「美しいだけの花にはない、見る人の心を和ませる『あいぎゃう』。それこそが、真の魅力の源泉」
📖 意味と用法
あいぎゃう は、人の外見や内面が持つ、人を惹きつける魅力を指す名詞です。現代語の「愛嬌」が持つ、こびるようなニュアンスは古文にはありません。
- かわいらしさ、魅力、愛らしさ: 人の容姿やしぐさが、見る人に好ましい印象を与え、愛らしく感じさせる様子。
- 優しい物腰、思いやり、人当たりの良さ: 人の性格や態度が優しく、周りの人を和ませるような魅力。
「あいぎゃうづく(かわいらしくなる)」「あいぎゃうおくる(魅力を失う)」といった複合動詞も重要です。単なる美しさ(美麗)とは区別される、親しみやすく心惹かれる魅力を指す言葉として理解しましょう。
「かわいらしさ」の例
顔のさま、いとあいぎゃうづき、にこやかにて、(源氏物語)
(顔の様子は、たいそうかわいらしく、にこやかで、)
「優しい物腰」の例
あいぎゃうありて、言葉も滑らかなれば、(大鏡)
(優しい物腰で、言葉もなめらかなので、)
🕰️ 語源と歴史
元々は仏教語で、仏や菩薩が持つ、人々を慈しみ、柔和な表情や姿で人々を救う徳相を「愛敬相(あいぎょうそう)」と言いました。この「愛(慈しみ)」と「敬(うやまうべき)」が合わさった言葉が、一般にも使われるようになり、人を惹きつける魅力を指すようになりました。
そのため、古文の「あいぎゃう」には、単なるかわいさだけでなく、どこか品があり、尊敬できるようなニュアンスが含まれています。
📝 練習問題
傍線部の「あいぎゃう」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. あいぎゃうおくれたる人の子ども、…(枕草子)
解説:
「おくる」は「劣る、見劣りする」という意味。「かわいらしさ」に欠ける人の子供は、親に似ずかわいらしいことが多い、と述べています。ここでは「かわいらしさ」が最も適切です。
2. されど、なほあいぎゃうは、この方にこそあれ。(源氏物語)
解説:
複数の女性を比較して、やはり「魅力」はこちらの方にある、と述べている場面です。かわいらしさや優しさを含む、総合的な「魅力」と訳すのが適切です。
3. あいぎゃうもなく、むくつけげなるものから、(徒然草)
解説:
「むくつけげなり(気味が悪い、無骨だ)」と対比されています。「優しさ」もなく、無骨であるけれども、という意味です。②の用法に近いでしょう。
4. 翁、あいぎゃうを施し、金を費やしけり。(今昔物語集)
解説:
翁が、人に対して「優しさ」や「思いやり」を施し、お金を使った、という意味です。②の用法です。
5. 少しあいぎゃうづきて、をかしげなり。(紫式部日記)
解説:
「〜づく」は「〜らしくなる」という意味の接尾語です。少し「かわいらしくなって」、趣がある、という意味になります。