「帝に『つかうまつる』のも、歌を詠み『つかうまつる』のも、手紙を書き『つかうまつる』のも、すべては相手への敬意の表れ」
📖 意味と用法
つかうまつる は、ラ行四段活用の動詞で、文脈によって謙譲語としても丁寧語としても機能する非常に重要な敬語です。
- 【謙譲語・本動詞】お仕えする: 身分の高い人にお仕えするという意味。動作の向かう先(=お仕えする相手)を高めます。
- 【謙譲語・補助動詞】お〜申し上げる、〜してさしあげる: 他の動詞の連用形に付いて、その動作を謙譲の意味にします。「(私があなたに)〜してさしあげる」というニュアンスです。
- 【丁寧語・補助動詞】〜いたします、〜ます: 会話文や手紙文で使われ、聞き手に対して丁寧な気持ちを表します。謙譲語の用法と混同しないよう注意が必要です。
誰から誰への敬意なのか、文脈を正確に読み解くことが最大のポイントです。特に、補助動詞として使われる場合に謙譲語なのか丁寧語なのかの判断が重要になります。
謙譲語「お仕えする」の例
宮に初めてつかうまつりし年、(紫式部日記)
(中宮様に初めてお仕えした年、)
丁寧語「いたします」の例
文書きてつかはしつかうまつる。(枕草子)
(手紙を書いてお送りいたします。)
📝 活用形
「つかうまつる」の活用(ラ行四段活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | つかうまつら |
連用形 | つかうまつり |
終止形 | つかうまつる |
連体形 | つかうまつる |
已然形 | つかうまつれ |
命令形 | つかうまつれ |
📝 練習問題
傍線部の「つかうまつる」の敬語の種類と現代語訳の組み合わせとして最も適切なものを選んでください。
1. 親の家に、今はとてつかうまつらず。(伊勢物語)
解説:
「親の家に」仕える、という文脈なので、本動詞の謙譲語「お仕えする」が適切です。「ず」に続いているので未然形です。
2. 御返し、とくつかうまつらせ給へ。(源氏物語)
解説:
「御返し」という名詞(動詞「返す」の連用形が名詞化したもの)に付いています。補助動詞として使われ、「お返ししてさしあげなさい」という意味になります。動作の向かう先(返歌を受け取る人)への謙譲語です。
3. いと切に思ひつかうまつることありて、…(更級日記)
解説:
動詞「思ふ」の連用形に付いている補助動詞です。文脈上、作者が(仏様など)を「思い申し上げる」という意味なので、謙譲語となります。
4. 御前に人々あまたさぶらひて、物語など読みつかうまつるに、(枕草子)
解説:
「御前(=中宮定子)」に対して女房たちが「物語をお読み申し上げる」場面です。動詞「読む」に付く補助動詞で、読む相手(中宮定子)を高める謙譲語です。
5. 「などて、かくはつかうまつるぞ」
解説:
会話文の文末で使われています。「なぜ、このようになさるのですか」と、聞き手に対する丁寧な表現です。この場合の「つかうまつる」は補助動詞の丁寧語と解釈するのが最も適切です。