おぼゆ(覚ゆ) (動詞・ヤ行下二段活用)

①(自然と)思われる、感じられる ②思い出される ③似ている、面影がある

自発の助動詞「ゆ」が付いた形。自分の意志とは関係なく、そう感じたり思い出したりする様を表す。

 
 

ふと心に浮かぶ思い、懐かしい記憶、誰かに似た面影…「おぼゆ」はそんな自然な心の動きを捉えます。

📖意味と用法

おぼゆ(覚ゆ)は、ヤ行下二段活用の動詞で、「思ふ」に自発の助動詞「ゆ」が付いた「思はゆ」が変化した語です。そのため、自分の意志とは関係なく、自然にそう思ったり感じたりする意味合いが中心となります。

  1. 【(自然と)思われる・感じられる】(自然と)そう思われる、そのように感じられる、判断される:
    最も基本的な意味。主観的な判断や感覚が自然に生じる様子を表します。「〜とおぼゆ」「〜やうにおぼゆ」の形でよく使われます。
  2. 【思い出される】(自然と)思い出される、記憶がよみがえる:
    過去の出来事や人が、意図せず心に浮かんでくる様子。
  3. 【似ている・面影がある】(〜に)似ている、面影がある、〜を思わせる:
    ある人や物が、別の人や物に似ていると感じられること。特に顔つきや雰囲気が似ている場合に使われます。
  4. 【(人から)思われる・評価される】(人から)そのように思われる、評価される:
    他者からの評価や評判が自然とそうなる、という意味合い。受身的なニュアンス。

「おぼゆ」は自発の意味が基本なので、「誰が」ではなく「(主語にとって)自然にそう感じられる」という視点で訳すと自然です。

思われる・感じられるの例

あはれとおぼゆるなり。(徒然草)

(しみじみと趣深いと思われるのである。)

思い出されるの例

昔の事おぼえて、涙落つ。(伊勢物語)

(昔のことが思い出されて、涙が落ちる。)

似ているの例

母君におぼえ給へる顔つき。(源氏物語)

(母君に似ていらっしゃる顔つき。)

🕰️語源と歴史

「おぼゆ」は、動詞「思ふ(おもふ)」の未然形「思は」に自発の助動詞「ゆ」が付いた「思はゆ(おもはゆ)」が音変化したものです。「ゆ」は、現代語の「〜れる・られる」の自発(自然とそうなる)の意味に近いです。

そのため、「おぼゆ」は「(自分の意志とは関係なく)自然にそう思われる」というのが中核的な意味となります。この自発的な感覚から、「思い出される」「似ていると感じられる」といった意味が派生しました。

平安時代以降、広く用いられる重要な古語の一つです。

📝活用形と関連語

「おぼゆ」の活用(ヤ行下二段活用)

活用形 語形 接続例
未然形 おぼえ ず、む、ん
連用形 おぼえ て、けり、たり
終止形 おぼゆ 。(言い切り)
連体形 おぼゆる 時、人
已然形 おぼゆれ ば、ども
命令形 おぼえよ 。(命令)

関連語

  • おぼえ (名詞) – (人からの)評判、寵愛、自信、記憶
  • 思ふ(おもふ) (動詞) – 思う、愛する

🔄類義語

思われる・感じられる

見ゆ(そう見える)
聞こゆ(そう聞こえる、評判になる)

似ている

似る(にる)
~めく(~のように見える)

↔️反対の概念(自発に対して)

「おぼゆ」が自発的な感覚を表すのに対し、意志的な思考や行動が対照的です。

思ふ(おもふ) (意志的に思う)
忘る(わする) (意志的に忘れる、思い出さない)

🗣️実践的な例文(古文)

1

いといとかなしとおぼゆ。(枕草子)

【訳】たいそう悲しいと思われる(感じられる)。

意味: ① (自然と)思われる、感じられる
2

はは面影おもかげおぼゆる。(更級日記)

【訳】亡き母の面影が思い出される。

意味: ② 思い出される / ③ 面影がある
3

かのかの姫君ひめぎみいといとよくおぼえたまへり。(源氏物語)

【訳】あのお姫様にたいそうよく似ていらっしゃる。

意味: ③ 似ている
4

ゆめかとぞおぼゆる。(伊勢物語)

【訳】夢かと(自然と)思われる。

意味: ① (自然と)思われる
5

ひとにくまれむとおぼえものやはあらむ。(徒然草)

【訳】人に憎まれようと(自然と人にそう)思われて振る舞う者がいるだろうか、いやいない。

意味: ④ (人から)思われる

📝練習問題

傍線部の「おぼゆ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. このこの景色けしききしにたりとおぼゆ

思われる
思い出す
似ている
覚えている

解説:

景色が絵に似ている「と(自然と)思われる」という意味です。「似たり」で既に類似は示されており、「おぼゆ」はそのように感じられるという自発のニュアンスを加えます。

2. をさなかりしころことども、いまかすかにかすかにのみおぼゆ

感じられる
思い出される
似ている
判断される

解説:

「幼かりし頃の事ども(幼かった頃のことなど)」が「かすかにのみ(かすかにだけ)」心に浮かんでくる様子なので、「思い出される」が適切です。

3. そのそのひとかほちちいといとよくおぼえたり。

思われた
思い出された
似ていた
記憶していた

解説:

人の顔が亡き父に「いとよく(たいそうよく)」という文脈なので、「似ていた」という意味になります。

4. いみじういみじうかしこしとおぼえひとも、あん相違さうゐしておろかなりけり。

思われた
思い出された
似ていた
記憶していた

解説:

「いみじう賢しと(たいそう賢いと)」という評価が自然に生じていた人、つまり「思われた」人が、実際は違ったという内容です。

5. ただただゆめ心地ここちしておぼゆ

思い出す
感じられる
似ている
覚えている

解説:

「ただ夢の心地して(まるで夢のような気持ちがして)」そのように「感じられる」という意味です。自発的な感覚を表しています。

古文単語「おぼゆ」クイズゲーム(選択問題編)

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