りりしい武士から、忠実な従者、愛らしい男の子まで。「をのこ」は様々な男性の姿を映し出します。
意味と用法
をのこ(男・男子)は、名詞で、男性全般を指す言葉です。現代語の「男(おとこ)」に相当しますが、古文では文脈によってニュアンスが異なります。
- 男、男性:
最も一般的な意味で、成人男性を指します。「女(をみな)」の対語です。 - (特に)従者、召使いの男、身分の低い男:
貴族などに仕える男性の従者や、身分の低い男性を指すことがあります。この場合、「をとこ」と区別して使われることもあります。 - 男の子、息子:
幼い男の子や、自分の息子を指す場合もあります。「をのこご(男子子)」の形も使われます。
「をのこ」が具体的にどのような男性を指しているかは、文中の身分関係や年齢、状況から判断する必要があります。「をとこ」も男性を指しますが、「をのこ」の方がやや広義で、特定の役割や身分を含意することがあります。
男性の例
をのこも女も、かしこに集ひけり。(竹取物語)
(男も女も、あそこに集まった。)
従者の例
御供にをのこどもあまた連れたり。(伊勢物語)
(お供に多くの従者の男たちを連れていた。)
男の子の例
うつくしきをのこごを産み給へり。(源氏物語)
(かわいらしい男の子をお産みになった。)
語源と歴史
「をのこ」は、「を(接頭語、小さい・若いなどの意を表すこともある)」+「のこ(男の意)」から成ると考えられています。「のこ」は「男(を)」と同源で、男性を指す古い言葉です。
上代から使われており、「をとこ」としばしば並用されましたが、時代や文脈によって使い分けが見られることもありました。例えば、和歌などでは優美な響きを求めて「をとこ」が、物語などではより具体的に「をのこ」が使われる傾向があったとも言われます。
関連語
「をのこ」は名詞のため活用はありませんが、関連する表現があります。
- をとこ(男) (名詞) – 男、夫、恋人。
- をのこご(男子子) (名詞) – 男の子、男児。
- をのこむすめ(男女) (名詞) – 男女。
- をのこども(男共) (名詞) – 男たち、特に従者たち。
類義語
男、男性
対義語
「をのこ」の直接的な対義語は「女」を指す言葉です。
実践的な例文(古文)
をのこども、御前に候ふ。(枕草子)
【訳】従者の男たちが、御前にお仕えする。
昔、をのこありけり。(伊勢物語)
【訳】昔、ある男がいた。
この宮の御をのこ、いと賢し。(源氏物語)
【訳】この宮の息子様は、たいそう賢い。
をのこは狩りに、女は物縫ひに。(徒然草)
【訳】男は狩りに、女は裁縫に(いそしむ)。
若きをのこの、文持て来たり。(更級日記)
【訳】若い男(召使いの男)が、手紙を持って来た。
練習問題
傍線部の「をのこ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. あるをのこ、宮仕へしける女にあひにけり。
解説:
「あるをのこ」は特定の身分や役割を示さず、一般的な「男」を指しています。宮仕えの女性と恋愛関係になる男性、という意味合いです。
2. 門を開けて、をのこに物問ふ。
解説:
門を開けて出てきた相手に物を尋ねる場面で、家の「召使いの男」や門番のような役割の男性を指すことが多いです。
3. 后の宮の御をのこたち、いと多かり。
解説:
「后の宮の」とあるので、その后の宮の「息子たち」を指している可能性が高いです。「御」が付いていることからも、身分のある子供と考えられます。
4. 弓矢とる道は、をのこの習ひなり。
解説:
弓矢を取る武芸の道は、「男性」一般の習わしである、という意味です。特定の身分や年齢に限定されません。
5. 若く美しきをのこの、笛を吹き澄まして通り過ぐる。
解説:
「若く美しい」と形容されているので、「若い男」を指します。特に身分が高いとは限りませんが、魅力的な男性のイメージです。