「手紙を書く『ついで』に近況を尋ねるように、この言葉は物事の順序や、何かをする良い機会を表します」
📖 意味と用法
ついで(序) は、名詞で、物事が続いて起こる際の順序や、何かをするのに都合のよい機会・折を指す古文単語です。「序」という漢字を当てることが一般的です。
- 【順序・次第】順序、序列、順番、次第: 物事が並んでいる順番や、家柄・身分などの序列を表します。
- 【機会・折】機会、折、場合、きっかけ: 何かをするのにちょうどよい時や、何かの折。多く「~のついでに」の形で用いられ、ある行為に付随して別の行為を行う状況を示します。
- 【(何かの)折に・機会に】(副詞的に)何かの機会に、何かの折に: 格助詞「に」を伴い、「~のついでに」と同様の意味で、ある行動をする機会を利用して別の行動も行うことを表します。
「ついで」が使われている場合、それが単なる順序を指しているのか、何かを行うための好機を指しているのかを文脈から判断することが大切です。
順序・次第の例
歌のついでを直し、言葉を改む。(古今和歌集仮名序)
(歌の順序(構成)を直し、言葉を改める。)
機会・折の例
何かのついでに申さむ。(源氏物語)
(何かの機会に申し上げよう。)
(何かの)折に・機会にの例
京へのぼる人のついでに(言づてむ)。(伊勢物語)
(京へ上る人の機会に(言伝をしよう)。)
🕰️ 語源と歴史
「ついで」の語源は、動詞「次ぐ(つぐ)」の連用形「つぎ」に、方向や場所、時などを表す接尾語「て(手・辺)」が付いて名詞化したもの(つぎ+て→ついで)と考えられています。「次ぐ」が「後に続く」「順番になる」という意味を持つことから、「ついで」も物事の「順序」や「次に起こること」を指すようになりました。
そこから転じて、ある事柄に引き続いて起こる別の事柄を行う良い「機会」や「折」という意味でも用いられるようになりました。特に「~のついでに」という形で、主目的の行為に付随して別の行為を行うことを示す表現として広く使われています。
📝 関連語
- ついであり (ラ変動詞) – 順序がある、機会がある、都合がよい
御文たてまつるべきついでありしかば。(源氏物語)
(お手紙を差し上げる良い機会があったので。) - つごもり(晦日・晦) (名詞) – 月の最後の日。月の満ち欠けの「つぎ(次)」の「こもり(隠り)」から。
- しだい(次第) (名詞) – 順序、いきさつ、わけ。
🔄 類義語
順序・次第
機会・折
※「しだい」は物事の成り行きや順序、「をり」はちょうどその時・場合、「き」は好機・チャンス、などニュアンスが異なります。
↔️ 反対の概念
「ついで」が順序や機会を指すため、明確な一語の反対語は特定しにくいですが、「順序がないこと(無秩序)」「機会がないこと」「不都合な時」などが対極にあると考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
物のついでに、いと忍びて参り給へり。(源氏物語・桐壺)
【訳】何かの機会に、たいそう人目を忍んで参上なさった。
文のついでは定めねど、思ひ乱るる事は、多かるべし。(蜻蛉日記)
【訳】手紙の順序(構成)は決めていないけれど、思い乱れることは多いだろう。
東の方へ行く人のあらむついでを求めてぞ、文をやる。(更級日記)
【訳】東国の方へ行く人がいるような機会を探して、手紙を送る。
さて、そのついでを述ぶれば、昔、男ありけり。(伊勢物語・初段)
【訳】さて、その順序(話の初め)を述べると、昔、男がいた。
何とはなしに、筆を取れば物を書き、硯に向かへば心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。そのついでに、(徒然草・序段より一部改変)
【訳】これということもなく、筆を取ると何かを書き、硯に向かうと心に浮かんでは消えていくたわいもないことを、とりとめもなく書きつけていると、不思議と気が変になりそうだ。その折に、
📝 練習問題
傍線部の「ついで」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 花の宴のついでと聞こえさせて、内裏へ参り給ふ。(源氏物語・花宴)
解説:
「花の宴」を「ついで」として内裏へ参上するとあります。これは、花の宴という行事を良い機会(あるいは口実)として参内することを意味しています。
2. 御格子参るついでありて、廂の間に人あり。(枕草子)
解説:
御格子を上げる(または下ろす)という行為をする機会があって、その時に廂の間に人がいた、という意味です。「ついであり」で「機会がある」となります。
3. 家のついで、人の身のありさまなど語り出でて、(徒然草)
解説:
家の「ついで」とは、その家の家柄や家格、序列を指します。ここでは「家の家柄や人の身の上などを語り出して」という意味になります。
4. そのついでにぞ、この歌は詠みける。(大和物語)
解説:
「そのついでに」という形で、「(何かがあった)その折に」「その機会に」この歌を詠んだ、という意味になります。
5. 門に人立てり。誰そと問へば、某なりと言ふ。これをついでに入りぬ。(竹取物語)
解説:
門に人が立っていて、それが誰々と分かった「これを機会として」中に入った、という意味です。その出来事や状況をきっかけとして行動したことを示します。