現代文読解の秘訣:筆者の主張を捉える
なぜ「筆者の主張を捉える」ことが重要なのか?
評論文や論説文において、筆者は特定のテーマについて自身の考えや意見(=主張)を展開します。その主張を正確に読み取ることが、読解の最も基本的な目標です。筆者の主張は、問題提起、具体例、理由付け、結論といった論理構成の中に巧みに織り込まれています。
読解で大切なのは、以下の点です。
- 文章全体のテーマと、それに対する筆者の基本的な立場を把握すること。
- 繰り返し表現されるキーワードや、逆接の接続詞の後に注目し、筆者が強調したい点を見抜くこと。
設問は、筆者の主張の核心部分や、その主張に至る論理展開の理解度を問うものが多くあります。表面的な情報だけでなく、筆者が何を最も伝えたいのかを深く読み解く姿勢が求められます。
それでは、具体的な問題で見ていきましょう。
問題
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の普及は、私たちのコミュニケーションのあり方を根底から変えた。遠く離れた友人や、見知らぬ他者の日常、喜びや悲しみといった感情の断片が、リアルタイムで画面上に流れ込んでくる。私たちは、かつてないほど多くの人々の感情に触れる機会を得た。共感は、他者との繋がりを深め、社会的な絆を強固にする上で不可欠な感情である。しかし、この絶え間ない他者の感情への暴露は、時として「共感疲労」とでも呼ぶべき現象を引き起こす。他者の苦痛や困難に対して過度に感情移入し続けることで、自らの精神が消耗し、無力感や虚無感に苛まれるのだ。皮肉なことに、共感しようとする誠実な気持ちが強い人ほど、この疲労に陥りやすいとも言われる。そして、共感疲労の果てには、感情の鈍化や他者への無関心といった、共感とは正反対の状態が待ち受けていることさえある。SNS時代のコミュニケーションにおいては、他者への共感の重要性を認識しつつも、自らの感情の境界線を適切に保ち、時には情報から距離を置く自己防衛の術もまた、賢明な態度と言えるだろう。
問1 この文章で筆者が最も警鐘を鳴らしていることは何か。次の中から最も適切なものを一つ選びなさい。
アSNSの普及により、人々が他者の感情に触れる機会が過剰になったこと。
イSNSを介した過度な共感が精神的消耗を招き、結果として他者への無関心を引き起こす危険性があること。
ウ共感する気持ちが強い人ほど、SNSの利用において精神的な疲労を感じやすいということ。
エSNS時代においては、他者と適切な距離を保つ自己防衛の術を身につけるべきであること。
解答・解説
1. 本文の分析:筆者の主張展開
本文の論理展開と、それに伴う筆者の主張のポイントを見てみましょう。
導入・現状認識:
- SNSの普及により、コミュニケーションが変化し、他者の感情に触れる機会が増加した。
- 共感は本来、重要で肯定的な感情である。
問題提起・現象の指摘(具体→抽象):
- しかし、絶え間ない感情への暴露は「共感疲労」を引き起こす。(問題提起)
- 共感疲労は精神消耗、無力感、虚無感につながる。(具体的な症状)
- 誠実な人ほど陥りやすいという皮肉な側面も指摘。
筆者の最も懸念する事態(抽象的な主張の核心):
- 「そして、共感疲労の果てには、感情の鈍化や他者への無関心といった、共感とは正反対の状態が待ち受けていることさえある。」
この部分が、筆者が最も問題視し、警鐘を鳴らしている核心部分です。共感が逆の結果を生むというパラドックスを指摘しています。
結論・提言:
SNS時代には、共感の重要性を認識しつつも、感情の境界線を保ち、自己防衛することも賢明な態度である。
2. 設問(問1)の解説
設問は「筆者が最も警鐘を鳴らしていること」を問うています。これは、本文中で筆者が問題の本質として最も強く訴えたい懸念に対応します。
ア SNSの普及により、人々が他者の感情に触れる機会が過剰になったこと。
これは現状認識の一部であり、筆者が警鐘を鳴らす問題の前提ではありますが、最も伝えたい警告の核心ではありません。「過剰になったこと」自体よりも、それが「何を引き起こすか」が重要です。
イ SNSを介した過度な共感が精神的消耗を招き、結果として他者への無関心を引き起こす危険性があること。
この選択肢は、本文後半の「共感疲労の果てには、感情の鈍化や他者への無関心といった、共感とは正反対の状態が待ち受けていることさえある」という筆者の最も強い懸念を的確に捉えています。共感が無関心に転化するという逆説的な危険性こそ、筆者が警鐘を鳴らす核心です。これが正解です。
ウ 共感する気持ちが強い人ほど、SNSの利用において精神的な疲労を感じやすいということ。
本文中に「共感しようとする誠実な気持ちが強い人ほど、この疲労に陥りやすい」という記述はありますが、これは共感疲労の一側面や特徴を述べたものであり、筆者が最も警鐘を鳴らしている事態そのものではありません。より大きな問題(無関心への転化)への過程の一部です。
エ SNS時代においては、他者と適切な距離を保つ自己防衛の術を身につけるべきであること。
これは筆者の提言や対策であり、警鐘を鳴らしている「問題点」そのものではありません。筆者はある問題に対して警鐘を鳴らし、その上でこのような対策を提案しています。設問は「警鐘を鳴らしていること」を問うているため、提言は直接の答えにはなりません。
3. まとめ:筆者の「警鐘」を見抜くには
問題の深刻さを示す表現に注目する:
「~ことさえある」「~危険性がある」「憂慮すべき事態」など、筆者が事態の深刻さやネガティブな帰結を示唆する言葉遣いに注意します。これらは筆者の懸念や警告のサインです。
原因と結果の連鎖を捉える:
筆者が「Aが原因でBが起こり、さらにCという好ましくない結果に至る」という論理展開をしている場合、最終的な「C」の部分が最も警鐘を鳴らしたい事態であることが多いです。
提言や対策と、問題指摘を区別する:
筆者が示す解決策やあるべき姿(提言)は、その前提となる問題点や懸念(警鐘)とは区別して読み取る必要があります。設問が何を問うているか(問題点か、解決策か)を正確に把握しましょう。
筆者が何に対して最も強い懸念を示しているのか、その「警告のメッセージ」を的確に捉えることが、現代文読解の重要な鍵となります。