「几帳の『ひま』から垣間見る恋、雨の『ひま』を待つ旅人、そして心の『ひま』に入り込む油断。すべてがこの一語に集約されます」
📖 意味と用法
ひま(隙)は、名詞で、物事が連続していない部分、隔たりを指す言葉です。現代語の「すきま」や「ひま」と重なる部分も多いですが、より広い意味で使われます。
- (空間的な)すき間、隔たり: 物の間や空間的な隔たり。格子や几帳(カーテンのような間仕切り)のすき間などが典型例です。
- (時間的な)合間、絶え間、機会: 物事が途切れている時間。雨や雪がやんでいる間、人の訪れが途絶えた時など。何かをする良い「機会」という意味にもなります。
- (人間関係の)すき、不和、油断: 人と人との関係が疎遠になること。また、心の油断や警戒が緩むことも指します。
文脈から、空間・時間・人間関係のどれにおける「すき間」なのかを判断することが重要です。
🕰️ 語源と歴史
「ひま」は「引き間」が変化したものという説があります。二つのものを引き離した時にできる「間(ま)」が元々の意味です。これが物理的な空間のすき間だけでなく、時間的なすき間(ひま)、さらには人間関係や心のすき間といった抽象的な意味へと発展していきました。現代語の「暇」は、この時間的な意味が中心に残った形です。
📝 関連表現
複合語・慣用句
- ひまなし (隙無し): すき間がない、絶え間ない。
- ひまをうかがふ: 機会をねらう。
🔄 類義語
↔️ 反対の概念
「連続」「密接」といった言葉が対照的です。
🗣️ 実践的な例文(古文)
几帳のひまより、女を垣間見る。(伊勢物語)
【訳】几帳のすき間から、女をのぞき見る。
雨のひまには、かならず詣づ。(源氏物語)
【訳】雨のやんでいる間には、必ず参詣する。
君と我との仲に、ひまあるべからず。(大和物語)
【訳】あなたと私の仲に、隔たりがあってはならない。
人のひまをうかがひて、文を遣る。(枕草子)
【訳】人がいない合間をねらって、手紙を送る。
学問にはひまなし。(徒然草)
【訳】学問には絶え間がない(休みがない)。
📝 練習問題
傍線部の「ひま」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 簾のひまより、月の光差し込む。
解説:
簾という物理的な物の間なので、空間的な「すき間」と訳すのが適切です。
2. 雪のひまを待ちて、都へ帰る。
解説:
雪が降っている状況で待つのは、雪が弱まったりやんだりする時間のことです。よって「やみ間(絶え間)」が最適です。
3. 親と子とのひま、年ごろ疎くなりぬ。
解説:
親子という人間関係についてなので、「仲」が疎遠になった、と解釈します。「不和」と同義です。
4. 物語するひまあらば、寝も寝られむ。
解説:
世間話をするような「時間的余裕」があるならば、寝ることもできるだろうに、という意味です。現代語の「ひま」に近い用法です。
5. 敵のひまを見て、城を攻む。
解説:
敵の守りが手薄になる「油断」や「すき」を見て城を攻める、という軍記物によくある表現です。「機会」という意味にもなります。