ゆゆし (形容詞・シク活用)

①はなはだしい、並々でない ②不吉だ、恐ろしい ③すばらしい、立派だ

「いみじ」と同様に、程度が極端であることを示す。文脈により吉凶両様の意味を持つ。

 
 

「『ゆゆしき事態』とは、良くも悪くもただ事ではない状況を指します」

📖意味と用法

ゆゆしは、シク活用の形容詞で、「程度がはなはだしい」ことを示す重要な古文単語です。「いみじ」と意味が似ており、文脈によって吉凶どちらの意味にもなります。

  1. 【程度のはなはだしさ】はなはだしい、並々でない、たいへんだ:
    これが基本的な意味で、良い意味にも悪い意味にもつながります。
  2. 【マイナス評価】不吉だ、恐ろしい、気味が悪い:
    元々は「忌むべき(いむべき)」対象に対して使われたため、凶事を表すことが多いです。
  3. 【プラス評価】すばらしい、立派だ、神聖だ、おごそかだ:
    程度がはなはだしく良い、敬うべき対象などにも使われます。

「ゆゆし」も「いみじ」と同様、文脈をしっかり捉え、どの意味で使われているかを見極める必要があります。

不吉・恐ろしいの例

ゆゆしき夢を見つ。(源氏物語)

(不吉な夢を見た。)

すばらしいの例

ゆゆしき楽の音。(枕草子)

(たいそうすばらしい楽の音。)

はなはだしいの例

ゆゆしく寒し。(更級日記)

(ひどく寒い。)

🕰️語源と歴史

「ゆゆし」の語源は、「斎む(いむ=心身を清めて慎む)」の形容詞形「忌忌し(いむいむし)」が変化したものと考えられています。「いむ」は神聖なものや不浄なものを避けて慎むという意味です。

このため、「ゆゆし」は元々、神聖で恐れ多いものや、不吉で忌み慎むべきものを指しました。そこから「程度がはなはだしい」という意味が派生し、良いことにも悪いことにも使われるようになりました。

特に中世以降、「いみじ」と意味・用法が非常に近くなりました。

📝活用形と派生語

「ゆゆし」の活用(形容詞シク活用)

活用形 語形 接続
未然形 ゆゆしから
連用形 ゆゆしく / ゆゆしう て、なり、他の用言
終止形 ゆゆし 言い切り
連体形 ゆゆしき 体言、こと、の
已然形 ゆゆしけれ ば、ども
命令形 ゆゆしかれ (会話などで稀)

※連用形「ゆゆしう」はウ音便化した形です。

派生語

  • ゆゆしさ (名詞) – はなはだしさ、恐ろしさ、すばらしさ
    そのゆゆしさを知るべし。(徒然草)
    (その恐ろしさを知るべきだ。)

🔄類義語

程度が甚だしい(プラス・マイナス共通)

いみじ
いたし
はなはだし

すばらしい (プラス評価)

いみじ
めざまし

不吉だ・恐ろしい (マイナス評価)

いみじ
あさまし
むつかし

↔️反対の概念

「ゆゆし」が「程度がはなはだしい」ことを示すため、「普通である」「取るに足りない」といった状態が対極にあります。

なのめなり (平凡だ)
おろかなり (並一通りだ)

🗣️実践的な例文(古文)

1

かみ御前おんまえは、ゆゆしきことどもありけり。(徒然草)

【訳】神前では、恐れ多い(神聖な)ことがあった。

意味: ③ すばらしい、神聖だ
2

いかづちゆゆしうりてあめりければ、(大和物語)

【訳】雷がひどく鳴って雨が降ったので、

意味: ① はなはだしく / ② 恐ろしく
3

かかるかかるゆゆしきうへなげく。(源氏物語)

【訳】このようなたいへんな(つらい)身の上を嘆く。

意味: ① はなはだしい(悪い意味で)
4

みかど気色きそくゆゆしくおぼしめしたるさまなり。(大鏡)

【訳】帝のご機嫌は、たいそう(ご立派に)お思いになっている様子である。

意味: ③ すばらしく / ① はなはだしく
5

死人しびとこそゆゆしけれ。(枕草子)

【訳】死人こそ気味が悪いものだ。

意味: ② 不吉だ、気味が悪い

📝練習問題

傍線部の「ゆゆし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. ただ人ただびとにはあらあらじ、ゆゆしき鬼神おにがみなるべし。(宇治拾遺物語)

すばらしい
恐ろしい
並々でない
神聖な

解説:

「鬼神」という言葉から、ここではマイナス評価の「恐ろしい」が適切です。「ただ人ではない」という文脈もヒントになります。

2. たきおとゆゆしうきこゆる所なり。(更級日記)

不吉に
すばらしく
はなはだしく
恐ろしく

解説:

滝の音が「聞こえる」程度を修飾しているので、「はなはだしく」または「たいそう」が適切です。ここでは「はなはだしく」が選択肢にあります。

3. かかるかかるゆゆしきわざわざでたるものかな。(源氏物語)

たいへんな
神聖な
普通の
美しい

解説:

「わざ(こと・行い)」の内容が具体的に示されていませんが、「し出でたる者かな」という詠嘆から、並々でないこと、つまり「たいへんな」こと(良い意味でも悪い意味でも)をした者だ、と解釈するのが自然です。

4. このこのてら縁起えんぎこそ、ゆゆしけれ。(今昔物語集)

恐ろしい
すばらしい
不吉だ
並々でない

解説:

寺の「縁起(由来・来歴)」について述べているので、通常は肯定的な意味で「すばらしい」または「霊験あらたかな」といった意味になります。

5. けてかねこゑゆゆしくきこゆ。(方丈記)

すばらしく
神聖に
不吉に
たいそう美しく

解説:

夜更けの鐘の音は、文脈によって「しみじみと趣深い」とも「不気味だ」とも取れますが、『方丈記』の無常観漂う文脈や、夜の静寂を破る音としてのインパクトを考えると、「不吉に」あるいは「気味悪く」といったニュアンスが強まることがあります。ここでは「不吉に」が最も適切です。

古文単語「ゆゆし」クイズゲーム(選択問題編)

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