「『こころやすき』友と語らい、『こころやすく』事を成す。どちらも望ましい心の状態です」
📖 意味と用法
こころやすしは、ク活用の形容詞で、「心が安らかである」という構成から、心配事がない状態や、物事が簡単である様子を表します。現代語の「心安い」と近い意味も持ちますが、意味の範囲が広いです。
- 安心だ、気楽だ、落ち着いている、安らかだ: 心配や懸念がなく、心が穏やかである状態。人や場所、状況に対して使われます。
- たやすい、簡単だ、造作ない: 物事をなすのに苦労がなく、簡単であること。「こころやすく引き受く(安請け合いする)」のように、軽々しく行うニュアンスで使われることもあります。
文脈が人の心情についてなら①、物事の難易度についてなら②と判断するのが基本です。
🕰️ 語源と歴史
語源は、「心」+「安し」で、文字通り「心が安らかである」という意味です。この精神的な安らぎが、心配事がない状態を指すようになり、さらに、心配するまでもないほど「たやすい」という意味に発展しました。現代語の「心安い」は、親密で気楽であるという意味合いが強いですが、古文ではより広く「安心だ」という意味で使われます。
📝 活用形と派生語
「こころやすし」の活用(形容詞ク活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | こころやすく |
連用形 | こころやすく |
終止形 | こころやすし |
連体形 | こころやすき |
已然形 | こころやすけれ |
命令形 | (こころやすかれ) |
派生語
- こころやすさ (名詞) – 安心、気楽さ、たやすさ。
🔄 類義語
↔️ 反対の概念
「不安だ」「心配だ」「難しい」といった言葉が対照的です。
🗣️ 実践的な例文(古文)
こころやすく寝ぬる夜もなし。(伊勢物語)
【訳】安心して眠る夜もない。
こころやすく承け引きて、後に悔ゆ。(徒然草)
【訳】安請け合いして、後で後悔する。
こころやすき人と物語して、日を暮らす。(枕草子)
【訳】気楽な(親しい)人と話をして、一日を過ごす。
こころやすき隠れ家にて、月を見る。(方丈記)
【訳】気楽な(安心できる)隠れ家で、月を見る。
この道はこころやすく越え果つべし。(更級日記)
【訳】この道はたやすく越え終えることができるだろう。
📝 練習問題
傍線部の「こころやすし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 敵のなき所なれば、こころやすく休む。
解説:
敵がいない場所という状況なので、「安心して」休む、と訳すのが最も適切です。
2. こころやすきわざなれば、一日にて終へぬ。
解説:
一日で終わった仕事(わざ)なので、「たやすい(簡単な)」仕事であったと解釈できます。
3. 君が来し故に、こころやすく思ふ。
解説:
あなたが来たので「安心して」思う、という心情を表しています。
4. いとこころやすき仲なれば、何事も語らふ。
解説:
何でも語り合えるような間柄なので、「気楽な(気兼ねのない)」仲であると解釈するのが適切です。現代語の「心安い」に最も近い用法です。
5. こころやすく人を信ずべからず。
解説:
人を信じるという行為についてなので、「たやすく(軽々しく)」人を信じてはならない、という戒めの文脈です。