人の安否を気遣い、あるいは故人を偲び、足を運ぶ。それが「とぶらふ」心です。

📖意味と用法

とぶらふ(訪ふ・弔ふ)は、ハ行四段活用の動詞で、対象への関心や配慮から行われる訪問や追悼の行為を表します。文脈や漢字表記によって意味を判断します。

  1. 【訪ふ】訪れる、訪問する、見舞う:
    人の家や場所をたずねること。特に、安否を気遣って見舞う場合によく使われます。
  2. 【弔ふ】弔う、死者の冥福を祈る、供養する:
    亡くなった人の霊を慰めたり、冥福を祈ったりすること。葬儀に参列したり、墓参りしたりする行為も指します。
  3. (広く)尋ねる、捜し求める:
    人や物をさがし求める意味で使われることもあります。

現代語の「弔う(とむらう)」は「弔ふ」の意味が残ったものですが、古文では「訪れる」の意味も非常に重要です。誰が誰(何)に対して行っている行為かを把握しましょう。

訪れる・見舞うの例

病める友をとぶらふ。(徒然草)

(病気の友を見舞う。)

弔うの例

亡き人の後をとぶらふ。(源氏物語)

(亡くなった人の菩提を弔う。)

🕰️語源と歴史

「とぶらふ」の語源は、「問う(とふ)」に反復・継続の助動詞「ふ」が付いたもの(とひ見る→とびらふ)、あるいは「立つ(たつ)」+「窺う(うかがふ)」から来ているなど諸説あります。

元々は、相手の様子を「問う」「尋ねる」という行為が基本にあり、そこから安否を気遣って訪問する「訪ふ」、死者の霊に問いかけ冥福を祈る「弔ふ」へと意味が分化したと考えられます。

上代から使われている古い言葉です。

📝活用形と関連語

「とぶらふ」の活用(ハ行四段活用)

活用形 語形 接続例
未然形 とぶらは ず、む
連用形 とぶらひ て、けり、ます
終止形 とぶらふ 。(言い切り)
連体形 とぶらふ 時、人
已然形 とぶらへ ば、ども
命令形 とぶらへ 。(命令)

関連語

  • とぶらひ (名詞) – 訪問、見舞い、弔い
  • おとづる(音に聞くの意も) (動詞) – 訪れる、便りをする

🔄類義語

訪れる・見舞う

おとづる
みまふ(見舞ふ)
とふ(問ふ・訪ふ)

弔う

いたむ(悼む)
くようす(供養す)

↔️反対の概念

「とぶらふ」が積極的に関わる行為であるのに対し、「放置する」「関心を持たない」といった状態が対極にあります。

うつる(疎る) (疎遠になる)
かへりみず (顧みない)

🗣️実践的な例文(古文)

1

ひさしくとぶらはざりけるとももとく。(伊勢物語)

【訳】久しく訪ねなかった友人のもとへ行く。

意味: ① 訪れる
2

おやはかまうでて、なみだながしてとぶらひけり。(今昔物語集)

【訳】親の墓に参って、涙を流して弔った。

意味: ② 弔う
3

つきかげをとぶらふひともなき山里やまざと。(新古今和歌集)

【訳】月光を訪ねてくる(賞美する)人もない山里。

意味: ① 訪れる(賞美しに) / ③ 尋ね求める
4

みやこよりひととぶらふまれなり。(源氏物語)

【訳】都から人が訪ねてくることも稀である。

意味: ① 訪れる
5

のちとぶらふこそ第一だいいち急務きふむなれ。(徒然草)

【訳】来世(の冥福)を弔う(祈る)ことこそが第一の急務である。

意味: ② 弔う(冥福を祈る)

📝練習問題

傍線部の「とぶらふ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. とほくよりわざわざわざわざとぶらひたまへるこころざし、あさからず。

お訪ね
お弔い
お探し
お尋ね(質問)

解説:

「遠くよりわざわざ」とあることから、物理的に足を運ぶ行為、つまり「お訪ね」になったと解釈するのが自然です。「心ざし」はここでは「ご厚意」の意。

2. きみ菩提ぼだいとぶらはむとて、てらつ。

見舞おう
弔おう
捜そう
訪問しよう

解説:

「亡き君の御菩提を」とあるので、死者の冥福を祈る行為、つまり「弔おう」という意味になります。

3. このこのはなありかありかとぶらふひともなし。

見舞う
弔う
捜し求める
供養する

解説:

「花のありか(花の咲いている場所)」を対象としているので、「捜し求める」または「尋ねる」という意味が適切です。

4. としごろ音信おとづれざりけるひとを、いまとぶらふ

訪問する
弔問する
捜索する
質問する

解説:

「年ごろ音信ざりける人(長年便りがなかった人)」を対象にしているので、その人のもとを「訪問する」という意味になります。

5. いくさせるものどもをとぶらはたまふ。

お見舞いになる
お弔いになる
お捜しになる
お訪ねになる

解説:

「戦に死せる者ども(戦死者たち)」を対象としているので、その霊を「お弔いになる」という意味です。「せ給ふ」は使役・尊敬の助動詞で、ここでは尊敬でしょう。

古文単語「とぶらふ」クイズゲーム(選択問題編)

古文単語「とぶらふ」クイズゲーム(選択問題編)