古文単語解説:ながむ(眺む・詠む)

ながむ(眺む・詠む) (動詞・マ行下二段活用)

①物思いに沈む、ぼんやり見る ②(遠くを)見渡す ③(和歌を)詠む

雨を「眺め」、遠くを「眺め」、そして歌を「詠む」。一つの言葉に込められた古人の心。

「長雨(ながめ)をじっと見つめるように、物思いにふける。その心が言葉となり、歌となるのです」

📖 意味と用法

ながむは、マ行下二段活用の動詞で、複数の重要な意味を持つ多義語です。漢字表記によって意味を推測できますが、文脈判断が不可欠です。

  1. 【眺む】物思いに沈む、ぼんやりと見る: 遠くを見つめながら、あれこれと考え事にふける様子。単に「見る」のではなく、内面的な活動を伴います。これが最も重要な意味です。
  2. 【眺む】(遠くを)見渡す、眺める: 現代語の「眺める」に近い意味で、遠くの景色などを広く見渡すこと。
  3. 【詠む】(和歌などを)詠む、吟じる: 物思いに沈んだ結果として、その気持ちを歌にするという意味合いから。声に出して歌うことを指します。

文脈に和歌があれば③、景色が対象なら②、そうでなければ①の「物思いに沈む」をまず考えましょう。

🕰️ 語源と歴史

「ながむ」の語源は、「長雨(ながめ)」にあるという説が有力です。昔の人は、しとしとと長く降り続く雨をぼんやりと見つめながら、物思いにふけったり、詩歌を詠んだりしました。この「長雨を見る」という行為そのものが、「物思いに沈む」「詠む」という意味に転じたと考えられています。「眺める」の「なが」も、「長い」に通じ、長い時間見続けることから来ています。

📝 活用形と派生語

「ながむ」の活用(マ行下二段活用)

活用形語形
未然形ながめ
連用形ながめ
終止形ながむ
連体形ながむる
已然形ながむれ
命令形ながめよ

派生語

  • ながめ (名詞) – 物思い、眺望、長雨。
    ながめやる(遠くを見渡す)

🔄 類義語

もの思ふ
見やる (見渡す)
詠ず (詠ずる)

↔️ 反対の概念

直接の反対語はありませんが、「行動する」「現実に目を向ける」といった概念が対照的です。

現(うつつ)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

ひとりひとりながめながめかしらす。(源氏物語)

【訳】一人で物思いにふけって一日を明かし暮らしている。

意味: ① 物思いに沈む
2

うみかたながむれながむれば、ふねどもかべり。(土佐日記)

【訳】海の方を見渡すと、船が浮かんでいる。

意味: ② 見渡す
3

かくこそはきみおもへとも、こゑだしてながめながめけめ。(伊勢物語)

【訳】このようにあなたのことを思っていると、声に出して(歌を)詠んだだろうか。

意味: ③ 詠む
4

つくづくつくづくものおもひてながむるながむるに、はなるかな。(古今和歌集)

【訳】しみじみと物思いにふけってぼんやりと見ていると、花が散ることだなあ。

意味: ① 物思いに沈む
5

このうたながめながめて、人々ひとびとあはれがりけり。(大和物語)

【訳】この歌を口ずさんで、人々はしみじみと感動した。

意味: ③ 詠む(口ずさむ)

📝 練習問題

傍線部の「ながむ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. そらばかりながめて、なみだとす。

物思いにふけっ
見渡し
詠ん
見て

解説:

涙を落とすという行為から、ただ空を見ているのではなく、何か考え事をしていることがわかります。したがって「物思いにふけって」が適切です。

2. たかところのぼりて、四方よもながむる

物思いにふける
見渡す
詠む
考える

解説:

高い所から「四方(あたり一帯)」を見ているので、景色を「見渡す」という意味になります。

3. こころかぶおもひをながむるに、なみだとまらず。

見渡す
物思いにふける
(歌に)詠む
考える

解説:

心に浮かんだ思いを言葉にする行為なので、「(歌に)詠む」と解釈するのが最も適切です。「ながめ」が和歌と密接な関係にあることを示す例です。

4. れゆくはるの景色をながめて、らす。

ぼんやりと見て
詠んで
見渡して
考えて

解説:

過ぎゆく春の景色を前にして一日を過ごす、という文脈です。「ぼんやりと見て(物思いにふけって)」いる様子が最も当てはまります。

5. いにしへいにしへうたながめあそぶ。

見て
口ずさんで
物思いにふけって
考えて

解説:

対象が「歌」なので、「口ずさんで」楽しむ、と訳すのが適切です。③「詠む」の意味からの派生です。

古文単語「ながむ」クイズゲーム(選択問題編)

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