なお(尚) (副詞)

①やはり、そうはいうものの ②さらに、いっそう ③それでもやはり、依然として

現代語の「なお」と共通する部分が多いが、文脈によるニュアンスの違いに注意。

時が流れても、状況が変わっても、「なお」変わらぬもの、深まるものがあります。

📖意味と用法

なお(尚)は、副詞で、現代語の「なお」と多くの意味を共有しますが、古文特有のニュアンスも持ちます。主に継続、付加、逆接的な意味合いで用いられます。

  1. 【やはり・そうはいうものの(逆接的継続)】やはり、それでもやはり、そうはいうものの(依然として〜だ):
    前の事柄を受けて、予想に反して、あるいは当然のこととして、ある状態が継続していることを示します。「A。なおB」で「Aだ。それでもやはりBだ」という感じ。
  2. 【さらに・いっそう(付加・強調)】さらに、いっそう、ますます、その上に加えて:
    ある状態や程度に、さらに別の要素が加わったり、程度が深まったりすることを示します。「A。なおB」で「Aだ。さらにBもだ」や「Aで美しい。なおBでいっそう美しい」という感じ。
  3. 【依然として・まだ(単純継続)】依然として、今でもまだ、相変わらず:
    以前からの状態が変わらず続いていることを示します。

「なお」がどの意味で使われているかは、前後の文脈、特に接続の仕方や呼応する語句に注目して判断します。「〜だに、〜すら、〜さへ」などの副助詞を伴って「〜でさえやはり」と強調することもあります。

やはり・そうはいうもののの例

年は老いぬ。なほ壮んなり。(徒然草)

(年はとった。それでもやはり元気である。)

さらに・いっそうの例

雨降りて、花なほ美し。(枕草子)

(雨が降って、花がいっそう美しい。)

🕰️語源と歴史

「なお」の語源は、「な(汝・己)お(緒)」で「あなた自身」から転じたという説や、「な(名)ほ(秀)」で「名高い」からという説などがありますが、はっきりしません。

「なほ」の表記が古くから見られ、上代から使われている言葉です。意味合いは現代語と大きく変わっていませんが、古文では特に「そうはいうもののやはり」という逆接的なニュアンスや、「さらに輪をかけて」という強調のニュアンスが強く出ることがあります。

📝関連表現

「なお」は副詞なので活用はありませんが、他の語と結びついて特定のニュアンスを強めることがあります。

  • なほ~ごとし(如し): やはり~のようだ、依然として~のようだ。
  • なほ~(副助詞「だに」「すら」「さへ」など): ~でさえやはり、~だけでもなお。
  • なほまた: その上また、さらにまた。

🔄類義語

やはり、依然として

さすがに
もとのごとく

さらに、いっそう

いとど
ますます
かさねて

↔️反対の概念(継続に対して)

「なお」が継続や付加を示すのに対し、「もはや〜ない」「ついに」といった変化や終結を示す語が対照的です。

はや(早) (すでに、もはや)
つひに(終に)

🗣️実践的な例文(古文)

1

けぬ。しかるにつきなほあかるし。(方丈記)

【訳】夜は更けた。そうではあるが月は依然として明るい。

意味: ① やはり、それでもやはり
2

紅葉もみぢりたるはうつくし。そのうへつゆきたるは、なほあはれあはれなり。(徒然草)

【訳】紅葉が散っているのは美しい。その上に露が置いているのは、さらにいっそう趣深い。

意味: ② さらに、いっそう
3

むかしひとなほおくゆかしきことおほかりけり。(源氏物語)

【訳】昔の人はやはり奥ゆかしいことが多かったなあ。

意味: ① やはり / ③ 依然として
4

かくかくへども、なほこころうごかぬひともありけり。(伊勢物語)

【訳】このように言っても、それでもやはり心も動かない人もいた。

意味: ① それでもやはり
5

ゆめなかにもなほわすれず。(更級日記)

【訳】夢の中でもやはり忘れない。

意味: ① やはり、それでもなお

📝練習問題

傍線部の「なほ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. はるあけぼのやうやうやうやうしろなりなりゆくゆく山際やまぎはすこしすこしあかりあかりて、むらさきだちたるくもほそくたなびきたる、なほめでたしめでたし。(枕草子)

それでもやはり
いっそう
依然として
その上

解説:

春の曙の美しい情景を描写しており、紫がかった雲がたなびいている様子を「めでたし(すばらしい)」と述べています。ここでは、その美しさをさらに強調する「いっそう」が適切です。

2. 月日つきひ百代はくたい過客くわかくにして、きかふとしまたまた旅人たびびとなり。…古人こじんおほたびせるあり。予もいづれのとしよりか、片雲へんうんかぜさそはれて、漂泊へうはくおもまず、海浜かいひんにさすらへ、去年こぞあき江上かうしやう破屋はおく蜘蛛くも古巣ふるすはらひて、やうやうやうやうとしれ、はるてるかすみそらに、白河しらかはせきえんと、…たびものごころ細ぼそく、あるはあるはかなしき思いおもいあれどあれどなほたびをやめず。(おくのほそ道)

さらに
いっそう
それでもやはり
依然として

解説:

旅の物心細さや悲しい思いがある「けれど(あれど)」、それにもかかわらず旅をやめない、という逆接的な継続を示しているので、「それでもやはり」が最も適切です。

3. あめみぬれど、なほくもあつし。

さらに
いっそう
依然として
その上

解説:

雨は止んだが、雲が厚い状態は変わらず続いていることを示しているので、「依然として」が適切です。

4. このこのはなうつくし。なほかのかのはなにはおとるべし。

そうはいうもののやはり
さらに
いまだに
その上

解説:

この花も美しいが、それにもかかわらず、やはりあちらの花には劣るだろう、という逆接的なニュアンスで「そうはいうもののやはり」が適切です。

5. とし七十ななそぢおよべり。なほみみたしかなり。

さらに
それでもやはり
ますます
その上

解説:

年は70歳になったが、それにもかかわらず目も耳も確かである、という逆接的な意味合いで「それでもやはり」が適切です。「依然として」も近いですが、年齢という条件を踏まえた上での継続なので、逆接のニュアンスがより強いです。

古文単語「なほ」クイズゲーム(選択問題編)

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