「帝、衣を『かづけ』給ふ(下二段)。臣、衣を『かづき』て喜ぶ(四段)。与える者と、いただく者。活用の違いが身分を示す」
📖 意味と用法
かづく は、活用の種類によって意味(特に動作の主体)が大きく異なるため、文法的な識別が不可欠な動詞です。
- 【カ行四段活用】
- (ほうびなどを)いただく、頂戴する: 目上の人からほうびとして衣などを「もらう」意。
- (頭に)かぶる、(水中に)潜る: 現代語と同じ。
- 【カ行下二段活用】
- (ほうびなどを)与える、くださる: 目下の者にほうびとして衣などを「与える」意。
- (頭に)かぶせる: 他人の頭にかぶせてやる。
未然形に「ず」を付けて、「かづか(-a-)ず」なら四段(もらう側)、「かづけ(-e-)ず」なら下二段(与える側)と判断するのが鉄則です。
四段「いただく」の例
御衣をかづきて、帰り来ぬ。(伊勢物語)
(帝からいただいたお召し物をほうびとしていただいて、帰って来た。)
下二段「与える」の例
禄いと多くかづけ給ふ。(栄花物語)
(ほうびをたいそうたくさんお与えになる。)
📝 活用形
カ行四段活用
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | かづか |
連用形 | かづき |
終止形 | かづく |
連体形 | かづく |
已然形 | かづけ |
命令形 | かづけ |
カ行下二段活用
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | かづけ |
連用形 | かづけ |
終止形 | かづく |
連体形 | かづくる |
已然形 | かづくれ |
命令形 | かづけよ |
📝 練習問題
傍線部の「かづく」の活用の種類と現代語訳の組み合わせとして最も適切なものを選んでください。
1. 頭には、まだきしろき物をかづけて、(枕草子)
解説:
「かづけ」は連用形です。四段なら「かづき」となるはずなので、下二段活用です。頭に白いものを「かぶせて」、という意味になります。
2. 御衣ぬぎて、かづけ給ひつ。(伊勢物語)
解説:
「かづけ」は連用形なので下二段活用です。主語は帝や貴人であり、お召し物を脱いで(臣下に)「お与えになった」、という意味です。
3. 海人のかづきしに入るは、(土佐日記)
解説:
「かづき」は連用形なので四段活用です。海人が海に「潜り」入るのは、という意味です。
4. 品々の禄かづけさせ給ふ。(源氏物語)
解説:
「かづけ」は連用形なので下二段活用です。主語は光源氏で、様々なほうびを人々に「お与えになる」、という意味です。
5. 肩にうちかづきて、…(徒然草)
解説:
「かづき」は連用形なので四段活用です。肩に(荷物などを)「かついで」、という意味です。「かぶる」から転じた用法です。