「満開の花を愛でるように、『めでたし』は心からの賞賛や祝福の気持ちを込めた言葉です」

📖 意味と用法

めでたし は、ク活用の形容詞で、古文における代表的なプラス評価の言葉です。主な意味は以下の二つです。

  1. すばらしい、立派だ、見事だ: 人物、才能、容姿、景観、行事、作品など、様々な対象に対して、心が惹かれ賞賛する気持ちを表します。最も中心的な意味です。
  2. 祝うべきだ、喜ばしい、幸運だ: 現代語の「めでたい」に通じる意味で、祝い事や幸運な出来事などに対して使われます。

現代語の「めでたい」は②の意味が主ですが、古文の「めでたし」は①の「すばらしい」の意味で使われることが非常に多い点に注意が必要です。賞賛、肯定的な評価、美しさ、喜びがキーワードとなります。

すばらしい・立派だ

かかるみちにも、ものあはれあはれるものなりけり。ふえただただ秋風あきかぜせられて、めでたくこゆる。(源氏物語)

(このような(仏道の)道でも、物のしみじみとした情趣はわかるものだなあ。笛の音がまるで秋風によって吹き寄せられるように、すばらしく聞こえる。)

喜ばしい・祝うべきだ

きみはじめとて、ひとびとさけなみだなどし、いはひてめでたかりけりけり。(栄花物語)

(主君のお祝いの始めということで、人々は酒や涙など流し、祝って喜ばしかった。)

🕰️ 語源と歴史

「めでたし」の語源は、動詞「愛づ(めづ)」に由来します。「愛づ」は「心が惹かれて賞賛する」「愛する」「感心する」といった意味を持つ動詞です。この「愛づ」の連用形「め(で)」に、形容詞を作る接尾語「たし」が付いて「めでたし」となりました。

つまり、「めでたし」の元々の意味は「賞賛したくなるほどすばらしい」ということです。この中心的な意味から、祝うべき事柄や幸運な状況に対して「喜ばしい」「祝着だ」という意味でも使われるようになりました。現代語の「めでたい」はこの後者の意味合いが強くなっていますが、古文では前者の「すばらしい」という意味で使われる頻度が非常に高いです。

📝 活用形と派生語

「めでたし」の活用(形容詞ク活用)

活用形 語形 接続
未然形 めでたく / めでたから
連用形 めでたく / めでたう て、なり、他の用言
終止形 めでたし 言い切り
連体形 めでたき 体言、こと、の
已然形 めでたけれ ば、ども
命令形 めでたく / めでたかれ (会話などで稀)

※連用形「めでたう」はウ音便化した形です。

関連語・派生語

  • 愛づ(めづ) (動詞・ダ行下二段) – 賞賛する、感心する、愛する
    人々これを愛で感じける。(竹取物語)
    (人々はこれを賞賛し感心した。)
  • めでたさ (名詞) – すばらしさ、立派さ
    そのめでたさ、ことはむかたなし。(源氏物語)
    (そのすばらしさは、言いようもない。)
  • めでたがる (動詞・ラ行四段) – すばらしいと思う、喜ぶ
    人々めでたがりいはふ。(平家物語)
    (人々はすばらしいと感心し祝う。)

🔄 類義語

すばらしい・立派だ

よし
うるはし
うつくし
あっぱれなり
いみじ (プラス)
かたじけなし

喜ばしい

よろこばし
うれし

↔️ 反対の概念

「めでたし」は肯定的な評価を表すため、否定的な評価を表す語が対比されます。

悪し(あし) (悪い)
わろし (よくない)
いみじ (マイナス) (ひどい)
あさまし (驚きあきれるほどだ)

また、「すばらしい」の反対として「平凡だ」という意味の語も対比され得ます。

なのめなり (平凡だ)
おろかなり (並一通りだ)

🗣️ 実践的な例文(古文)

1

容貌かたちこころばへもかしこめでたきひとかな。(源氏物語)

【訳】容貌も気立ても賢くすばらしい人だなあ。

意味: ① すばらしい、立派だ
2

これはなにおんいはひぞとへば、むままれたるとてめでたしとなむまうす。(徒然草)

【訳】これは何のお祝いかと尋ねると、馬の子が生まれたので喜ばしいと申しております。

意味: ② 喜ばしい、祝うべきだ
3

富士ふじやまかたちは、きてもせず、めでたきさまつくりなせるやまなり。(伊勢物語)

【訳】富士山の形は、絵に描いても(本物には)似ない(ほど)、すばらしい様子に作られている山である。

意味: ① すばらしい、見事だ
4

まへひとびとまゐりてひなどするも、めでたくゆ。(枕草子)

【訳】(中宮様の)御前で人々が参上して舞などを舞うのも、立派に見える。

意味: ① 立派だ、すばらしい
5

ゆみみちならでは、さうなきものかなと、ひとおもわれおもふに、まことにめでたし。(徒然草)

【訳】弓を射る道においては、並ぶ者がない者だなあと、他人も思い私も思うにつけて、本当にすばらしい。

意味: ① すばらしい、見事だ

📝 練習問題

傍線部の「めでたし」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。

1. はるあけぼの。(中略)なつよるつきころさらなりさらなりやみもなほ、ほたるおほびちがひたる。また、ただひとふたつなど、ほのかにうちひかりてくもめでたし。(枕草子)

すばらしい(趣深い)
喜ばしい
幸運だ
祝うべきだ

解説:

夏の夜の蛍が光る様子について、その情景の美しさや趣を賞賛しているので、「すばらしい(趣深い)」が適切です。

2. かどひろつくり、うしうまひて、いへひとさかえ、めでたくやすし。(徒然草)

喜ばしくて
立派で
幸運で
おもしろくて

解説:

家の門構えが広く、牛や馬を飼い、家が富み人が栄えているという状況を描写しているので、その様子が「立派で」あると評価するのが自然です。

3. かかるかかるめでたきに、くろころもものかは。(源氏物語)

すばらしい
見事な
祝うべき
幸運な

解説:

このような「祝うべき」日に、黒い衣服を着るものか(いや、着ない)、という意味です。祝いの場であることが文脈から推測されるため、「祝うべき」が適切です。

4. なども、上手じやうずどものけるは、めでたきにはあれど、(後略)(徒然草)

喜ばしい
すばらしい
幸運な
かわいい

解説:

絵などについて、名人が描いたものは「すばらしい」絵ではあるけれども、という文脈です。作品の出来栄えを評価しているので、「すばらしい」が適切です。

5. みかどきさきみやたちこしめし、めでたしおほせらる。(平家物語)

喜ばしい
すばらしい
幸運だ
祝うべきだ

解説:

帝や后などが(何かを聞いて)「すばらしい」とおっしゃる、という状況です。何かを賞賛している場面なので、「すばらしい」が適切です。