はべり(侍り) (動詞・ラ行変格活用)

①(貴人のそばに)お仕えする、伺候する ②あります、ございます(丁寧語) ③〜です、〜ます(補助動詞・丁寧語)

「あり」の丁寧語。会話文や手紙文で頻出する重要な敬語。

 
 

「はい、ここに侍り。」主君に仕え、あるいは丁寧な言葉遣いで存在を示す。それが「はべり」です。

📖意味と用法

はべり(侍り)は、ラ行変格活用の動詞で、古文における代表的な敬語の一つです。本動詞としても補助動詞としても使われます。

  1. 【本動詞】(貴人のそばに)お仕えする、伺候する、控えている:
    「侍(さぶらふ)」よりも敬意が低いが、身分の高い人のそばに仕える意を表します。
  2. 【本動詞】あります、ございます(「あり」の丁寧語):
    物や人が存在することを、聞き手に対して丁寧に表現します。会話文や手紙文で使われます。
  3. 【補助動詞】〜です、〜ます、〜でございます(丁寧の意を表す):
    他の動詞の連用形や形容詞・形容動詞の連用形(カリ活用・ナリ活用)などに付いて、丁寧な表現にします。

「はべり」は、主に話し手から聞き手への敬意を表す丁寧語として機能します。「候ふ(さぶらふ)」も同様の意味を持ちますが、「はべり」の方がややくだけた、あるいは女性的なニュアンスで使われることがあります。

お仕えするの例

帝に常にはべりける人。(古今和歌集)

(帝にいつもお仕えしていた人。)

あります・ございますの例

文箱はべり。(枕草子)

(手紙箱がございます。)

〜です・〜ますの例

美しうはべり。(源氏物語)

(美しいですわ。)

🕰️語源と歴史

「はべり」の語源は、「侍(はべ)り」で、元々は貴人のそばに「はべる(侍る=お仕えする)」という意味でした。「はべる」は「這ひあり(這うようにしてそばにいる)」から転じたという説があります。

お仕えする相手に対して丁重な態度をとることから、丁寧語としての用法が生まれ、「あります、ございます」や補助動詞「〜です、〜ます」の意味で広く使われるようになりました。

平安時代中期以降、特に女性の言葉遣いや会話文、手紙文で多用されました。

📝活用形

「はべり」の活用(ラ行変格活用)

活用形 語形 接続例
未然形 はべら ず、む
連用形 はべり て、けり、き
終止形 はべり 。(言い切り)
連体形 はべる 時、こと
已然形 はべれ ば、ども
命令形 はべれ 。(命令)

🔄類義語(丁寧語として)

あります、ございます / 〜です、〜ます

さぶらふ(候ふ)
そうらふ(候ふ)

↔️反対の概念(丁寧語に対して)

「はべり」が丁寧な表現であるのに対し、敬意を含まない通常の表現が対照的です。

あり
なり(断定)

🗣️実践的な例文(古文)

1

これこれなにはべる草子さうしはべる。(枕草子)

【訳】これは何でございますか。書物でございます。

意味: ② あります、ございます / ③ 〜です、〜ます
2

御前おんまえはべりて、物語ものがたりなどまうづ。(源氏物語)

【訳】御前にお仕え申し上げて、お話などを申し上げる。

意味: ① お仕えする
3

いといとうつくしきはなはべりしをて。(土佐日記)

【訳】たいそう美しい花がございましたのを見て。

意味: ② あります、ございます
4

かかるかかることなむはべりける。(竹取物語)

【訳】このようなことがございましたのです。

意味: ② あります、ございます / ③ 〜です、〜ます
5

ゆきもれるはべり。(徒然草)

【訳】雪が降り積もっております。

意味: ③ 〜です、〜ます

📝練習問題

傍線部の「はべり」の現代語訳と敬意の種類として最も適切なものを選んでください。

1. 「いかなるいかなるところはべりけんけん」とふ。

お仕えしたのだろうか(尊敬)
ありましたのでしょうか(丁寧)
いらっしゃったのだろうか(尊敬)
お仕えしましょうか(謙譲)

解説:

「いかなる所に(どのような所に)」に続くので、存在を表す「あり」の丁寧語「あります」が適切です。「けん」は過去推量。聞き手に対する丁寧の意。

2. このこのてらとしごろはべりて、ほとけつかふ。

ございます(丁寧)
おります(謙譲)
お仕えして(謙譲に近いが、ここでは「仕ふ」が本動詞なので「いる」の丁寧)
いらっしゃいます(尊敬)

解説:

「この寺に長年」いて「仏に仕える」という文脈です。「はべり」は「いる」の丁寧語「おります」に近いですが、元々の「お仕えする」意味合いも残ります。選択肢では「お仕えして」が最もニュアンスが近いです。聞き手に対する丁寧。

3. あなあなうつくしうつくしはべりなむ。(「なむ」は強意)

お仕えしましょう
いらっしゃるでしょう
ございますなあ(〜ですなあ)
ありますよ

解説:

「あな、うつくし。(ああ、かわいらしい)」という感動に続くので、補助動詞として「〜ですなあ」「〜ますなあ」という丁寧な詠嘆を表します。

4. 女房にようぼうどもおほはべりけれど、みなたりたり

お仕えしておりましたけれど(謙譲)
おりましたけれど(丁寧)
いらっしゃいましたけれど(尊敬)
〜でございましたけれど(丁寧・補助)

解説:

女房たちが多く「いた」ことを丁寧に述べているので、「おりましたけれど」が適切です。本動詞「あり」の丁寧語。

5. かくかくうつくしきひとまたまたはべらじ。

お仕えしないだろう
いないでしょう(ございますまい)
いらっしゃらないだろう
〜ではないでしょう

解説:

「かく美しき人は世にまた(これほど美しい人は世に再び)」に続き、打消推量の助動詞「じ」が付いているので、「いないでしょう」または「ございますまい」という丁寧な否定の推量を表します。

古文単語「はべり」クイズゲーム(選択問題編)

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