現代文読解の秘訣:具体と抽象の区別
なぜ「具体と抽象の区別」が重要なのか?
評論文や論説文では、筆者はあるテーマに対する抽象的な主張や考えを読者に伝えようとします。しかし、抽象的な話だけでは理解が難しいため、具体的な事例やデータ、比喩などを用いて説明を補強します。
読解で大切なのは、以下の点です。
- 筆者の中心的なメッセージである「抽象的な主張」を見抜くこと。
- 「具体的な説明」が、どの「抽象的な主張」を裏付けるために用いられているのか、その関連性を理解すること。
設問の多くは、この「抽象的な主張」部分の理解度を問います。具体例に目を奪われすぎず、文章全体の構造の中で筆者の真意を掴むことが重要です。
それでは、具体的な問題で見ていきましょう。
問題
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
食文化のグローバル化は、私たちの食卓に多様な選択肢をもたらした。世界各国の料理を手軽に味わえるようになり、ファストフードチェーンや国際的なレストランブランドは、都市部を中心にどこでも見かける光景となった。これにより、異文化理解の一助となる側面や、食を通じた新たなビジネスチャンスが生まれていることも事実である。しかし、このような食の均質化・標準化が進む一方で、地域固有の食文化がその輝きを失いつつあるという懸念も指摘されている。代々受け継がれてきた伝統的な調理法や、その土地ならではの希少な食材、さらには食を中心とした地域コミュニティの絆までもが、効率性や利便性を追求する波の中で徐々に薄れつつあるのだ。筆者が考えるに、グローバルな食の恩恵を享受しつつも、それぞれの地域が育んできたローカルな食の価値、すなわち、その土地の気候風土や歴史、人々の生活の知恵が凝縮された食文化の独自性を再認識し、積極的に保護・継承していくことこそが、真に豊かな食の未来を築く上で不可欠なのではないだろうか。それは単なるノスタルジアではなく、食の多様性を守り、持続可能な食のシステムを考える上での重要な視点を提供するからである。
問1 この文章で筆者が最も重要だと考えていることは何か。次の中から最も適切なものを一つ選びなさい。
アグローバル化した食文化は、伝統的な食文化を駆逐するため、積極的に排除していくべきである。
イファストフードや国際的なレストランは、手軽で多様な食の選択肢を提供し、異文化理解を促進する重要な役割を担っている。
ウグローバルな食の利点を活かしつつも、地域固有の食文化が持つ独自の価値を再認識し、未来へ継承していくこと。
エ伝統的な調理法や希少な食材は、効率性や利便性の観点から見直され、現代に合わせて簡略化されるべきである。
解答・解説
1. 本文の分析:具体と抽象の区別
まず、本文を「抽象的な主張・考え」と「具体的な説明・事例」に分けてみましょう。
具体的な説明・現状認識:
- 食文化のグローバル化により、世界各国の料理が手軽に味わえるようになった。(具体的な状況)
- ファストフードチェーンや国際的レストランが普及。(具体的な例)
- 異文化理解の一助、新たなビジネスチャンスという側面もある。(グローバル化の具体的な利点)
- しかし、地域固有の食文化(伝統的調理法、希少食材、コミュニティの絆)が薄れつつある。(グローバル化の具体的な問題点・懸念)
抽象的な主張・筆者の結論:
- 筆者が考えるに、グローバルな食の恩恵を享受しつつも、ローカルな食の価値(気候風土、歴史、生活の知恵が凝縮された食文化の独自性)を再認識し、保護・継承することが不可欠である。(筆者の中心的な主張・抽象的な行動指針)
- それは単なるノスタルジアではなく、食の多様性保護や持続可能な食のシステムを考える上で重要な視点を提供する。(主張の意義・抽象的な価値)
構造のポイント:
筆者は、食のグローバル化という具体的な現状とその具体的な利点・問題点を提示した後、「しかし」という逆接を挟まずに、「筆者が考えるに」と自身の抽象的な主張を展開しています。その主張の核心は、ローカルな食文化の「独自性」という抽象的な価値を認識し、それを「保護・継承する」という抽象的な行動の重要性です。
2. 設問(問1)の解説
設問は「筆者が最も重要だと考えていること」を問うており、これは本文の抽象的な結論・主張部分に対応します。
ア グローバル化した食文化は、伝統的な食文化を駆逐するため、積極的に排除していくべきである。
筆者は「グローバルな食の恩恵を享受しつつも」と述べており、グローバル化を全否定したり排除を主張したりはしていません。これは筆者の抽象的なバランス感覚と異なります。
イ ファストフードや国際的なレストランは、手軽で多様な食の選択肢を提供し、異文化理解を促進する重要な役割を担っている。
これは本文で触れられているグローバル化の具体的な利点の一つですが、筆者が「最も重要だ」と結論付けている抽象的な主張ではありません。部分的な事実に過ぎません。
ウ グローバルな食の利点を活かしつつも、地域固有の食文化が持つ独自の価値を再認識し、未来へ継承していくこと。
この選択肢は、筆者が「筆者が考えるに~不可欠なのではないだろうか」と提示している抽象的な主張と完全に一致します。「独自の価値の再認識(抽象)」と「未来への継承(抽象的な行動)」が、グローバル化とのバランスの中で重要だと述べています。これが正解です。
エ 伝統的な調理法や希少な食材は、効率性や利便性の観点から見直され、現代に合わせて簡略化されるべきである。
筆者は地域固有の食文化や伝統調理法、希少食材が「薄れつつある」ことを懸念しており、それらの「独自性」や「価値」を再認識し「保護・継承」すべきだと主張しています。この選択肢は、筆者の抽象的な価値観と逆行します。
3. まとめ:読解で「具体と抽象」をどう意識するか
筆者の意見表明(抽象的主張)を見つける:
「筆者が考えるに」「~ではないだろうか」「~こそが重要だ」といった表現は、筆者の抽象的な意見や主張が述べられているサインです。
具体例と抽象的主張のバランスを見る:
筆者は具体的な現状(グローバル化の様子)を述べた上で、それに対する自身の抽象的な考え(ローカルな価値の再認識と継承)を提示しています。どちらに議論の重きが置かれているかを見極めます。
対比される概念のどちらを重視しているか:
本文では「グローバルな食」と「ローカルな食」が対比的に扱われていますが、筆者は後者の「ローカルな食の価値」を再認識し継承することの重要性を抽象的に訴えています。
選択肢が主張の本質を捉えているか:
正解の選択肢は、筆者の抽象的な主張の核心を捉え、本文全体のメッセージと整合性が取れているはずです。単なる具体例の言及や、主張の一部分だけを切り取ったものは誤りとなることが多いです。
具体的な現象の奥にある筆者の抽象的な問題意識や価値観を読み解くことが、現代文読解の鍵となります。