手に負えないいたずらっ子や、意地の悪い人…「さがなし」はそんな困った性質を指します。
意味と用法
さがなしは、ク活用の形容詞で、人の性質や行為、時には運勢などについて、好ましくない状態を表します。「性(さが)」は人の生まれ持った性質や習慣を指し、これが「なし」と付きますが、「性質がない」のではなく「(良い)性質がない」「(悪い)性質だ」というニュアンスになります。
- 【意地が悪い】意地が悪い、性根がよくない、口が悪い:
人の性格や言動が悪質であることを指します。 - 【いたずらだ】(子供などが)いたずらだ、やんちゃだ、行儀が悪い:
主に子供の手に負えない行動を指します。現代語の「性無し」に近いですが、古文ではより強い非難を含むこともあります。 - 【(運勢などが)よくない】(運勢・縁起などが)よくない、不吉だ:
まれに、人の性質ではなく、運の悪さや縁起の悪さを指すことがあります。
多くは人物の好ましくない性質や行動を非難する文脈で使われます。誰のどのような「さが」について述べているかを読み取りましょう。
意地が悪いの例
さがなき人のそしり。(徒然草)
(意地悪な人の悪口。)
いたずらだの例
さがなき童べのつかまつりける。(源氏物語)
(いたずらな子供たちがし申し上げたこと。)
語源と歴史
「さがなし」は、名詞「性(さが)」に、それを否定的に評価する形容詞の語尾「なし」が付いた形です。
「性(さが)」は、生まれつきの性質、習慣、運命などを意味します。「さがなし」は文字通りには「性がない」ですが、実際には「良い性がない」「悪い性だ」という否定的な評価を表します。
平安時代から使われ、人の性格や行動を批判する際によく用いられました。
活用形と関連語
「さがなし」の活用(形容詞ク活用)
活用形 | 語形 | 接続例 |
---|---|---|
未然形 | さがなく | (さがなから) |
連用形 | さがなく | (さがなかり)、て、言ふ |
終止形 | さがなし | 。(言い切り) |
連体形 | さがなき | 人、こと |
已然形 | さがなけれ | ば、ども |
命令形 | さがなかれ | 。(命令) |
関連語
- 性(さが) (名詞) – 性質、習慣、運命
- さがなさ (名詞) – 意地の悪さ、いたずらなこと
類義語
意地が悪い
いたずらだ
反対の概念
「さがなし」が「悪い性質」を指すのに対し、「良い性質」「善良」といった状態が対極にあります。
実践的な例文(古文)
さがなき犬の、人に吠えかかりたる。(枕草子)
【訳】たちが悪い(行儀の悪い)犬が、人に吠えかかったの。
さがなき者のいたづらに、火を付けたりけるにや。(徒然草)
【訳】意地の悪い者のいたずらで、火をつけたのであろうか。
口もさがなく言ひ散らす。(源氏物語)
【訳】口も意地悪く(遠慮なく)言い散らす。
この年は雨降らず、さがなき夏なりけり。
【訳】この年は雨が降らず、よくない(不順な)夏であった。
いとさがなき乳母の子なり。(堤中納言物語)
【訳】たいそういたずらな乳母の子である。
練習問題
傍線部の「さがなし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. あの男のさがなき言葉に腹を立つ。
解説:
「言葉に腹を立つ」という状況から、その言葉が「意地が悪い」または「口が悪い」ものであると推測できます。
2. 幼き君のさがなきに、人々手を焼く。
解説:
「幼き君(幼い若君)」が「手を焼く」対象であることから、その「いたずらっぽさ」や「やんちゃぶり」を指していると考えられます。
3. 今日はさがなき日なれば、遠出は慎むべし。
解説:
「日」について述べており、「遠出は慎むべし」とあることから、その日が「縁起が悪い」または「不吉な」日であると解釈するのが適切です。
4. あの女房はいとさがなしと聞こゆ。
解説:
女房(女官・侍女)の評判について述べているので、「性根がよくない」または「意地が悪い」という性格に関する評価が考えられます。
5. こはさがなき仕業かな。
解説:
「仕業(しわざ)」に対する評価なので、「たちの悪い」または「悪質な」行為であると解釈するのが適切です。「いたずらな」も近いですが、より非難の度合いが強いニュアンスです。