現代文読解の秘訣:具体と抽象の区別

なぜ「具体と抽象の区別」が重要なのか?

評論文や論説文では、筆者はあるテーマに対する抽象的な主張や考えを読者に伝えようとします。しかし、抽象的な話だけでは理解が難しいため、具体的な事例やデータ、比喩などを用いて説明を補強します。

読解で大切なのは、以下の点です。

  1. 筆者の中心的なメッセージである「抽象的な主張」を見抜くこと。
  2. 「具体的な説明」が、どの「抽象的な主張」を裏付けるために用いられているのか、その関連性を理解すること。

設問の多くは、この「抽象的な主張」部分の理解度を問います。具体例に目を奪われすぎず、文章全体の構造の中で筆者の真意を掴むことが重要です。

それでは、具体的な問題で見ていきましょう。

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

人口減少や高齢化が進む地方において、新たな地域活性化の担い手として「関係人口」という概念が注目を集めている。これは、定住人口でも観光客でもない、特定の地域に継続的かつ多様な形で関わる人々を指す。例えば、都市部に居住しながら週末だけ故郷の農作業を手伝う人、地域の祭りに毎年参加する人、あるいは遠隔地から専門スキルを活かして地域のプロジェクトに参画する人などがこれにあたる。こうした具体的な関わりは、地域に新たな視点や活力を吹き込み、経済的な効果のみならず、文化の継承やコミュニティの維持といった面でも貢献が期待される。しかし、関係人口の増加が直ちに地域の課題解決に結びつくわけではない。受け入れ側の地域住民との意識共有や、継続的な関わりを促すための仕組みづくりが不可欠である。重要なのは、関係人口という具体的な現象を、単なる労働力や消費の担い手として捉えるのではなく、地域と多様な人々が相互に作用し合いながら新たな価値を共創していくという、より抽象的でダイナミックなプロセスとして理解することだ。この視点に立つとき、関係人口は、地域社会の持続可能性を高め、そこに住む人々の生活の質を豊かにする新しい形の「共生」を実現する鍵となり得るのである。

問1 この文章で筆者が最も重視している「関係人口」の捉え方はどのようなものか。次の中から最も適切なものを一つ選びなさい。

週末に農作業を手伝ったり、祭りに参加したりする都市住民の具体的な行動形態のこと。

地域の労働力不足を補い、消費を拡大させることで地域経済を活性化させる手段としての存在。

地域と多様な人々が相互作用し、新たな価値を共創するダイナミックなプロセスであり、新しい共生の形を実現する可能性のこと。

受け入れ側の地域住民との意識共有や、継続的な関わりを促す仕組みづくりが不可欠な、地域活性化の新たな課題のこと。

解答・解説

正解:ウ (←選択後に表示されます)

1. 本文の分析:具体と抽象の区別

まず、本文を「抽象的な主張・考え」と「具体的な説明・事例」に分けてみましょう。

具体的な説明・事例(「関係人口」の現象と課題):
  • 「関係人口」の定義:定住でも観光でもない、継続的・多様な関わりを持つ人々。(概念の定義)
  • 具体的な例:週末の農作業手伝い、祭り参加、遠隔プロジェクト参画。(関係人口の具体的な行動例)
  • 期待される具体的な効果:新たな視点・活力、経済効果、文化継承、コミュニティ維持。
  • 具体的な課題:受け入れ側との意識共有、仕組みづくり。(関係人口活用のための具体的な必要事項)

抽象的な主張・筆者の結論(「関係人口」の本質的意義):
  • 関係人口の増加が直ちに課題解決に結びつくわけではない。(安易な期待への釘刺し)
  • 重要なのは、関係人口を単なる労働力や消費の担い手(具体的な機能)として捉えるのではなく、地域と人々が相互作用し新たな価値を共創する「より抽象的でダイナミックなプロセス」として理解すること。(筆者の主張する本質的な捉え方)
  • この視点に立つとき、関係人口は、地域社会の持続可能性を高め、生活の質を豊かにする「新しい形の『共生』」を実現する鍵となり得る。(関係人口が持つ抽象的な可能性・筆者の最終的な結論)

構造のポイント:

筆者は、まず「関係人口」という具体的な概念とその事例、期待される効果、そして課題を提示します。その後、「重要なのは」という言葉を挟んで、関係人口をより抽象的で本質的なプロセスとして捉え直すことを提案し、それがもたらす「新しい形の共生」という抽象的な可能性を結論として示しています。

2. 設問(問1)の解説

設問は「筆者が最も重視している『関係人口』の捉え方」を問うており、これは筆者が「重要なのは~」と導き、最終的に結論付けている抽象的な本質や可能性に対応します。

ア 週末に農作業を手伝ったり、祭りに参加したりする都市住民の具体的な行動形態のこと。

これは本文で挙げられている「関係人口」の具体的な事例の一つであり、筆者が最も重視している「捉え方」という抽象的なレベルの話ではありません。

イ 地域の労働力不足を補い、消費を拡大させることで地域経済を活性化させる手段としての存在。

筆者は関係人口を「単なる労働力や消費の担い手として捉えるのではなく」と述べており、この選択肢は筆者がむしろ限定的だと考えている具体的な機能に留まっています。筆者のより抽象的で本質的な捉え方とは異なります。

ウ 地域と多様な人々が相互作用し、新たな価値を共創するダイナミックなプロセスであり、新しい共生の形を実現する可能性のこと。

この選択肢は、筆者が「重要なのは~より抽象的でダイナミックなプロセスとして理解することだ」「新しい形の『共生』を実現する鍵となり得る」と述べている抽象的な本質と可能性を的確に捉えています。これが正解です。

エ 受け入れ側の地域住民との意識共有や、継続的な関わりを促す仕組みづくりが不可欠な、地域活性化の新たな課題のこと。

これは関係人口を活用する上での具体的な課題であり、筆者が重視する「捉え方」そのものではありません。課題認識は重要ですが、筆者の主張の核心は、その課題を乗り越えた先にある抽象的な可能性にあります。

3. まとめ:読解で「具体と抽象」をどう意識するか

「単なる~ではない、むしろ~だ」という構造に注目:

筆者が具体的な現象や限定的な理解を一度否定し、より本質的・抽象的な理解を提示する際によく使われる論法です。

具体例の列挙から筆者の抽象的な定義・結論へ:

筆者はまず具体的な「関係人口」の姿を描写し、そこから議論を発展させて、それが持つ抽象的な意味や可能性(価値共創プロセス、新しい共生)へと論を進めています。

キーワードの抽象度を見極める:

「農作業の手伝い」は具体的ですが、「価値共創プロセス」や「新しい形の共生」は抽象的な概念です。筆者が最終的にどのような言葉で対象を捉え直しているかに注目します。

選択肢が具体例か、抽象的主張かを判断する:

設問が「最も重視している捉え方」を問うている場合、具体的な行動例や機能の指摘に留まる選択肢よりも、それらを包含し、より本質的・抽象的な意義を述べている選択肢が正解となる可能性が高いです。

具体的な社会現象を分析し、その奥にある抽象的な意味や可能性を読み解く力を養うことが、現代文の深い理解に繋がります。

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