古文単語解説:あり

あり (動詞・ラ行変格活用)

①いる・ある ②生きている・生活する ③(時が)たつ ④(補助動詞)〜である

存在のすべてを担う基本動詞。ラ変動詞の代表格!

「昔、男『あり』けり。この一文に、物語のすべてが始まる。存在こそが、すべての始まり」

📖 意味と用法

あり は、古文の最重要動詞の一つで、ラ行変格活用という特殊な活用をします。文脈によって様々な意味に訳し分けられます。

  1. いる、ある(存在する): 最も基本的な意味。人や物が存在することを示します。
  2. 生きている、生活する、無事でいる: 人が生存していることや、日々の暮らしを送っていることを示します。「生きる」の尊敬語「おはします」との対比で重要です。
  3. (時が)たつ、行われる: 時間が経過することや、行事などが行われることを示します。
  4. (補助動詞)〜である、〜ている: 形容詞の連用形や助詞「て」などに付いて、断定や状態の継続を表します。

「あり」が本動詞か補助動詞かを見極めること、そして文脈に合わせて「いる」だけでなく「生きている」「〜である」などと柔軟に訳すことが大切です。

「生きている」の例

ありし人のかたみとて、(更級日記)

(生きていた人(=亡き母)の形見として、)

補助動詞の例

木の花は、濃くも薄くも紅梅。…桜は、花びら大きに、葉の色濃きが、枝細くて咲きたる。藤の花は、しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし。(枕草子)

(…枝が細くて咲いているの。藤の花は、花房が長く、色が濃く咲いているのは、たいそうすばらしい。)

📝 活用形

「あり」の活用(ラ行変格活用)

活用形 語形
未然形あら
連用形あり
終止形あり
連体形ある
已然形あれ
命令形あれ

※「をり」「はべり」「いまそがり」も同じラ変動詞です。

📝 練習問題

傍線部の「あり」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 昔、男ありけり。(伊勢物語)

いた
生きていた
あった
生活していた

解説:

物語の冒頭の決まり文句です。昔、一人の男が「いた」。最も基本的な①の意味です。「あり」は連用形で、過去の助動詞「けり」に接続しています。

2. かくあるべきことにはあらず。(源氏物語)

生きている
存在する
このようである
行われる

解説:

副詞「かく(このように)」を受けて、「このようであるべきことではない」という意味になります。④の補助動詞(断定)に近い用法です。

3. ありある人、みな来たり。(宇治拾遺物語)

生きている
すべての
いる
存在する

解説:

「ありとある」は「存在するすべての」「あらゆる」という意味の連語(慣用句)です。ここでは「そこにいたすべての人」という意味になります。

4. あらなくに、この世の外の思ひ出に、(源氏物語)

いないのに
生きていないのに
ないのに
生活していないのに

解説:

「あら」は未然形。「なくに」は「〜ないのになあ」という詠嘆を表します。文脈から、亡くなった人を思って「もう生きてはいないのになあ」と嘆いている場面です。②の意味が適切です。

5. しばしありて、また帰り来ぬ。(伊勢物語)

いて
生きていて
(時間が)たって
生活して

解説:

「しばし」は「しばらくの間」という意味の副詞です。これを受けて、「しばらく時間がたって」また帰ってきた、という意味になります。③の用法です。

古文単語「あり」クイズゲーム(選択問題編)

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