「『あからさまに』立ち寄っただけ…すぐに帰るつもりが、つい長居してしまった、なんてことにならないように」
📖 意味と用法
あからさまなり は、ナリ活用の形容動詞で、現代語の「あからさま(=明白)」とは異なる意味を持つ重要な単語です。特に①の意味が頻出します。
- 【時間的】ほんのちょっとだ、かりそめだ、一時的だ: 最も重要な意味。滞在や行動が短時間であることを示します。「あからさまにも〜ず」の形で「少しの間も〜ない」という頻出表現になります。
- 【視覚的】明白だ、まる見えだ、あからさまだ: 現代語と同じ意味。こちらの意味で使われることは比較的少ないですが、文脈によってはあり得ます。
古文で「あからさまなり」が出てきたら、まず「ほんのちょっとだ」と訳せないか考えるのが鉄則です。
「ほんのちょっと」の例
あからさまにても、御覧ぜさせむ。(源氏物語)
(ほんの少しの間だけでも、お見せ申そう。)
「明白だ」の例
あからさまなるもの言ひも、まことしからず。(徒然草)
(まる見えの(嘘の)言葉も、本当らしくない。)
🕰️ 語源と歴史
語源は「明ら様(あきらさま)」が変化したものと考えられています。「明ら」は「明るい」「明らか」という意味です。
「夜が明けて明るくなるのがほんのわずかな時間である」ことから、「ほんのちょっと」という意味が生まれました。また、「明るくてよく見える」ことから「まる見えだ」という意味も派生したとされています。時間の経過とともに、①の「ほんのちょっと」が中心的な意味として定着しました。
📝 活用形
「あからさまなり」の活用(形容動詞ナリ活用)
活用形 | 語形 | 接続 |
---|---|---|
未然形 | あからさまなら | ず |
連用形 | あからさまに | て、用言 |
終止形 | あからさまなり | 言い切り |
連体形 | あからさまなる | 体言 |
已然形 | あからさまなれ | ば、ども |
命令形 | あからさまなれ | (まれ) |
🔄 類義語
ほんのちょっとだ
明白だ
↔️ 反対の概念
「ほんのちょっと」の対義語として、「じっくりと」「心を込めて」といった意味の単語が挙げられます。
📝 練習問題
傍線部の「あからさまなり」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. あからさまにも、まかでなむとは思ひたまへど、(後略)(源氏物語)
解説:
「まかで(退出する)」という行為が、長時間か短時間かという文脈です。「あからさまにも〜ず」の形ではありませんが、「ほんの少しの間だけでも退出したい」という意味になります。
2. ことのついでに見奉りて、あからさまなる御対面は、いかが。(源氏物語)
解説:
「ことのついでに」とあることから、本格的な対面ではなく、一時的な対面であることがわかります。よって「かりそめの(=ほんのちょっとの)」が正解です。
3. あからさまにだに、のたまはせむ。(源氏物語)
解説:
「だに」は「〜だけでも」という最小限の願望を表す副助詞です。これと結びついて、「ほんのちょっとだけでもおっしゃってほしい」という意味になります。
4. 帝、あからさまに出でさせ給ふ。(伊勢物語)
解説:
帝がお出かけになる場面です。文脈上、一時的なお出かけ、つまり「ほんのちょっと」お出かけになる、と解釈するのが最も自然です。
5. あからさまなる嘘を言ふも、をかし。(徒然草)
解説:
「嘘」を修飾しています。「ちょっとした嘘」とも考えられますが、徒然草の文脈や「あからさま」のもう一つの意味を考えると、「まる見えの(=バレバレの)嘘」と解釈するのが適切です。これは②の意味で使われる珍しい例です。