「『なんでう、かくいちはやき御心にては』——その一言に、問いかけと驚き、そして諫める心が込められています」
📖 意味と用法
なんでう(何条)は、「なにといふ条」が音便化したもので、原因・理由を問う副詞です。現代語の「なぜ」「どうして」にあたりますが、多くの場合、単純な疑問だけでなく、驚き、非難、不満といった感情を伴います。
- 【疑問】どうして、なぜ: 事柄の原因や理由を純粋に問う用法。文末は連体形で終わることが多いです。「~か」を伴うこともあります。
- 【反語】どうして~か、いや~ない: 強い否定の意を表す用法。文末は連体形+「や」「は」などで結び、「どうして~だろうか、いや、決して~ではない」と訳します。
文脈と文末の表現(結び)に注意し、単純な疑問なのか、強い否定(反語)なのかを判断する必要があります。
🕰️ 語源と歴史
「なんでう」は、「何といふ条(なにというじょう)」が変化した言葉です。「条」は「筋道」「理由」「わけ」を意味します。「何という理由で」→「なぜ」という意味になりました。「なでふ」「などて」などと表記されることもあります。
📝 活用形と類義語
品詞
副詞(活用はしません)
表記のバリエーション
- 何条
- などて
- なでふ
類義語
文脈(疑問・反語)によって類義語が変わります。
- など・などか
- いかに・いかで
- いかが
🔄 疑問と反語の見分け方
文末の表現に注目するのが基本です。
- 疑問: 文末が連体形で終わる。「~か」を伴う。
- 反語: 文末が「~む(ん)」「~べき」+「や」「は」など。
↔️ 反対の概念
原因を問う言葉なので直接の反対語はありませんが、「理由なく」「だから」といった言葉が関連します。
🗣️ 実践的な例文(古文)
なんでう、かうは思ひ入り給へる。(源氏物語)
【訳】どうして、このように思いつめていらっしゃるのか。
なんでう、もののあはれを知らざらむ。(徒然草)
【訳】どうして物の情趣を知らないことがあろうか、いや知らないはずはない。
なんでう、かかるわざはし給ふぞ。(平家物語)
【訳】どうして、このようなことをなさるのか。
なんでう、さばかりのことに心を尽くさむや。(方丈記)
【訳】どうして、それしきのことに心を尽くそうか、いや尽くすことはない。
なんでう、まだ夜は明けやらぬ。(伊勢物語)
【訳】どうして、まだ夜は明けないのだろうか。
📝 練習問題
傍線部の「なんでう」の用法として最も適切なものを選んでください。
1. なんでう、かくは泣き給ふ。
解説:
「どうして、このようにお泣きになるのですか」と理由を尋ねているので「疑問」です。
2. なんでう、花の散るを惜しまざらめや。
解説:
文末が「~めや」となっています。「どうして花の散るのを惜しまないことがあろうか、いや惜しまないはずがない」という「反語」です。
3. なんでう、日は暮れぬるぞ。
解説:
「どうして日は暮れてしまったのか」と、日が暮れたことに対する驚きや不満を込めて理由を問う「疑問」です。
4. なんでう、月の出でざらむ。
解説:
文末が「~ざらむ」。「どうして月が出ないことがあろうか、いや必ず出る」という意味の「反語」です。
5. なんでう、人の心は変はるらむ。
解説:
「どうして人の心は変わるのだろうか」という、嘆きや諦めを含んだ「疑問」です。