時が止まったかのように、あるいは鏡に映したかのように。「さながら」は変わらぬ姿、酷似した姿を指し示します。
意味と用法
さながらは、副詞または形容動詞ナリ活用として用いられ、主に「そのままの状態」や「酷似」を表します。指示語「さ」(そのように)に接続助詞「ながら」(〜のままで、〜のとおりに)が付いた形です。
- 【そのまま・もとのまま】(副詞的)そのまま、そっくりそのまま、もとの状態のまま:
ある状態が変化せずに維持されている様子。 - 【まるで・そっくりそのまま】(副詞的)まるで〜のようだ、そっくりそのまま〜と同じだ:
何かに酷似している様子。比喩表現(直喩)でよく使われ、「〜の(やうに)さながら」の形も多い。 - 【すべて・ことごとく】(副詞的)全部、残らずすべて、ことごとく:
ある範囲のものが一つ残らず同じ状態であること。 - 【(形容動詞ナリ活用)そのままである、そっくりである】:
形容動詞として「さながらなり」「さながらなる」「さながらに」の形で使われることもあります。意味は副詞の場合とほぼ同じです。
現代語の「さながら」は「まるで〜のようだ」の意味が主ですが、古文では「そのまま」や「すべて」の意味も重要です。文脈で判断しましょう。
そのままの例
寝たる姿さながらあり。(今昔物語集)
(寝ている姿がそのままある。)
まるで〜のようだの例
夢に見たるがさながらなり。(源氏物語)
(夢で見たのとまるで同じである。)
すべての例
国の人々さながら喜びけり。(竹取物語)
(国の人々が皆ことごとく喜んだ。)
語源と歴史
「さながら」は、指示副詞「さ」(そのように、その状態で)に、状態の継続や並行を表す接続助詞「ながら」が付いて一語化したものです。
「さ」が指し示す内容を「ながら」がそのままの状態で受け継ぐため、「その状態のままで」「そっくりそのまま」という意味が基本となります。そこから、範囲内のものが全てその状態であるという意味で「すべて」という意味も派生しました。
平安時代から広く用いられ、現代語にも意味を変えつつ受け継がれています。
品詞と活用
「さながら」は主に副詞として使われますが、形容動詞ナリ活用としても用いられます。
形容動詞ナリ活用の活用
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | さながらなら |
連用形 | さながらに / さならで |
終止形 | さながらなり |
連体形 | さながらなる |
已然形 | さながらなれ |
命令形 | さながらなれ |
※副詞として使う場合は活用しません。
類義語
そのまま
まるで〜のようだ
すべて
反対の概念
「さながら」が「そのまま」「すべて」を指すのに対し、「一部」「異なる」といった状態が対照的です。
実践的な例文(古文)
散り残れる紅葉は、錦を敷けるがさながらなり。(徒然草)
【訳】散り残っている紅葉は、錦を敷いたのとまるで同じである。
昔の形さながらにて、今も残れり。(方丈記)
【訳】昔の形のままで、今も残っている。
集へる人々、さながら涙を流しけり。(平家物語)
【訳】集まった人々は、皆ことごとく涙を流した。
夜の御座の様、昼のさながらにて、人も候はず。(源氏物語)
【訳】夜のお部屋の様子は、昼のそっくりそのままで、人もお仕えしていない。
生ける時の言の葉さながらに聞こゆ。(更級日記)
【訳】生きていた時の言葉がそっくりそのままに聞こえる。
練習問題
傍線部の「さながら」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 鏡に映る影のさながらなるに驚く。
解説:
鏡に映る影が「そっくりそのまま」であることに驚いている状況です。「まるで〜のようだ」の意味に近い。
2. 昨日の宴の跡、さながら残りてありけり。
解説:
昨日の宴会の跡が、片付けられずに「そっくりそのまま」または「もとのまま」残っている様子を表します。
3. 城中の兵ども、さながら討ち死にす。
解説:
城の中の兵士たちが「残らずすべて」討ち死にした、という意味です。「ことごとく」と同義。
4. 絵に描ける美人のさながらなるを見る。
解説:
絵に描いた美人と「そっくりそのままのような」美人を見る、という比喩表現です。ここでは形容動詞の連体形「さながらなる」が使われています。
5. 物も言はで、立ちたる所にさながら臥しぬ。
解説:
何も言わずに、立っていた場所に「そのまま」倒れ伏した、という意味です。状態の変化がないことを示します。