さながら (副詞・形容動詞ナリ活用)

①そのまま、もとのまま ②まるで、そっくりそのまま ③すべて、ことごとく

指示副詞「さ」+接続助詞「ながら」。ある状態が変化しない様子や、酷似している様子を表す。

 
 

時が止まったかのように、あるいは鏡に映したかのように。「さながら」は変わらぬ姿、酷似した姿を指し示します。

📖意味と用法

さながらは、副詞または形容動詞ナリ活用として用いられ、主に「そのままの状態」や「酷似」を表します。指示語「さ」(そのように)に接続助詞「ながら」(〜のままで、〜のとおりに)が付いた形です。

  1. 【そのまま・もとのまま】(副詞的)そのまま、そっくりそのまま、もとの状態のまま:
    ある状態が変化せずに維持されている様子。
  2. 【まるで・そっくりそのまま】(副詞的)まるで〜のようだ、そっくりそのまま〜と同じだ:
    何かに酷似している様子。比喩表現(直喩)でよく使われ、「〜の(やうに)さながら」の形も多い。
  3. 【すべて・ことごとく】(副詞的)全部、残らずすべて、ことごとく:
    ある範囲のものが一つ残らず同じ状態であること。
  4. 【(形容動詞ナリ活用)そのままである、そっくりである】:
    形容動詞として「さながらなり」「さながらなる」「さながらに」の形で使われることもあります。意味は副詞の場合とほぼ同じです。

現代語の「さながら」は「まるで〜のようだ」の意味が主ですが、古文では「そのまま」や「すべて」の意味も重要です。文脈で判断しましょう。

そのままの例

寝たる姿さながらあり。(今昔物語集)

(寝ている姿がそのままある。)

まるで〜のようだの例

夢に見たるがさながらなり。(源氏物語)

(夢で見たのとまるで同じである。)

すべての例

国の人々さながら喜びけり。(竹取物語)

(国の人々が皆ことごとく喜んだ。)

🕰️語源と歴史

「さながら」は、指示副詞「さ」(そのように、その状態で)に、状態の継続や並行を表す接続助詞「ながら」が付いて一語化したものです。

「さ」が指し示す内容を「ながら」がそのままの状態で受け継ぐため、「その状態のままで」「そっくりそのまま」という意味が基本となります。そこから、範囲内のものが全てその状態であるという意味で「すべて」という意味も派生しました。

平安時代から広く用いられ、現代語にも意味を変えつつ受け継がれています。

📝品詞と活用

「さながら」は主に副詞として使われますが、形容動詞ナリ活用としても用いられます。

形容動詞ナリ活用の活用

活用形 語形
未然形 さながらなら
連用形 さながらに / さならで
終止形 さながらなり
連体形 さながらなる
已然形 さながらなれ
命令形 さながらなれ

※副詞として使う場合は活用しません。

🔄類義語

そのまま

もとのごとく
ありのまま

まるで〜のようだ

あたかも~ごとし
ごとく(如く)

すべて

みな(皆)
ことごとく(悉く)

↔️反対の概念

「さながら」が「そのまま」「すべて」を指すのに対し、「一部」「異なる」といった状態が対照的です。

ことなり(異なり)
いちぶ(一部)

🗣️実践的な例文(古文)

1

のこれる紅葉もみぢは、にしきけるがさながらなり。(徒然草)

【訳】散り残っている紅葉は、錦を敷いたのとまるで同じである。

意味: ② まるで〜のようだ
2

むかしかたちさながらにて、いまのこれり。(方丈記)

【訳】昔の形のままで、今も残っている。

意味: ① そのまま、もとのまま
3

つどへる人々ひとびとさながらなみだながしけり。(平家物語)

【訳】集まった人々は、皆ことごとく涙を流した。

意味: ③ すべて、ことごとく
4

御座おましさまひるさながらひとさぶらはず。(源氏物語)

【訳】夜のお部屋の様子は、昼のそっくりそのままで、人もお仕えしていない。

意味: ① そのまま、そっくりそのまま
5

けるときことの葉さながらこゆ。(更級日記)

【訳】生きていた時の言葉がそっくりそのままに聞こえる。

意味: ① そのまま、そっくりそのまま

📝練習問題

傍線部の「さながら」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. かがみうつかげさながらなるにおどろく。

すべて
そっくりそのまま
もとのまま
結局

解説:

鏡に映る影が「そっくりそのまま」であることに驚いている状況です。「まるで〜のようだ」の意味に近い。

2. 昨日きのふうたげあとさながらのこりてありけり。

まるで
すべて
そっくりそのまま
結局

解説:

昨日の宴会の跡が、片付けられずに「そっくりそのまま」または「もとのまま」残っている様子を表します。

3. 城中じやうちゆうつはものども、さながらにす。

そのまま
まるで
残らずすべて
結局は

解説:

城の中の兵士たちが「残らずすべて」討ち死にした、という意味です。「ことごとく」と同義。

4. ける美人びじんさながらなるを見る。

そっくりそのままのような
すべて
もとのままの
結局の

解説:

絵に描いた美人と「そっくりそのままのような」美人を見る、という比喩表現です。ここでは形容動詞の連体形「さながらなる」が使われています。

5. ものはで、ちたるところさながらしぬ。

まるで
そのまま
すべて
結局

解説:

何も言わずに、立っていた場所に「そのまま」倒れ伏した、という意味です。状態の変化がないことを示します。

古文単語「さながら」クイズゲーム(選択問題編)

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