優雅な様子を表します。
  3. 【物慣れた賢さ】物慣れていて賢そうだ、経験豊かでしっかりしている: 多くの経験を経て、物事に通じている賢さや、落ち着いて物事に対処できる様子を表します。

「らうらうじ」が使われている場合、どのような対象に対して、その経験や熟練度がどのように現れているのかを読み取ることが大切です。

洗練された美・巧みさの例

らうらうじく弾きなされたる様、いとめでたし。(源氏物語)

(巧みに弾きこなしていらっしゃる様子は、たいそう素晴らしい。)

気品・優雅さの例

御さま有様もいとらうらうじう、人にすぐれて見え給ふ。(栄花物語)

(ご様子もたいそう気品があり、人より優れてお見えになる。)

物慣れた賢さの例

女はらうらうじくて、はかなきことにも気をつけ、心くばりするなり。(徒然草)

(女性は物慣れていて賢く、ちょっとしたことにも気を配り、心遣いをするものである。)

🕰️ 語源と歴史

「らうらうじ」の語源は、「労あり(らうあり)」が変化したという説や、「労労し(いたわしい、骨が折れる)」の意から転じたなどの説がありますが、はっきりとは分かっていません。「労」が根本にあるとすれば、努力や経験を重ねた結果として得られる美しさや巧みさ、賢さといったニュアンスが生まれてきたと考えられます。

平安時代中期頃から用いられ、特に物語文学などで、人物の容姿や振る舞い、技能などが洗練され、優れている様子を賞賛する際に使われました。

📝 活用形と派生語

「らうらうじ」の活用(形容詞シク活用)

活用形 語形 接続
未然形 らうらうしから
連用形 らうらうしく / らうらうしう て、なり、他の用言
終止形 らうらうじ 言い切り
連体形 らうらうしき 体言、こと、の
已然形 らうらうしけれ ば、ども
命令形 らうらうしかれ (会話などで稀)

※連用形「らうらうしう」はウ音便化した形です。

派生語

  • らうらうげなり (形容動詞ナリ活用) – 洗練されているようだ、気品があるように見える
    いとらうらうげに、気高きさまして、(源氏物語)
    (たいそう洗練されているようで、気高い様子で、)
  • らうらうじさ (名詞) – 洗練されていること、巧みさ、気品
    その御琴の音のらうらうじさ、限りなし。(無名草子)
    (そのお琴の音色の巧みさは、この上ない。)

🔄 類義語

洗練されている・巧みだ

うるはし
たしかなり
こまやかなり

気品がある・優雅だ

いうなり
あてなり
みやびかなり

物慣れている・賢い

さかし
かしこし
おとなし

※これらの類義語も文脈によってニュアンスが異なります。

↔️ 反対の概念

「らうらうじ」が「経験を積んで洗練されている」ことを示すため、未熟であったり、不器用であったり、野暮ったい状態が対極にあると考えられます。

つたなし (未熟だ、下手だ)
かたくななり (頑固だ、教養がない)
やぼなり (野暮だ、風流がない)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

かみなども、らうらうじうえ給ふ。(源氏物語・若紫)

【訳】髪なども、洗練されて美しくお見えになる。

意味: ① 洗練されて美しい
2

ふみさまも、いとらうらうじくて、(枕草子・ありがたきもの)

【訳】手紙を書く様子も、たいそう巧みで、

意味: ① 巧みだ
3

かかるをりにも、ものこころり、らうらうじきひとは、(徒然草)

【訳】このような時にも、物事の道理を理解し、物慣れていて賢い人は、

意味: ③ 物慣れていて賢そうだ
4

女房にょうぼう一人ひとり、いとらうらうじう歌詠うたよみなどする、(大鏡)

【訳】女房の一人で、たいそう巧みに歌を詠んだりする人が、

意味: ① 巧みだ
5

容貌かたちこころなまめかしくらうらうじくいまめかしきを、(堤中納言物語・花桜折る少将)

【訳】容貌も心も優美で気品があり、現代風であるのを、

意味: ② 気品がある・優雅だ

📝 練習問題

傍線部の「らうらうじ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 物語ものがたりなどむにも、こゑらうらうじくて、ひとなみだながす。(枕草子)

巧みで
悲しそうで
賢そうで
大人びていて

解説:

物語を読む際の「声」について述べており、その結果として聞く人が涙を流すほど感動している文脈です。声が巧みで、表現力豊かであることを示唆しているので「巧みで」が適切です。

2. 女君おんなぎみは、いとらうらうじく何事なにごと調ととのほりてぞたまふ。(源氏物語・少女)

経験が浅く
気品があり
体が弱く
騒がしく

解説:

「何事も調ほりてぞ見え給ふ(何事も整ってお見えになる)」とあることから、女君の洗練された様子、内面的な成熟がうかがえます。「気品があり」が最も適切です。

3. ふるうたみちにもらうらうじきひとつくれるは、ことばなほえんなり。(古今和歌集仮名序)

身分が高い
年老いた
熟達した
格式ばった

解説:

「歌の道に」とあるので、和歌の道に長じている、つまり経験を積んで巧みな人を指します。「熟達した」が適切です。「らうらうじ」には物慣れている、巧みだという意味があります。

4. いとらうらうじうおはしおわて、おんこころばへもありがたかりありがたけり。(大和物語)

洗練されていらっしゃって
苦労なさって
寂しそうでいらっしゃって
若々しくていらっしゃって

解説:

「御心ばへもありがたかりけり(お心遣いもめったにないほど素晴らしかった)」と続くことから、その人物の洗練された様子や気品を褒めている文脈です。「洗練されていらっしゃって」が最も適切です。

5. わらはなれど、かうらうらうじくことけば、あはれあわなり。(宇治拾遺物語)

子供っぽく
物慣れた賢い
美しい
巧みに嘘をつく

解説:

「童なれど(子供ではあるが)」と対比されていることから、子供らしからぬ賢さや物慣れた様子で話すことを指しています。「物慣れた賢い」が適切です。