「長年の夢であった出家を遂げ、ようやく『ほい』を遂げたと喜ぶように、この言葉は心からの願いや真の目的を表します」
📖 意味と用法
ほい(本意) は、名詞で、人が心の中に抱いている本来の目的や、かねてからの願い、また表面には出さない本当の気持ちを指す重要な古文単語です。「ほんい」と読むこともあります。
- 【本来の志・宿願】本来の志、かねてからの願い、宿願、本来の目的: 人が以前から心に抱き続け、実現を願っている主要な目的や望みを指します。特に、出家や特定の目標達成など、人生における大きな願いについて使われることが多いです。「ほいを遂ぐ(とぐ)」「ほいなし(本意無し=不本意だ)」などの形でよく用いられます。
- 【真意・本心】真意、本当の気持ち、本心: 言葉や行動の裏に隠された、その人の本当の考えや感情を指します。
本来の願い、宿願、真意、本心がキーワードです。人の内面にある深く強い思いを表す言葉です。
本来の志・宿願 の例
長く出家のほいありて、つひに願ひを果たしつ。(徒然草)
(長年出家したいという本来の願いがあって、とうとうその願いを成し遂げた。)
真意・本心 の例
言葉は飾れども、ほいは別にありけむ。(源氏物語)
(言葉は飾っているけれども、本当の気持ちは別にあったのだろう。)
「ほいなし」の例
かかる結果になるとは、いとほいなし。(平家物語)
(このような結果になるとは、たいそう不本意だ。)
🕰️ 語源と歴史
「ほい(本意)」は、文字通り「本来の意図」や「もとからの考え」を意味する漢語「本意(ほんい)」が和語化したものです。「本」は「もと」「根本」、「意」は「思い」「考え」を指します。
古くは「ほんい」と音読みされることもありましたが、次第に「ほい」という和語の読みが定着しました。人が心に秘めた真の目的や、長年にわたって抱き続けてきた強い願いを表す言葉として、特に個人の生き方や決断が重視される文脈で用いられました。
出家遁世や特定の目的を達成することなど、人生の大きな転機や目標に関連して使われることが多く、その願いが叶うことを「ほいを遂ぐ」、叶わないことを「ほいなし」と表現しました。『源氏物語』や『平家物語』、『徒然草』など、多くの古典文学作品で重要なキーワードとして登場します。
📝 品詞と関連表現
「ほい」の品詞
品詞 | 説明 |
---|---|
名詞 | 「本来の志」「かねてからの願い」「真意」などの意味で用いられる。活用はしない。 |
※「ほいなし(本意無し)」はク活用の形容詞、「ほいとぐ(本意遂ぐ)」はガ行下二段活用の動詞など、他の語と複合して使われることが多いです。
関連表現
- ほいなし(本意無し) (形容詞ク活用) – 不本意だ、残念だ、期待外れだ。
かく果てむとは、いとほいなし。
- ほいとぐ(本意遂ぐ) (動詞ガ行下二段) – 本来の願いを達成する、宿願を果たす。
長年のほいを遂げて満足す。
- ほいあり (動詞ラ行変格) – 本来の目的がある、深い考えがある。
その言葉にはほいありげなり。
🔄 類義語
本来の志・宿願
真意・本心
↔️ 反対の概念
「ほい(本意)」が「本来の願い」「真意」を示すため、反対の概念としては「不本意」「表面的なこと」「偽り」などが考えられます。
🗣️ 実践的な例文(古文)
世を捨てむとこそ思ひ定めしか、これぞほいなりける。(源氏物語)
【訳】俗世を捨てようと心に決めていたが、これこそが本来の願いであったのだ。
尼になりて後、年来のほいとげぬるを喜びけり。(更級日記)
【訳】尼になった後、長年の宿願を達成したことを喜んだ。
言葉には出でねど、ほいを察して答ふ。(枕草子)
【訳】言葉には出さないけれど、真意を察して答える。
かかる憂き目を見るはほいならねど、今はせんかたなし。(平家物語)
【訳】このようなつらい目にあうのは不本意であるが、今はどうしようもない。
都へ帰らむことこそ、まことのほいなれ。(土佐日記)
【訳】都へ帰ることが、本当の(かねてからの)願いである。
📝 練習問題
傍線部の「ほい」の現代語訳として最も適切なものを選んでください。
1. 出家のほい深かりしかど、今だ果たさず。
解説:
出家したいというかねてからの願いが深かったが、まだ達成していない、という意味です。「本来の願い」または「宿願」が適切です。
2. 言葉は優しけれど、ほいは知りがたし。
解説:
言葉は優しいけれども、その裏にある本当の気持ちは分かりにくい、という意味です。「本当の気持ち」または「真意」が適切です。
3. かかる生活は我がほいにあらず。
解説:
このような生活は私の本来望んでいたものではない(不本意だ)、という意味です。「本来の望み」が適切です。
4. 年月を経て、ようやくほいを遂げける。
解説:
長い年月を経て、ようやくかねてからの願いを達成した、という意味です。「ほいを遂ぐ」の形で使われています。「かねてからの願い」が適切です。
5. その言葉のほいを問ひ質す。
解説:
その言葉の本当の意味を問い質す、という意味です。「真意」が適切です。