「声に出さぬ祈りを『ねんじ』、こみ上げる涙を『ねんず』。強き心は静寂に宿る」
📖 意味と用法
ねんず は、サ行変格活用またはサ行下二段活用の動詞で、心の中で強く思うことを表します。
- (心の中で)祈る、祈願する: 神仏に対して、声に出さずに心の中で願い事をする。
- 我慢する、こらえる、堪える: 痛みや悲しみ、怒りなどの感情を表に出さないように、心の中で抑えつける。
文脈から、心の働きが外(神仏)に向かっているのか、内(自己の感情)に向かっているのかを判断するのがポイントです。多くの場合、サ行変格活用で用いられます。
「祈る」の例
ただ仏を念じ奉る。(平家物語)
(ただひたすら仏様にお祈り申し上げる。)
「我慢する」の例
念じわびて、湯に入りぬ。(更級日記)
(我慢しきれなくなって、湯に入った。)
📝 活用形
「ねんず」の活用(サ行変格活用)
活用形 | 語形 |
---|---|
未然形 | ねんぜ / ねんじ |
連用形 | ねんじ |
終止形 | ねんず |
連体形 | ねんずる |
已然形 | ねんずれ |
命令形 | ねんぜよ / ねんじよ |
📝 練習問題
傍線部の「ねんず」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 観音をねんじ奉らむ。(源氏物語)
お祈り申し上げよう
我慢申し上げよう
考え申し上げよう
こらえ申し上げよう
解説:
対象が「観音」様であることから、神仏への祈願であることがわかります。したがって「お祈り申し上げよう」が適切です。
2. いと心苦しければ、ねんじてぞ聞く。(枕草子)
祈って
我慢して
考えて
祈願して
解説:
「いと心苦し(たいそうつらい)」という状況で聞いているので、つらい気持ちを「我慢して」聞いていると解釈するのが自然です。
3. ねんじても、なほ涙の落つるを、(和泉式部日記)
祈っても
考えても
こらえても
祈願しても
解説:
涙が落ちるのを止めようとしている文脈です。したがって、涙を「こらえても」やはり落ちてしまう、という意味になります。
4. ねんずれば、叶はぬことなきなり。(徒然草)
祈れば
我慢すれば
考えれば
こらえれば
解説:
「叶はぬことなき(叶わないことはない)」とあるので、願い事をすること、つまり「祈れば」と解釈するのが適切です。
5. 痛きことあれども、ねんじてぞありける。(竹取物語)
祈って
考えて
我慢して
祈願して
解説:
「痛きこと(痛いこと)」があるので、その痛みを「我慢して」いた、という意味になります。②の用法です。