古文単語解説:すずろなり

すずろなり (形容動詞・ナリ活用)

①わけもなく・なんとなく ②思いがけない・意外だ ③むやみに・やたらと

理由なき心の動き、予期せぬ出来事。論理を超えた「なんとなく」。

「『すずろなる』涙が頬を伝う。悲しいわけではないのに、なぜか心が濡れる。それが人の心というもの」

📖 意味と用法

すずろなり は、ナリ活用の形容動詞で、これといった理由や目的がないままに物事が起こる様子を表します。「そぞろなり」とも言います。

  1. わけもなく、なんとなく、あてもなく: 心が特に理由もなく何かに惹かれたり、涙が出たりする様子。
  2. 思いがけない、意外だ、無関係だ: 予期しない出来事が起こったり、自分とは無関係なことで迷惑を被ったりする様子。
  3. むやみに、やたらと、むやみやたらだ: 程度が甚だしい様子。「すずろ寒し」で「むやみに寒い」など。

「理由がない」という中核の意味から、①「なんとなく」、②「意外だ」、③「むやみに」という三つの意味を文脈に応じて使い分けることが大切です。

「わけもなく」の例

すずろに涙のこぼるるに、(更級日記)

(わけもなく涙がこぼれるので、)

「思いがけない」の例

すずろなる死にをすべかめり。(源氏物語)

(思いがけない死に方をするにちがいないようだ。)

📝 活用形

「すずろなり」の活用(形容動詞ナリ活用)

活用形 語形
未然形すずろなら
連用形すずろに / すずろなる
終止形すずろなり
連体形すずろなる
已然形すずろなれ
命令形すずろなれ

📝 練習問題

傍線部の「すずろなり」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. すずろにもの悲しくおぼえけり。(伊勢物語)

なんとなく
思いがけず
むやみに
意外に

解説:

はっきりした理由もなく、もの悲しく感じられた、という心情を表しています。①の「なんとなく」が適切です。

2. すずろなる者に、まじらはむも、心づきなし。(源氏物語)

わけもない
無関係な
むやみな
思いがけない

解説:

自分とは「無関係な」者と付き合うのも、気に入らない、という意味です。②の用法です。

3. つれづれなれば、すずろにそこはかとなく歩み出でて、(徒然草)

思いがけず
むやみに
あてもなく
意外に

解説:

手持ち無沙汰なので、「あてもなく」ぶらぶらと歩き出して、という意味です。①の用法です。

4. すずろに言ひ散らすは、さばかりの才にはあらぬにや。(徒然草)

なんとなく
むやみに
思いがけず
あてもなく

解説:

「むやみに」あれこれ言い散らすのは、たいした才能ではないのだろうか、という意味です。程度の甚だしさを表す③の用法です。

5. すずろなるほこりだに立つべくもあらず。(源氏物語)

思いがけない
わけもない
むやみな
あてもない

解説:

部屋が非常にきれいに掃除されていて、「思いがけない」ほこりさえ立つはずもない、という意味です。②の用法です。

古文単語「すずろなり」クイズゲーム(選択問題編)

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