古文単語解説:やさし

やさし (形容詞・シク活用)

①優美だ・上品だ ②殊勝だ・けなげだ ③恥ずかしい

「身も痩せるほど」が原義。現代語の「優しい」とは全く違う!

「現代語の『優しい』とは違う!身も細るほど恥ずかしく、そして優美であること。それが古文の『やさし』」

📖 意味と用法

やさし は、シク活用の形容詞で、現代語の「優しい(kind)」とは意味が大きく異なる最重要単語です。語源は「痩すし」で、恥ずかしさで身が細るような気持ちが元になっています。

  1. 恥ずかしい、きまりが悪い: 語源に最も近い意味。人前に出るのが気恥ずかしい、という気持ち。
  2. 優美だ、上品だ、風流だ: 恥ずかしいほどに洗練されていて美しい様子。プラス評価。
  3. 殊勝だ、けなげだ、感心だ: 恥ずかしさをこらえて何かをする様子から、感心だ、けなげだという意味。プラス評価。

「恥ずかしい」というネガティブな感情が、転じて「(恥ずかしいほど)すばらしい」というポジティブな評価になるという、古文特有の感覚を理解することが重要です。

「優美だ」の例

やさしき声にて、…(源氏物語)

(優美な声で、…)

「殊勝だ」の例

やさしくも、敵にうしろを見せぬものかな。(平家物語)

(殊勝にも、敵に背中を見せないものだなあ。)

📝 活用形

「やさし」の活用(形容詞シク活用)

活用形 語形
未然形やさしく(は)
連用形やさしく / やさしう
終止形やさし
連体形やさしき
已然形やさしけれ
命令形(やさしかれ)

📝 練習問題

傍線部の「やさし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. あな、やさし。いかでかくは思ひけむ。(源氏物語)

恥ずかしい
優美だ
けなげだ
優しい

解説:

「ああ、恥ずかしいこと。どうしてこんなことを思ってしまったのだろう」という、自分の心に対してきまり悪く感じている場面です。③の意味です。

2. いとやさしきさまし、あてはかに美しい人になむ。(源氏物語)

恥ずかしい
優美な
けなげな
優しい

解説:

「あてはかなり(高貴だ)」「美しい」といった言葉とともに、人物の様子を賞賛しています。したがって「優美な」様子、と訳すのが適切です。①の意味です。

3. やさしきもの。…ちごの乳母の、ただそこなりとて、ゐざり出でたる。(枕草子)

恥ずかしい
優美な
殊勝な
優しい

解説:

赤ちゃんの乳母が、身なりを構わずに出てくる様子を「殊勝なものだ」と評価しています。恥ずかしさよりも子供を思う気持ちが勝っている様子をけなげだと感じているのです。②の意味です。

4. 世の人の飢ゑたるをも知らず、やさしくもてなすは、…(徒然草)

恥ずかしく
優雅に
けなげに
優しく

解説:

世間の人が飢えているのも知らずに、「優雅に」ふるまうのは、という文脈です。風流を気取った振る舞いを指しています。①の意味です。

5. やさしう言はれ奉りて、…(大鏡)

恥ずかしく
上品に
けなげに
優しく

解説:

「言はれ奉りて(言われ申し上げて)」とあるので、言葉遣いについて述べています。「上品に」言われ申し上げて、という意味です。①の用法です。

古文単語「やさし」クイズゲーム(選択問題編)

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