なつかし (形容詞・シク活用)

①心がひかれる、親しみやすい、好ましい ②昔が思い出されて慕わしい、懐かしい

動詞「なつく(慣れ親しむ)」の形容詞形。相手に心が引き寄せられる感情を表す。

 
 

ふと心が温かくなるような、そんな親しみや慕わしさを「なつかし」と表現します。

📖意味と用法

なつかしは、シク活用の形容詞で、心が対象に引きつけられ、親しみを感じるさまを表します。現代語の「懐かしい」と重なる意味もありますが、古文ではより広く「好ましい」「親しみを感じる」という意味で使われます。

  1. 【心がひかれる・親しみやすい】心がひかれる、親しみを感じる、好ましい、魅力的だ:
    人や物事に対して、自然と心が引き寄せられ、親近感や好意を抱く様子。これが最も基本的な意味です。
  2. 【昔が思い出されて慕わしい・懐かしい】(過去のことが)思い出されて慕わしい、懐かしい:
    現代語の「懐かしい」に近い意味。過去の出来事や人物を思い出して、しみじみとした慕情を感じる様子。

文脈から、対象が現在のものか過去のものかを見極め、どちらの意味合いで使われているかを判断することが大切です。

心がひかれるの例

なつかしき人の声。(枕草子)

(親しみを感じる人の声。)

懐かしいの例

過ぎにし方なつかしくおぼえければ(伊勢物語)

(過ぎ去った昔が懐かしく思い出されたので)

🕰️語源と歴史

「なつかし」は、動詞「懐く(なつく)」の形容詞形です。「なつく」は、人や動物が慣れ親しんで近づく、心惹かれるという意味を持ちます。

この「なつく」という行為から生じる感情、つまり「慣れ親しんで心が引かれる」「好ましい」といった気持ちを表すのが「なつかし」です。

そこから、過去の慣れ親しんだ事柄や人物を思い出して心が引かれる、すなわち「懐かしい」という意味も派生しました。

📝活用形と関連語

「なつかし」の活用(形容詞シク活用)

活用形 語形 接続例
未然形 なつかしから
連用形 なつかしく / なつかしう て、なり、思ふ
終止形 なつかし 。(言い切り)
連体形 なつかしき 人、こと
已然形 なつかしけれ ば、ども
命令形 なつかしがれ (まれ)

※連用形「なつかしう」はウ音便化した形です。

関連語

  • なつく(懐く) (動詞カ行四段) – 慣れ親しむ、心が引かれる
  • なつかしむ (動詞マ行四段) – 親しみを感じる、懐かしく思う
  • なつかしげなり (形容動詞) – 親しみやすそうだ、懐かしそうだ

🔄類義語

心がひかれる・好ましい

こころひかる
うつくし(かわいらしい、立派だ)
よし(良し)

懐かしい

ゆかし(心が引かれる、見たい、聞きたい、知りたい ※過去を思う場合)

↔️反対の概念

「なつかし」が親しみや好意を表すのに対し、「疎遠」「不快」といった状態が対極にあります。

うとし(疎し)
むつかし(不快だ)
にくし(憎し)

🗣️実践的な例文(古文)

1

ただただはるゆめごとしごとしおもへど、なつかしうをりれてはこひしきなり。(源氏物語)

【訳】まるで春の夜の夢のようだと思うけれど、(その時のことが)懐かしく、機会があるたびに恋しいのである。

意味: ② 懐かしい
2

いといとなつかしううつくしきひとなり。(枕草子)

【訳】たいそう親しみやすくかわいらしい人である。

意味: ① 心がひかれる、親しみやすい
3

ふるうたどもなつかしきおほかり。(徒然草)

【訳】古い歌なども心ひかれる(趣深い)ものも多い。

意味: ① 心がひかれる / ② 懐かしい
4

このこのふえこそ、いといとなつかしけれ。(源氏物語)

【訳】この笛の音色は、たいそう心ひかれるものだ。

意味: ① 心がひかれる、魅力的だ
5

むかし物語ものがたりなどみても、そのそのひとこころばへなつかしきは、いまはらず。(紫式部日記)

【訳】昔の物語などを読んでも、その登場人物の心遣いが好ましいのは、今も変わらない。

意味: ① 心がひかれる、好ましい

📝練習問題

傍線部の「なつかし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. かのかのひとかたくち、いとなつかし

親しみやすい
昔が思い出される
珍しい
悲しい

解説:

人の「語り口」に対する評価なので、「親しみやすい」または「好ましい」が適切です。

2. 故郷ふるさと景色けしきれば、なつかしうおぼえけり。

魅力的に
懐かしく
好ましく
新鮮に

解説:

「故郷の景色」を見て感じることなので、過去を思い出して慕わしく思う「懐かしく」が適切です。

3. うぐひすこゑはるあしたにはなほなつかし

昔を思い出させる
珍しい
心ひかれる
悲しい

解説:

鶯の声が春の朝には「なほ(いっそう)」どう感じられるか、という文脈です。ここでは「心ひかれる」「風情がある」といった好ましい感情が適切です。

4. このこのふみ筆跡ふであときしにか、いとなつかしうゆ。

懐かしく
魅力的に
古風に
珍しく

解説:

手紙の筆跡が「いと(たいそう)~見ゆ」とあるので、その筆跡に「魅力的に」感じられる、または「好ましく」感じられるという意味が適切です。

5. 年月としつき故郷ふるさとは、なにもかもなつかし

親しみやすい
懐かしい
好ましい
美しい

解説:

「年月を経て見る故郷」という状況から、過去を思い出して慕わしく思う「懐かしい」という意味が最も適切です。

古文単語「なつかし」クイズゲーム(選択問題編)

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