古文単語解説:なにおふ

なにおふ (連語)

①有名である・評判が高い ②その名にふさわしい

「名に負ふ」=その名を背負っている。名前どおりの、名高い存在。

「吉野の桜、龍田の紅葉。古より『名に負ふ』名所は、その名に違わぬ美しさで人を魅了する」

📖 意味と用法

なにおふ は、名詞「名」+格助詞「に」+動詞「負ふ(ハ行四段)」からなる連語で、名声や評判に関わる意味を表します。

  1. 有名である、評判が高い: ある事柄が世間に広く知れ渡っている様子。
  2. その名にふさわしい、名前どおりである: 持っている名前や評判に、実体が伴っている様子。

多くの場合、和歌の序詞や掛詞として使われ、地名など特定の「名」と結びつくことが多いのが特徴です。文脈全体で、何が有名なのか、何が名前にふさわしいのかを捉えましょう。

「有名である」の例

名に負ふ富士の嶺。(伊勢物語)

(その名も高い富士の嶺。)

「その名にふさわしい」の例

げに、名にこそ負ひけれ。(土佐日記)

(なるほど、評判どおりであったのだなあ。)

📝 練習問題

傍線部の「なにおふ」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. 名に負ふ巷のならひ。(源氏物語)

評判どおりの
名前だけの
名高い
名にちなんだ

解説:

(好色で名高い)在原業平の住む五条あたりを指して、「評判どおりの」巷の習わし、と言っています。

2. 名に負へる桜の、…(古今和歌集)

名前だけの
評判が高い
名にちなんだ
評判どおりの

解説:

「名に負へる」は連体形です。「評判が高い」桜が、という意味です。①の用法です。

3. 松が枝の名にこそ負ひけれ。(後撰和歌集)

評判が高い
名前だけの
名前どおりであった
名にちなんだ

解説:

「松(待つ)」という言葉にかけて、「待つ」というその「名前どおりであった」のだなあ、という意味です。掛詞として使われています。

4. 名に負ふ高師の浜の、…(拾遺和歌集)

有名な
名前だけの
評判どおりの
名にちなんだ

解説:

歌枕として「有名な」高師の浜の、という意味です。①の用法です。

5. 逢坂の関は名に負ひて、…(枕草子)

有名で
名前だけで
その名のとおり
評判どおりで

解説:

「逢坂(あふさか)」という名前に「逢ふ」を掛けて、「その名のとおり」、(行き交う人が多くて)騒がしい、という意味です。②の用法です。