「『とく帰りなむ』と急ぐ心、そして『花はとくに散りぬ』という諦め。どちらも時間との関わりを示す言葉です」
📖 意味と用法
とく(疾く)は、時間の早さを表す重要な副詞です。文脈によって未来のことにも過去のことにも使われます。
- 早く、急いで、さっさと: これから何かをすることを促したり、素早く行動したりする様子。命令形や意志・願望の助動詞を伴うことが多いです。
- すでに、とっくに、早くも: ある時点でもう物事が完了している様子。完了の助動詞「ぬ」「つ」「り」などを伴うことが多いです。
文末の動詞や助動詞に注目し、未来への促しか、過去の完了かを見極めるのがポイントです。
🕰️ 語源と歴史
形容詞「とし(疾し)」の連用形「とく」が副詞として定着したものです。「とし」は「速い」「鋭い」という意味を持ち、その連用形が「早く」という意味で広く使われるようになりました。現代語では「とっくに」という言葉にその名残が見られます。
📝 関連語
関連語
- とし (形ク) – 速い、鋭い。
🔄 類義語
はやう (早く)
すみやかに (速やかに)
↔️ 反対の概念
「ゆっくりと」「遅く」といった言葉が対照的です。
やがて (そのまま、すぐに)
やうやう (だんだん)
おそく
🗣️ 実践的な例文(古文)
1
とく出で給へ。(竹取物語)
【訳】早くお出ましください。
2
梅の花はとく散りにけり。(古今和歌集)
【訳】梅の花は早くも散ってしまったなあ。
3
とくこそ見め。(伊勢物語)
【訳】早く会いたいものだ。
📝 練習問題
傍線部の「とく」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 日も暮れぬ。とく帰らむ。
早く
すでに
ゆっくり
きっと
解説:
日が暮れたので、「早く」帰ろう、という意志を表しています。文末の「む」は意志の助動詞です。
2. 人はとく死にけり。
早く
とっくに
すぐに
急に
解説:
文末が完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」なので、過去の事実を表します。したがって「とっくに」死んでしまった、と訳すのが適切です。
3. とくとく。日も暮れぬ。
早く早く
すでに
とっくに
きっと
解説:
「とく」を重ねることで、行動を強く促しています。「早く早く。日が暮れてしまう」と急がせている場面です。