「旅には道連れ、人生には知恵を『具して』進むように、この言葉は共にあることの大切さを示します」
📖 意味と用法
ぐす(具す) は、サ行変格活用の動詞で、「そなわる」「連れていく」など、人や物が一緒にある状態や行動を示す重要な古文単語です。自動詞と他動詞の両方の用法があり、文脈によって意味を判断する必要があります。
- 【自動詞】連れ添う、備わる、従う、一緒に行く・ある: 主語自身が何かと共に存在したり、行動したりする意を表します。
- 例:妻に具して都へ行く。(妻に連れ添って都へ行く。)
- 例:才覚具したる人。(才知が備わっている人。)
- 【他動詞】連れて行く、備える、持つ、引き連れる、添える: 目的語となる人や物を伴わせる意を表します。
- 例:子を具して山寺に詣づ。(子供を連れて山寺に参詣する。)
- 例:弓矢を具して戦場へ赴く。(弓矢を携帯して戦場へ赴く。)
- 【補助動詞的用法】(動詞の連用形に付いて)~ている、~である: 状態の継続や存在を表すことがあります。
- 例:泣き具して夜を明かす。(泣きながら一緒にいて夜を明かす。)
「具す」が出てきたら、主語と目的語の関係、文脈から自動詞・他動詞のどちらか、または補助動詞的なのかを判断することが重要です。
自動詞の例
御供に人あまた具せり。(徒然草)
(お供として人が大勢従っていた。)
他動詞の例
幼き人々を具して、川尻に下る。(土佐日記)
(幼い子供たちを連れて、河口へ下る。)
補助動詞的用法の例
かぐや姫、いみじく泣き具してぞありける。(竹取物語)
(かぐや姫は、ひどく泣きながら一緒にいらっしゃった。)
🕰️ 語源と歴史
「具す」の「具」は、現代語の「道具(どうぐ)」「家具(かぐ)」「具材(ぐざい)」などに見られるように、「そなわる」「そなえる」「そろえる」という意味を持つ漢字です。
この基本的な意味から、「必要なものがそろっている」「(人や物が)付き添っている」「(何かを)持っている、備えている」といった多様な意味が派生しました。特に、人や物を伴って行動する際に頻繁に用いられる動詞です。
敬語としても使われることがあり、その場合は「お連れ申し上げる」「お持ち申し上げる」といったニュアンスを含むことがあります。ただし、「具す」自体が直接的な敬意を表すわけではなく、文脈や他の敬語との組み合わせで判断します。
📝 活用形と派生語
「具す」の活用(サ行変格活用)
活用形 | 語形 | 接続 |
---|---|---|
未然形 | ぐせ | ず、む、ば |
連用形 | ぐし | て、けり、たり |
終止形 | ぐす | 言い切り |
連体形 | ぐする | 体言、とき |
已然形 | ぐすれ | ば、ども |
命令形 | ぐせよ | – |
※「具す」はサ行変格活用の代表的な動詞の一つです。
派生語・関連語
- 御具 (おんぐ・みぐし) – (名詞) 身の回りの道具、調度品、特に貴人の持ち物
帝の御具ども、とりどりに整へたり。
(帝の身の回りの品々が、様々に整えられていた。) - 物具 (もののぐ) – (名詞) 武具、道具一般
物具かためて、敵を待つ。
(武具を固めて、敵を待つ。) - 具足 (ぐそく) – (名詞) 備わっていること、武具一式
万事具足せり。
(全てのことが十分に備わっている。)
🔄 類義語
連れて行く・伴う
備わる・持つ
従う
※「率る」は目下の人を、「伴ふ」は対等か目上の人にも使う傾向があります。「具す」は比較的広く使えます。
↔️ 反対の概念
「具す」が「共にある」「備わる」ことを示すため、直接的な一語の反対語は少ないですが、文脈によって以下のような言葉が対照的な意味を持つことがあります。
🗣️ 実践的な例文(古文)
大臣、御女を具して参りたまひにけり。(源氏物語)
【訳】大臣は、ご息女をお連れして参上なさった。
心細げなる人の、ただ一人二人ふたりばかり具して歩くもをかし。(枕草子)
【訳】心細そうな人が、ほんの一人か二人だけをお連れして歩いているのも趣がある。
この国の守、任果てて帰るに、妻子具せず。(土佐日記)
【訳】この国の国司が、任期が終わって(都へ)帰るのに、妻子を連れていない。
弓矢、胡簶の類まで具して参れり。(平家物語)
【訳】弓矢や、矢を入れる胡簶の類まで携帯して参上した。
勢具したる人は、心のままに振る舞へども、咎められず。(徒然草)
【訳】権勢が備わっている人は、思いのままに振る舞っても、非難されない。
📝 練習問題
傍線部の「具す」の現代語訳と用法として最も適切なものを選んでください。
1. 人々、子ども具して遊ぶ。(伊勢物語)
解説:
「子ども」という目的語をとっているので他動詞です。「子どもを連れて遊ぶ」という意味になります。
2. 年ごろ具して住み馴れたる家なれば、(後略)(源氏物語)
解説:
誰かを「連れて」住むのではなく、長年「一緒に(連れ添って)」住み慣れた家、という意味なので自動詞です。主語が家と共に時間を過ごしたニュアンスです。
3. かたちも心も勝れ、才なども具したる人。(徒然草)
解説:
容姿も心も優れ、才能なども「その人に備わっている」という意味なので自動詞です。「才などが(人に)具したる」という構造です。
4. 我をぐせさせ給へ。(今昔物語集)
解説:
「我を」と目的語があり、使役の助動詞「させ」と尊敬の補助動詞「給へ」が付いています。「私を(誰かに)連れて行かせてください」または文脈により「私をお連れください」の意味。ここでは他動詞の「連れて行く」が基本です。
5. ただ一人のみぞ、物語し具して昼寝したる。(源氏物語)
解説:
「物語し」という動詞の連用形に「具し」が接続しており、「(誰かと)語り合いながら一緒にいて昼寝をしている」という状態を表す補助動詞的な用法です。