古文単語解説:ありがたし

ありがたし (形容詞・ク活用)

①めったにない・珍しい ②(めったにないほど)すばらしい ③生きることが難しい

「有ることが難しい」が原義。現代語「ありがとう」のルーツ。

「『ありがたき』人との出会い、それは奇跡。だからこそ、感謝の心が生まれるのです」

📖 意味と用法

ありがたし は、ク活用の形容詞で、その漢字「有り難し」が示す通り、「存在することが難しい」というのが元々の意味です。そこから様々な意味に派生しました。

  1. めったにない、珍しい、まれである: 存在することが難しい、ということから、数が少なく貴重であることを表します。
  2. (めったにないほど)すばらしい、尊い: めったにない良いもの、良い人に対して使われ、最高の賞賛の言葉となります。
  3. 生きることが難しい、生活しにくい: 文字通り、この世に「有る」ことが「難しい」という意味。主に漢文訓読調の文章で見られます。

現代語の「ありがとう(感謝)」とは直接結びつかず、「めったにない」という中核の意味から文脈判断することが重要です。めったにない→(だから)すばらしい、という思考の流れを理解しましょう。

「めったにない」の例

ありがたきもの。舅にほめらるる婿。(枕草子)

(めったにないもの。舅に褒められる婿。)

「すばらしい」の例

ありがたき御景色かな。(源氏物語)

(めったにないほどすばらしいご様子だなあ。)

📝 活用形

「ありがたし」の活用(形容詞ク活用)

活用形 語形
未然形ありがたく(は)
連用形ありがたく / ありがたう
終止形ありがたし
連体形ありがたき
已然形ありがたけれ
命令形(ありがたかれ)

対義語

「めったにない」の反対なので、「ありふれている」「どこにでもある」という意味の言葉が対義語になります。

  • ありふれたり (動詞) – ありふれている
  • よのつねなり (形容動詞) – 世間並みだ、普通だ

📝 練習問題

傍線部の「ありがたし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 世にありがたきもの、火なくしてあたたかなるもの。(枕草子)

めったにない
すばらしい
生きにくい
感謝すべき

解説:

「ありがたきもの」の例として、舅に褒められる婿や、火なしで暖かいものなどを挙げています。これらは「めったにないもの」の例です。

2. 前の世にも御ちぎりや深かりけむ、…ありがたくぞおぼえさせ給ふ。(源氏物語)

めったになく
(めったにないほど)すばらしく
生きにくく
感謝すべきことに

解説:

光源氏の美しさや才能について述べている文脈です。前世からの因縁が深いのだろうか、と感じるほど「すばらしく」お見えになる、という意味です。

3. ありがたきまで風吹き、波高し。(土佐日記)

めったにないほど
すばらしいほど
生きにくいほど
感謝すべきほど

解説:

風が吹き波が高いという、航海にとって悪い状況を述べています。ここでは「めったにないほど」ひどく風が吹き、波が高い、という意味です。良いことにも悪いことにも使われます。

4. 世の中はありがたく、むつかしきものかな。(方丈記)

めったになく
すばらしく
生きにくく
感謝すべきことに

解説:

方丈記のテーマである、この世の無常や生きることの困難さを表しています。したがって「この世は生きにくく、厄介なものだなあ」という意味になります。③の用法です。

5. さるありがたきついでに、かうあながちに。(源氏物語)

めったにない
すばらしい
生きにくい
感謝すべき

解説:

「このようなめったにない機会に、こんなに無理やり(事を起こすなんて)」という文脈です。①の「めったにない」が「ついで(機会)」を修飾しています。

古文単語「ありがたし」クイズゲーム(選択問題編)

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