「風に吹かれて髪が『らうがはしく』なり、また、酒に酔って心が『らうがはしく』なる。内外の乱れを表す言葉です」
📖 意味と用法
らうがはしは、シク活用の形容詞で、漢字「乱」が示す通り、秩序がなく混乱している状態を表します。物、音、人の行動など、幅広い対象に使われます。
- 乱雑だ、むぞうさだ、騒がしい: 物が散らかっている様子や、声や音が入り乱れて騒々しい様子を表します。
- 無作法だ、乱暴だ、不作法だ: 人の振る舞いや言動が荒々しく、礼儀に欠けている様子を表します。
「乱れている」という中心的な意味を捉え、それが「物の乱雑さ」なのか「音の騒がしさ」なのか「行動の乱暴さ」なのかを文脈で判断します。
🕰️ 語源と歴史
「乱(らう)」という名詞に、状態を表す接尾語「がはし」が付いた形です。「がはし」は「さわがし」などにも見られ、「~な感じがする」「~な傾向がある」といった意味を加えます。したがって、「乱れた感じがする」というのが元々の意味です。
📝 活用形と関連語
「らうがはし」の活用(形容詞シク活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | らうがはしく |
連用形 | らうがはしく |
終止形 | らうがはし |
連体形 | らうがはしき |
已然形 | らうがはしけれ |
命令形 | (らうがはしかれ) |
関連語
- 乱(らう) (名詞) – 乱れ、騒動。
- 乱る(みだる) (動詞) – 乱れる。
🔄 類義語
↔️ 反対の概念
「静かだ」「穏やかだ」「整然としている」といった言葉が対照的です。
🗣️ 実践的な例文(古文)
風、いみじう吹きて、髪もいとらうがはし。(更級日記)
【訳】風がひどく吹いて、髪もたいそう乱雑だ。
らうがはしき酔ひの紛れに、かかる事を言ふ。(源氏物語)
【訳】乱暴な酔いの紛れに、このようなことを言う。
人の声、らうがはしくて、物も聞こえず。(枕草子)
【訳】人の声が、騒がしくて、何も聞こえない。
衣の裾、らうがはしう引き散らされたり。(宇津保物語)
【訳】着物の裾が、乱雑に引き散らかされている。
らうがはしき振る舞ひをつつしませ給へ。(平治物語)
【訳】無作法な振る舞いをお慎みなさいませ。
📝 練習問題
傍線部の「らうがはし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 市の中は、人の声いとらうがはし。
解説:
市場の中の人の声についてなので、「騒がしい」と訳すのが最も適切です。
2. 汝が振る舞ひのらうがはしきに、人眉をひそむ。
解説:
人の「振る舞い」について、眉をひそめられるようなものは「乱暴な(無作法な)」振る舞いです。
3. 戦の後は、物どもらうがはしく散りたり。
解説:
戦の跡で物が散らかっている様子なので、「乱雑に」散っていると解釈するのが適切です。
4. 心もらうがはしうて、落ち着かず。
解説:
「落ち着かず」とあるので、心が「乱れて」いる状態を指していると分かります。
5. 酒に酔ひて、らうがはしきことを言ふな。
解説:
酒に酔って言うようなこととして、ここでは「無作法な(礼儀に外れた)」ことを言うな、と戒めていると解釈するのが適切です。