ののしる (動詞・ラ行四段活用)

①大声で騒ぐ、大騒ぎする ②評判になる、噂される ③勢いが盛んである

現代語の「罵る」とは意味が大きく異なる。大きな声や評判がポイント。

 
 

人々の声が響き渡り、噂が広まり、勢いが天を突く。「ののしる」は、そんな活気や評判の高まりを表す言葉です。

📖意味と用法

ののしるは、ラ行四段活用の動詞で、現代語の「罵倒する」という意味とは異なり、古文では主に「大きな音・声」や「評判の高さ」に関連する意味で使われます。

  1. 大声で騒ぐ、大騒ぎする、わめく:
    多くの人が集まって騒いだり、大きな声を出したりする様子。
  2. 評判になる、噂される、有名になる:
    世間で広く話題になり、名声が高まること。良い評判にも悪い評判にも使われます。
  3. 勢いが盛んである、羽振りがよい:
    権力や富などが盛んで、威勢が良い様子。

現代語の「罵る」の意味は、中世末期から近世にかけて生じた比較的新しい用法です。古文では、まず「大声で騒ぐ」か「評判になる」のどちらかを考えるのが基本です。

大声で騒ぐの例

人々、市に集まりてののしる。(宇治拾遺物語)

(人々が、市場に集まって大騒ぎする。)

評判になるの例

その美しさ、世にののしらる。(源氏物語)

(その美しさは、世間で評判になっている。)

🕰️語源と歴史

「ののしる」の語源は、「音(ね)+音(ね)+知る」で、大きな音が響き渡ることを意味したという説や、「汝(な)+知る」で相手に強く呼びかける意から転じたという説などがあります。

元々は「大きな音を立てる」「大声で騒ぐ」という意味が中心でしたが、その騒ぎが広まることから「評判になる」「噂される」という意味が派生しました。さらに、評判が高まり勢いが盛んになる様子も表すようになりました。

📝活用形

「ののしる」の活用(ラ行四段活用)

活用形 語形 接続例
未然形 ののしら ず、む
連用形 ののしり て、けり、ます
終止形 ののしる 。(言い切り)
連体形 ののしる 時、人
已然形 ののしれ ば、ども
命令形 ののしれ 。(命令)

🔄類義語

大声で騒ぐ

さわぐ(騒ぐ)
わめく

評判になる

聞こゆ(聞こゆ)(噂される)
おもだたし(名高い)

↔️反対の概念

「ののしる」が「騒がしい」「評判が高い」ことを指すのに対し、「静か」「無名」といった状態が対照的です。

しづかなり(静かなり)
ひそかなり(密かなり)
知られず

🗣️実践的な例文(古文)

1

みちほとりひとあつまりて、ののしる。(更級日記)

【訳】道端に人が立ち集まって、大声で騒いでいる。

意味: ① 大声で騒ぐ
2

このこの大将だいしやう威勢ゐせいののしらる。(平家物語)

【訳】この大将の威勢は、世間で評判になっている(勢いが盛んであると噂される)。

意味: ② 評判になる / ③ 勢いが盛んである
3

ただただひとごとにくちふたぎふたぎののしる。(源氏物語)

【訳】ただもう誰も彼も口を覆うようにして(驚きや興奮で)大騒ぎする。

意味: ① 大声で騒ぐ
4

時めくときめくひとののしりたるも、ほどなくぎぬれば。(徒然草)

【訳】時勢に乗って羽振りがよかった人も、時が経てば(その勢いも)過ぎてしまうので。

意味: ③ 勢いが盛んである、羽振りがよい
5

内裏うちにもみやにも、同じおなじやうにののしる。(枕草子)

【訳】宮中でも中宮の御所でも、同じように(そのことで)大騒ぎしている(噂している)。

意味: ① 大騒ぎする / ② 評判になる

📝練習問題

傍線部の「ののしる」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. かどまへにて、くるまどもててののしる

大声で騒いでいる
評判になっている
罵っている
勢いが盛んである

解説:

門の前で車を立てて(止めて)いる状況から、多くの人が集まり「大声で騒いでいる」様子が想像されます。

2. そのそのさいほどほどののしられけり。

大騒ぎされた
評判になった
非難された
勢いが盛んだった

解説:

「その才のほど(その才能の程度)」が「世に」ということなので、世間で「評判になった」と解釈するのが適切です。「ののしらる」は受身形。

3. 時のときの権力者けんりよくしやいみじういみじうののしりうごかす。

大騒ぎして
評判になって
悪口を言って
勢いが盛んで

解説:

「時の権力者」が「世を動かす」という文脈から、その「勢いが盛んで」あること、または「羽振りがよくて」という意味が適切です。

4. 人々ひとびとものはせずののしるこゑそらひびく。

大声で騒ぐ
うわさする
非難する
勢いがある

解説:

「物も言わせず」という状況で「空に響く」ほどの「音(声)」なので、「大声で騒ぐ」という意味が最も適しています。

5. かれかれ歌詠みうたよみとしていといとののしられたり。

大騒ぎされた
たいそう評判が高かった
ひどく罵られた
非常に勢いがあった

解説:

「歌詠みとして」という文脈で「いと(たいそう)」とあるので、歌人としての「評判が高かった」と解釈するのが適切です。「ののしらる」は受身形。

古文単語「ののしる」クイズゲーム(選択問題編)

古文単語「ののしる」クイズゲーム(選択問題編)