現代文読解の秘訣:具体と抽象の区別

なぜ「具体と抽象の区別」が重要なのか?

評論文や論説文では、筆者はあるテーマに対する抽象的な主張や考えを読者に伝えようとします。しかし、抽象的な話だけでは理解が難しいため、具体的な事例やデータ、比喩などを用いて説明を補強します。

読解で大切なのは、以下の点です。

  1. 筆者の中心的なメッセージである「抽象的な主張」を見抜くこと。
  2. 「具体的な説明」が、どの「抽象的な主張」を裏付けるために用いられているのか、その関連性を理解すること。

設問の多くは、この「抽象的な主張」部分の理解度を問います。具体例に目を奪われすぎず、文章全体の構造の中で筆者の真意を掴むことが重要です。

それでは、具体的な問題で見ていきましょう。

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

都市における「緑地」は、単に景観を彩る装飾的な存在として捉えられるべきではない。公園の木々や芝生、街路樹の連なり、あるいは近年注目される壁面緑化や屋上庭園といった試みは、確かに私たちの目に安らぎを与え、都市の美観を高める。しかし、それらの機能は、より広範で深遠な価値の一端に過ぎない。例えば、緑地はヒートアイランド現象を緩和し、大気浄化に貢献するといった環境調節機能を持つ。また、多様な生物の生息空間を提供し、都市の生態系を豊かにする役割も担う。さらに重要なのは、人々が集い、憩い、交流する場としての機能である。子供たちが駆け回る公園、木陰で読書にふける老人、語り合う若者たち。こうした光景は、緑地が地域コミュニティの形成や住民の精神的な充足感、ひいては都市生活全体の質の向上に不可欠な「社会的インフラ」として機能していることを示している。したがって、都市計画において緑地を確保し、その質を高めていくことは、美観や環境問題への対応という具体的な便益を超えて、人間らしい豊かな都市生活を実現するための根源的な投資と言えるだろう。

問1 この文章で筆者が最も強調したい緑地の価値は何か。次の中から最も適切なものを一つ選びなさい。

都市の景観を美しくし、人々の目に安らぎを与える装飾的な機能。

ヒートアイランド現象の緩和や大気浄化といった環境調節機能。

地域コミュニティ形成や精神的充足感に寄与し、都市生活全体の質を高める社会的な基盤としての機能。

多様な生物の生息空間を提供し、都市の生態系を豊かにする生物多様性保全機能。

解答・解説

正解:ウ (←選択後に表示されます)

1. 本文の分析:具体と抽象の区別

まず、本文を「抽象的な主張・考え」と「具体的な説明・事例」に分けてみましょう。

具体的な緑地の種類と機能(具体例・説明):
  • 緑地の種類:公園の木々や芝生、街路樹、壁面緑化、屋上庭園。(具体的な緑地の形態)
  • 具体的な機能1(景観・環境):目に安らぎ、美観向上、ヒートアイランド現象緩和、大気浄化。
  • 具体的な機能2(生態系):多様な生物の生息空間提供、都市生態系の豊かさ。
  • 具体的な機能3(人々の活動):子供が遊ぶ、老人が読書、若者が語り合う。(緑地での具体的な人々の様子)

抽象的な緑地の価値・筆者の主張:
  • 緑地は単なる装飾的存在ではない。(筆者の基本的な立場表明・抽象的な否定)
  • 具体的な機能は「より広範で深遠な価値の一端に過ぎない」。(具体を超えた抽象的な価値の存在を示唆)
  • 「さらに重要なのは」、地域コミュニティ形成、住民の精神的充足感、都市生活全体の質の向上に不可欠な「社会的インフラ」としての機能。(筆者が特に重視する抽象的な価値・機能)
  • 都市計画における緑地確保・質向上は、美観や環境問題への対応(具体的便益)を超え、人間らしい豊かな都市生活を実現するための「根源的な投資」である。(筆者の最終的な結論・抽象的な価値判断)

構造のポイント:

筆者は、まず公園や街路樹といった具体的な緑地の形態と、それらがもたらす景観向上や環境調節といった具体的な機能を列挙します。しかし、「それらの機能は一端に過ぎない」「さらに重要なのは」と議論を発展させ、緑地がコミュニティ形成や生活の質の向上といった、より抽象的で社会的な価値を持つ「社会的インフラ」であり、「根源的な投資」であると結論付けています。

2. 設問(問1)の解説

設問は「筆者が最も強調したい緑地の価値」を問うており、これは本文中で筆者が「さらに重要なのは」や結論部分で提示している抽象的な価値に対応します。

ア 都市の景観を美しくし、人々の目に安らぎを与える装飾的な機能。

これは本文で言及されている緑地の具体的な機能の一つですが、筆者はこれを「一端に過ぎない」とし、緑地を「単に景観を彩る装飾的な存在として捉えられるべきではない」と述べているため、最も強調したい価値ではありません。

イ ヒートアイランド現象の緩和や大気浄化といった環境調節機能。

これも緑が持つ重要な具体的な環境機能ですが、筆者はこれらをも「一端に過ぎない」とし、さらに深遠な価値があると論を進めています。したがって、これが最も強調したい点ではありません。

ウ 地域コミュニティ形成や精神的充足感に寄与し、都市生活全体の質を高める社会的な基盤としての機能。

この選択肢は、筆者が「さらに重要なのは」と導き、「社会的インフラ」「根源的な投資」と結論付けている緑地の抽象的かつ社会的な価値を的確に捉えています。「都市生活全体の質の向上」という包括的な表現も、筆者の主張のスケールと合致します。これが正解です。

エ 多様な生物の生息空間を提供し、都市の生態系を豊かにする生物多様性保全機能。

これも緑地の具体的な機能の一つとして本文で述べられていますが、筆者が「最も強調したい」としているのは、より人間社会や生活の質に関わる抽象的な価値です。生態系保全も重要ですが、本文の論旨の中心は選択肢ウにあります。

3. まとめ:読解で「具体と抽象」をどう意識するか

「単に~ではない」「~に過ぎない」といった表現に注目:

これらの表現は、筆者が具体的な事象や一般的な見解を一度提示しつつ、それを超えるより本質的・抽象的な議論へ読者を導こうとするサインです。

「さらに重要なのは」「本質的には」などの強調表現を探す:

筆者が議論の核心や、特に重視する抽象的な考えを提示する際によく用いられます。

具体例がどの抽象的主張を例証しているか確認する:

本文では、公園での人々の活動という具体的な光景が、「社会的インフラ」という抽象的な機能を説明するために挙げられています。この対応関係を捉えることが重要です。

結論部分の抽象的なキーワードを把握する:

筆者が最終的に用いる「社会的インフラ」「根源的な投資」「人間らしい豊かな都市生活」といった抽象度の高い言葉が、主張の核心を示しています。

具体的な現象の羅列から一歩進んで、それらが示すより大きな、抽象的な意味や価値を筆者がどのように捉えているかを見抜くことが読解の鍵です。

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