現代文読解の秘訣:具体と抽象の区別

なぜ「具体と抽象の区別」が重要なのか?

評論文や論説文では、筆者はあるテーマに対する抽象的な主張や考えを読者に伝えようとします。しかし、抽象的な話だけでは理解が難しいため、具体的な事例やデータ、比喩などを用いて説明を補強します。

読解で大切なのは、以下の点です。

  1. 筆者の中心的なメッセージである「抽象的な主張」を見抜くこと。
  2. 「具体的な説明」が、どの「抽象的な主張」を裏付けるために用いられているのか、その関連性を理解すること。

設問の多くは、この「抽象的な主張」部分の理解度を問います。具体例に目を奪われすぎず、文章全体の構造の中で筆者の真意を掴むことが重要です。

それでは、具体的な問題で見ていきましょう。

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

現代は、情報が洪水のように押し寄せる時代である。インターネットを開けば、国内外のニュース、専門家の意見、個人の感想に至るまで、ありとあらゆる情報が瞬時に入手可能だ。スマートフォンは、その情報へのアクセスをさらに容易にし、私たちは常に膨大な情報に晒されていると言っても過言ではない。このような状況は、一見すると知識獲得の機会が増え、個人の視野を広げる上で有益であるかのように思える。しかし、その一方で、情報の真偽を見極める能力や、多様な情報の中から本質を掴み取り、自らの頭で深く考える力が、かつてなく重要になっている。情報を受け取るだけで満足し、表層的な理解に留まってしまうならば、それは思考の放棄に他ならない。玉石混交の情報の中から、真に価値あるものを選び出し、それらを批判的に吟味し、自らの知識体系へと再構築していく主体的な営みこそが、情報過多の現代を生き抜く上で不可欠な「知性」と言えるだろう。

問1 この文章で筆者が最も強く主張していることは何か。次の中から最も適切なものを一つ選びなさい。

インターネットやスマートフォンの普及により、現代人は常に膨大な情報に晒されているという事実。

情報過多の現代において、情報を主体的に選び取り、深く思考し再構築する知性が不可欠であるということ。

情報を受け取るだけで満足し、表層的な理解に留まることは、思考の放棄と同じであるという警告。

現代では情報の真偽を見極める能力が重要であり、フェイクニュースに騙されないための教育が必要であるということ。

解答・解説

正解:イ (←選択後に表示されます)

1. 本文の分析:具体と抽象の区別

まず、本文を「抽象的な主張・考え」と「具体的な説明・事例」に分けてみましょう。

具体的な説明・現状認識:
  • 現代は情報が洪水のように押し寄せる時代である。(現状の比喩的表現)
  • インターネットやスマートフォンにより、ニュース、意見、感想など多様な情報が瞬時に入手可能。(具体的な情報源とアクセス手段)
  • 常に膨大な情報に晒されている。(具体的な状況の要約)
  • 一見すると知識獲得の機会増、視野拡大に有益に見える。(情報過多の肯定的な側面への言及)

抽象的な主張・問題提起・筆者の結論:
  • しかし、その一方で、情報の真偽を見極める能力や、本質を掴み深く考える力が重要になっている。(問題提起・抽象的な能力の必要性)
  • 情報を受け取るだけで表層的な理解に留まるのは思考の放棄である。(筆者の強い懸念・抽象的な警告)
  • 玉石混交の情報から価値あるものを選び出し、批判的に吟味し、知識体系へ再構築する主体的な営みこそが、不可欠な「知性」である。(筆者の最も強く主張したいこと・抽象的な行動指針と結論)

構造のポイント:

筆者は、まず具体的な情報過多の現状を描写し、それがもたらす一見肯定的な側面に触れます。しかし(逆接)、それに対する抽象的な課題(思考力の重要性)を提示し、最終的に情報と主体的に向き合う「知性」という抽象的な概念の必要性を結論として強く主張しています。

2. 設問(問1)の解説

設問は「筆者が最も強く主張していること」を問うており、これは本文の抽象的な結論部分に対応します。

ア インターネットやスマートフォンの普及により、現代人は常に膨大な情報に晒されているという事実。

これは本文前半で述べられている具体的な現状認識であり、筆者の主張の前提とはなりますが、最も強く主張したい結論そのものではありません。

イ 情報過多の現代において、情報を主体的に選び取り、深く思考し再構築する知性が不可欠であるということ。

この選択肢は、本文の最終部分「玉石混交の情報の中から~不可欠な『知性』と言えるだろう」という筆者の抽象的な結論・主張を的確に言い換えています。「主体的に選び取り、深く思考し再構築する知性」が、筆者の提唱する核心的な概念です。これが正解です。

ウ 情報を受け取るだけで満足し、表層的な理解に留まることは、思考の放棄と同じであるという警告。

これは筆者の強い懸念であり、抽象的な警告として重要な部分ですが、筆者が最終的に訴えたいのはこの警告を踏まえた上で「ではどうすべきか」というより建設的な主張(選択肢イの内容)です。警告は主張の一部ではありますが、最も強く主張したいこと全体ではありません。

エ 現代では情報の真偽を見極める能力が重要であり、フェイクニュースに騙されないための教育が必要であるということ。

「情報の真偽を見極める能力」の重要性には触れていますが、これは筆者が提唱する「知性」の一側面に過ぎません。また、「フェイクニュースに騙されないための教育が必要」という具体的な対策までは本文で言及されておらず、筆者の主張の範囲を超えています。

3. まとめ:読解で「具体と抽象」をどう意識するか

筆者の最終的な着地点(抽象的な結論)を探す:

文章は多くの場合、具体的な描写や問題提起から始まり、筆者の考えや主張といった抽象的な結論へと展開します。特に「~と言えるだろう」「~が不可欠だ」といった断定的な表現に注目しましょう。

具体例は抽象的主張を支えるものと理解する:

具体的な状況説明(情報洪水、スマホの普及など)は、筆者がなぜある種の「知性」や「思考力」(抽象概念)が重要だと考えるのか、その背景や理由を説明するために用いられています。

キーワードとなる抽象概念に注目する:

筆者が繰り返し用いたり、特に定義を与えたりする抽象的な言葉(本文では「思考の放棄」「知性」など)は、主張の核となる可能性が高いです。

選択肢が「具体レベル」か「抽象レベル」かを見極める:

設問が「最も強く主張していること」を問う場合、具体的な事実や現象の指摘に留まる選択肢よりも、それらを踏まえた筆者の考えや価値判断、行動指針といった抽象的な内容を含む選択肢が正解になりやすいです。

現代文読解では、具体的な情報から筆者の抽象的なメッセージを読み取り、その論理構造を理解することが求められます。

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